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<2005/02/04>

「改革のグランドデザイン案」に関する見解を公表

 昨年10月に提示された「今後の精神保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」(以下「GD案」という。)に関して、本日(2月4日)、本協会としての見解を公表しました。

 この間、様々な障害者団体等が、障害種別毎の、あるいは、共同での要望書や見解等を出す中で、利用者本位、当事者主体となる政策立案過程において、専門職団体としては、その要望や意見等の方向性を充分見極めることが必要と考えてきました。

 そうした状況を踏まえて、本見解を是非ともご一読ください。

 なお、2月10日、GD案の具体化にむけた実定法となる「障害者自立支援法案」が閣議決定される予定であることから、近日、当該法案への見解についても検討する予定です。


2005年2月4日

「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」に関する見解

社団法人日本精神保健福祉士協会
 会 長 高 橋   一

 昨年10月12日に厚生労働省障害保健福祉部から社会保障審議会障害者部会に提出された「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」(以下「グランドデザイン案」という。)は、同年9月2日に厚生労働省精神保健福祉対策本部が3検討会(※)のまとめに基づき作成公表した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」の内容を相当程度盛り込みつつ、精神障害固有の問題は精神保健福祉法改正に委ねるものとした。また、介護保険制度との統合化については短期間内に課題整理をするものと位置づけている。

 1993年の障害者基本法により法的根拠を得た精神障害者福祉施策は、依然として隔離収容政策という精神医療の歴史的産物としての差別偏見を伴う状況にあり、他障害との比較においても著しく立ち遅れている。ようやくこの間、医療と福祉との法律分化を要望する声が本協会を含めた多団体から挙がり、精神保健福祉法の改正内容に期待を寄せていたところに、この「グランドデザイン案」が示された。

 グランドデザイン案は、障害保健福祉施策の総合化を謳っており、そうした理念には反対するものではない。また幾つかの点においては多くの当事者、関係者団体の要望が取り入れられた形となっており、一定評価はできると思われる。しかし、今後提示される具体策を注視していかねばならないが、既に示された「基本的考え方」や「具体的な見直しの内容」に対しては、精神障害者の福祉施策が他障害の福祉施策と横並びになる可能性よりも、ますます社会参加を阻まれる方向への逆行を危惧させる内容が含まれているため、本協会としての見解と提言を以下に記すものである。

<基本的な視点>

 障害保健福祉施策の総合化の中で謳われている「市町村を中心に年齢、障害種別、疾病を越えた一元的な体制を整備」し、「地域福祉を実現」することは、これまでの制度間の狭間問題を無くし、身近な市町村において人生における障害保健福祉サービスをトータルに捉えてサービス提供を保障していくこととして、誰しも望む目指すべき姿と考える。しかし、「自立支援型システムへの転換」で言われている自立支援は、身体障害領域を端緒として主張されてきたいわゆる自立生活運動における自立概念と異なる感が否めない。ここでは、就労支援等の自立支援サービスが強調されており、一時期主張されていた納税者となることをもって「自律」と捉える方向性を強いている感が強い。精神障害者に関してはいまだ「社会的入院者」と呼ばれる長期入院者が多く、社会から隔離されている間に社会で暮らす能力を奪われ、そのイメージすら持ち合わせにくくなっている者も少なくない。社会的入院者が地域社会で暮らしていくためには、医療機関内でのリハビリテーションだけではなく、地域でその人なりに暮らして行くための地域と連携した退院促進への支援や、暮らしを具現化するため支援が必要である。このような支援を福祉サービスとして検討していくことも求められているにもかかわらず、そのうえで成り立つ自立支援が先行してしまっている感が強い。

 また、制度の持続可能性の確保は、激動著しい障害保健福祉施策においては望むところであるが、「公平な費用負担と配分の確保」は明らかに財源破綻から導かれた主張であり、公平論が実質的な公平を述べるものではないことは一目瞭然としている。生活保護制度と同程度の最低生活基準による障害者の所得保障を確立して後、また選択可能な社会資源の整備を果たして後の定率負担導入の議論は検討すべき時代の土壌を、措置から利用契約という流れの中で作りえていると考える。

