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<2004/03/24>

精神保健福祉士として「障害者自立支援法」とどう向き合うか?
「障害者自立支援法案」に関する学習会、3月13日開催〜障害保健福祉施策の改革〜

 障害者自立支援法案(以下「法案」)が今国会で審議されるにあたり、この法律が「障害のある人もない人も、誰もが安心して自分らしく生活をしていくことのできる社会の実現のためのものであってほしい!」というのは誰もが思っていることではないでしょうか?
 法案が出されてから、全国各地で様々な学習会やシンポジウムが開かれていますが、この法律について知れば知るほど、迷路に入り込んだような思いになっていくのは私だけでしょうか?ひとつひとつの説明を聞くと、「なるほど」と納得はするものの、全体的に捉えようとすると、ひとつひとつのピースが微妙にずれているジグソーパスルのような印象というか、違和感を覚えずにはいられないとういうのが、正直な思いです。
 法律が変わるということは、目的が変わることになり、障害者自立支援法成立によって、私たちが日頃かかわっている方の生活にも様々な影響がでてきます。精神障害者の方の地域生活支援に携わっている私たち自身が、「障害者自立支援法」をきちんと理解し、適切に活用していくことが今、私たちの重大課題だと思います。ただ天から法律が降ってくるのを待つのではなく、自分たちにとって必要な法律となるよう、行政ときちんと連携を取り、意見調整をしていくことが急務だと思います。

 そこで本協会は、矢島精神保健福祉課長(厚生労働省 社会・援護局 障害福祉部)をお招きし、さる3月13日(日)、都市センターホテル(東京都千代田区)において、「法案」についてあらためて学習と意見交換を行う場を設けました。

 
▲写真:法案について説明される矢島精神保健福祉課長(右)

 はじめに矢島課長から約60分、グランドデザイン案/障害者自立支援法が出されるまでの経過とこの法律の目玉(矢島課長の言うところの)についての説明をしていただき、その後、予定した時間をオーバーする白熱した質疑応答が行われました。
 参加者全員に共通する思いとして、「改革の流れがあまりに猛スピードなため法律の内容についての理解が追いつかない上に、理念は一貫しているものの内容が日々変化していくことに対しての不安感(不信感?)があること」、「利用者負担の導入(本人ではなく世帯収入でみていくことも含め)による影響」、「通院医療費公費負担制度(32条)の変更による影響」、「改革の流れに都道府県及び市区町村の体制は追いつくのか?」、「市町村が立てる市町村障害福祉計画において、ニーズ調査は適正に行われるのか?」、「雇用促進の考えには大賛成だが、施設の類型化が就労を軸に行われることへの疑問(就労支援は地域生活支援の中のひとつであるのに、就労が前面に出されることに対して)」、「法外施設(小規模作業所)の位置づけはどうなるのか?」、「症状と生活(仕事)能力は正比例ではない」、「何を基準に極めて重度と評価するのか?」などがあり、質疑応答でもこの点についての質問が出されていました。

 応益負担の導入については、「支援費の反省を踏まえており、支援費の理念はよかったが義務的経費としていなかったため、利用者は増えても予算は増えなかった。そのために財源が破綻した経緯があるので、この法律においては義務的経費とし、また継続したものとしていくために自己負担(利用料)を導入することとした。しかし、負担額を発表した後、全国各地より多くの声が寄せられ、負担額については今、調整のための研究をしているところだ」との説明がありました。
 また、世帯収入で見ていくことに関連して、「精神障害者の方は病気になったことのスティグマにより負い目を感じています。また、収入がなく家族からのお小遣いで過ごしている方も多くいることなどから、家族(保護者)との関係において様々な困難さを抱えています。にもかかわらず、本人のみの収入ではなく世帯全体の収入で見ていくということは、また親に負担をかけてしまうという思いから、ますます生活のしづらさを負わせることになるのでは」という意見に対して、「保護者規定は知的・身体でも同じであり、地方分権/三位一体の時代になり、今後どうしていくか?という時に3障害共通の枠組みを作ることが大事だという意見から作ったものだが、どうも皆さんからの賛同が得られない」と矢島課長より投げかけられました。
 それに対して会場から直接の反応はありませんでしたが、私たちの訴えてきた「3障害共通に」の理念と今回の法案の「3障害共通で」の理念とでは根本的な違いがあるという思いは会場の全員の中にあったように感じました。この法案の成り立ちが、今までの実践の積み重ね、当事者中心のものではなく、財政難から出てきたものであることが大きいのではないでしょうか?とはいえ、3障害共通の枠ができたことは確かなので、ここからどう展開していくかが今後の課題であり、市町村障害福祉計画が重要となってきます。

 
▲写真:質疑応答の様子

 「実態に即した市町村障害福祉計画を立てるためには、市町村がきちんと実態を把握し、本当に必要なサービスを計画するために本人や家族を含めて、表面的ではない調査が大事ですが、その理念を行き渡らせるためにも政省令できちんと伝えてほしい」という意見に対しては、「3月18日に行われる“障害保健福祉関係主管課長会議”においてきちんと伝えます」ということでした。
 また、“皆さんも市町村にきちんと伝えていくことと計画をきちんとチェックし、足りないものをきちんと伝えていく”必要性を、矢島課長は強調されました。国としても、市町村障害福祉計画を全国的に見比べ、チェックをしていくとのことでしたので、『全国的にレベルの高いサービスの提供が行われることを期待していいのかな?』と少し明るい思いを抱くことができました。
 市町村計画に基づき都道府県障害福祉計画が立てられるのですが、同計画は医療計画と連動させおり、都道府県は退院促進計画も立てるそうなので、市町村・都道府県の計画をメンバーと共に十分にチェックをし、不必要な入院の解消および安心して生活できる環境整備について、行政と共に築いていけるよう声をあげていかなければ!と思いました。
 法外施設についても、「新事業体系(施設類型)への移行への道を作り、基準外予算として補助金をつける」とのことなので、市町村に対して、自分たちの実践をきちんと説明し、理解を得られるようにしていくことと法内施設としてではなく、法外施設として事業を行っていく必要性をきちんと伝えていくことが重要だと思います。
 
 「何を基準に極めて重度と評価するのか?」の質疑を通して実感したのは、今ある制度・評価等について、疑問を感じながら、「ではどうしたらよいのか、もっとよい方法はなにがあるのか」について、きちんと提案できない、していない自分の力不足でした。日々の実践の中でメンバーと共によりよい方法を築くことをしてきてはいても、その実践を理論としてきちんと伝えられないもどかしさがありました。現場で実践しているからこそできる、実践に基づいたサービス提供を法律の中に組み込んでいくためにも、私たち自身が自分の実践を言語化し、行政をはじめ、広く国民の方の理解を得られるような活動を行っていくことも重要な役割だと思います。
 机上の空論ではない、実践を基にした理論を築いていくことも現場で活動をしている私たちに求められていることのひとつだと思いました。「障害者自立支援法」を自分たちの手で、血の通った法律とするためにも、現場で日々実践をしている私たち自身が、自分たちの手で・言葉で理論の組み立てを行い、行政と協働していくことが重要だと思いました。

(文責:和田 朋子/事務局)


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