 しかし、現段階での税負担者とサービス利用者との間の不公平感の解決策を、介護保険への統合化を見据えた定率負担導入に求めることは、見せ掛けの公平論にしか過ぎず、許容しがたい。拙速な費用負担導入は、需要を制約する以前に需要そのものを見えにくくする弊害しか生まない。国民が納得するシステムをつくるためにも、まずは掲げられた「障害等に対する国民の正しい理解を深める国の取り組み」を文部科学省や総務省など他省庁との横断的連携の下に重点的に実行することを求めるものである。

 グランドデザイン案は、「社会福祉基礎構造改革」の理念を基にした福祉8法改正の流れの延長に位置づけられるように見える反面、実質的には三位一体改革路線に基づく国の福祉財源縮小方向が強烈に見え隠れし、最終的にその方向性に無理に合わせた施策案が多い点を残念極まりないものと受け止めている。

<基本的な課題>

1.障害者に関する福祉法の一元化を早急に検討着手すること
 障害種別毎の福祉法の谷間や狭間で、障害認定を受けられない障害者の生活問題を福祉的に解決するためにも、「障害者福祉法(仮称)」といった総合的な法律の枠組みを作るべきである。また、精神障害者においては医療・保健・福祉が一つの法律の枠組みに盛り込まれた歪さを持つことから、法律上は医療と福祉を切り分け、有機的な連携を図れるように組みなおす意味からも、早急に障害者に関する福祉法の一元化を検討着手することを求める。

2.障害定義と障害認定基準についての見直しを早急に行う必要があること
 現行では、「知的障害」の定義がないことや、精神障害が精神疾患により規定されていることなど、障害種別によって法律上の定義のあり方に大きな差異が生じている。このことは、グランドデザイン案の理念実現の最大の隘路となりかねない問題である。現在の手帳制度の認定基準がまちまちであることや、疾病による障害程度認定への影響が大きいことからも、早急にICF(国際生活機能分類)に基づく生活者の視点による福祉制度の利用可能な認定制度に変更していくことを求める。

3.社会資源整備は時限立法措置も視野に入れて国の責任で計画化すべきであること
 グランドデザイン案では、サービス提供体制の整備やサービス体系再編については触れられているが、社会資源の整備については盛り込まれなかった。公的責任による社会資源の整備無しに、費用負担を求める契約型の福祉サービスに、生計を一にする者への負担も伴って移行することは、サービス利用が真にニーズを持つ者ではなく、費用負担が可能な者に制約され、福祉需要を見えにくくしてしまうものである。新たに予算確保をしなくとも地域内の既存の資源活用を計画することも含めてのインフラ整備を先ずは優先することを求める。

4.応益負担導入の必要条件は、障害者の所得保障であること
 差別禁止法を実定法として持たないわが国においては、障害者の雇用施策の貧困と相まって、障害者の所得保障は低水準の年金制度に頼るしかない。そのことが家族から自立した生活の確立を阻む要因にもなり、家族・扶養義務者の経済的・精神的負担を強化し、家族関係をも悪化させる背景となっている。また、差別禁止法のない中での地域生活を支えるサービスが果たして「益」であるかという論点もある。所得保障と選択可能な資源整備を果たした上で費用負担に関する議論を持てるまでは、これまでどおり応能負担を継続することを求める。

<精神保健福祉施策の個別的な課題>

1.「良質」を担保するシステムを早急に整備すること
 「良質な精神医療の効率的な提供」と謳うからには、その「良質」を担保するためのマンパワー改善策が盛り込まれるべきである。またその養成策も必要である。さらに、質の点検システムとしての権利擁護機関やオンブズマン制度を医療から独立した第三者機関として設置することを求める。今回は措置入院受け入れ医療機関の看護のマンパワーにしか踏み込んでいない。

2.社会的入院者約7万人に関しての受け皿を整備すること
 今後10年間で7万床相当を減らすとして、精神病床数に踏み込んだことは一定評価できるが、1年以上の長期入院群への対応には、医療と地域支援体制の協働や3障害共通の自立支援システムとあるのみで居住資源等の対策は盛り込まれていない。
 長期入院群は、病棟の機能分化の関連および極めて重度の障害者に対するサービス確保として示されているように、病棟から新類型の施設への変更もしくは医療モデルによるケア提供対象と読み込めないことはない。果たして居住サポート事業がその対応策として期待されるものであるが、同事業が障害者地域支援事業として個別性が加味されず、もっぱら地域特性や利用者状況に応じた市町村事業として落とし込まれると、市町村格差が激しく残る可能性も危惧される。退院者が集中する病院集中地域では介護保険下の入居前居住地に出費を求める構造と同様になるか、入院者の少ない地域は逆にそうした事業が進まない可能性もあろう。

3.病床数の減少促進に関する年次計画とその具体策を示すこと
 「今後10年間で約7万床相当の病床数の減少」を促進することが政策目標に掲げられたが、各都道府県の平均残存率と退院率の指標が対策として挙がっているのみである。特に1年以上の長期入院患者群に関しては、本人の病状や意向に応じて「医療と地域生活支援体制の協働」の下、段階的に計画的に地域生活への移行を促進することが記されているが、医療機関や地域自治体によっては、以前からこの努力は取り組まれており、それでも地域生活への移行がなかなか進まない現状への積極的対策が窺えない。真に自らの意思で長期入院を求める患者は一人として存在せず、長期入院を助長することとなった諸制度の問題は少なからずや大きい。自らが希望する食事を摂取するささやかな喜びさえ享受することなく、長期入院の末に人知れず逝かれる患者を独りでも無くすことへの積極的な施策を予算が伴った国策として打ち出すべきである。

4.社会参加や地域自立生活を想定できる体験サービスを位置づけること
 自立概念と関連するが、介護給付や自立支援給付の利用のための自立支援計画の作成の前に、社会的入院者の退院促進支援事業で行われているような、障害当事者同士や市民らの参加も含む体験訓練を医療モデルによるリハビリテーションではなく、福祉サービスとして予算上もマンパワーとしてもサービス形態としても位置づける必要がある。また、宿泊体験などの箱物についても福祉サービスとして、居宅支援事業のショートステイとは別立てで位置づけることを求める。そうした事業を相談支援事業の一類型に位置づけ、国費の支払い制度を検討すること。体験の機会は精神障害当事者に可能性の発見をもたらすばかりか、医療従事者のパターナリズムによる精神障害者に対するネガティブな評価を打ち破りリハビリテーションにも大きく寄与するものである。

5.通院医療公費負担制度については当分現行のまま継続すること
 指定機関制度とすることは評価できるが、負担増の実行の前に綿密な実態把握調査等を行い、医療中断や経済的困窮ゆえに医療を受けられない状況に置かれる人を無くさなければならない。コストパフォーマンスは、アウトプットの量の増減や、他制度との整合性、歴史的期間といった指標のみでなく、同時に当該制度の利用が精神障害者の権利保障や福祉の向上に結びつき、結果として治療中断者や未治療者が減っているかどうかなどの指標で評価することが本質的で欠かせないものである。

6.雇用政策との連携および就労に関するインフラを整備すること
 今回は就労移行支援事業が強調されており、施設外授産や職場適応訓練事業等の効果的活用および要支援障害者雇用事業が設定されたことで、支援システムの強化は伺える。しかし、現在でも授産施設や小規模作業所などでの請負作業が発注中止になるなど不況の影響下にある中で、支援システムを有効に機能させていくためには、協力受け入れ先の開拓等、各種産業界との雇用政策との連携をいっそう推し進める必要がある。また、すべてのハローワークにあらゆる障害に対応できる障害者職業相談員の確保を求める。

7.当事者、関係団体間の意見調整の場と期間を保障しながら検討を図ること
 基本的な課題に関する各団体間での合意形成はそう困難ではないと思われるが、具体策や個別課題に反映される内容を詰めていく段階においては、共通の枠組みには網羅できない障害特性や疾病特性があり、意見調整が欠かせない。現在、財源問題からの圧力に屈せずに、時間をかけて本質的な議論を深める段階を迎えている認識は各団体が持ちえており、厚生労働省障害保健福祉部が関係省庁とも連携し、日本の障害保健福祉施策の舵取りを担うことを切に要望する。

(※)心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会、精神病床等に関する検討会、精神障害者の地域生活支援の在り方に関する検討会


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