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<2004/11/26>

「心神喪失者等医療観察法」に関する現段階での見解

 2005年7月までの施行に向けた準備作業が大詰めをむかえている「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」に関して、本日(11月26日)、本協会が考える現時点での課題と改善への取り組みを求める見解を公表しました。

 つきましては、是非ともご一読いただきたく、よろしくお願いいたします。


2004年11月26日

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」
に関する現段階での見解

社団法人日本精神保健福祉士協会
 会 長 高 橋   一

 国は、現在「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下、医療観察法)の2005年7月までの施行に向けた準備作業を進めている。報道等によると、指定入院医療機関の整備は、独立行政法人国立病院機構の病院や公立病院の指定手続きや建設着工が、地元住民の根強い反対もあり遅れている。当初予定されていた30床規模の専門病棟の全国24か所の設置についても、一部で病床数を縮小する形での病棟設置や既存病棟での改修による設置も許容するなど、法施行の難しさを物語っている。

 一方で、国は本年3月に、医療観察法の鑑定、指定入院医療機関運営、入院処遇、指定通院医療機関運営、通院処遇、地域処遇に係るガイドラインの試案を公表し、その後も関係諸団体の意見も取り入れながら改変した内容について公開し、来年1月のガイドライン策定に向けた作業を進めている。法運用上の根幹となるガイドラインの策定経過を情報公開してきたことに加え、入院処遇及び通院処遇のガイドライン(案)では、処遇の目標・理念の一つに「標準化された臨床データの蓄積に基づく多職種のチームによる医療提供」が掲げられ、精神保健福祉士も対象者の社会復帰調整を主に担う職種として位置づけられていることは、一定の評価が与えられるものである。

 本協会は、2003年7月の医療観察法成立を受けて、同年8月13日に法成立に当たっての見解を表明し、医療観察法の諸課題について引き続き改善・解決への取り組みを求めていくことや、医療観察法の対象となる人々を社会で受け入れていくための方策を怠ってはならないことを確認した。この見解に基づき、本協会の理事を中心とした諸会員は、これまで厚生労働科学研究や司法精神医療等人材養成研修の企画等に参加し、精神障害者の人権擁護と社会復帰・社会参加を促進する観点から意見を述べてきた。

 また、医療観察法に規定された精神保健参与員や社会復帰調整官の中心的な職種が精神保健福祉士であることからも、本協会は法の目的である対象者の社会復帰が形骸化され、社会からの隔離へと目的が変質しないよう、今後もこの法制度に関心と関与を持ち続けなければならない。

 私たち精神保健福祉士は、精神保健福祉に対する認識の低さ等の地域社会における様々な矛盾や地域精神保健福祉システムの貧困といった困難状況の中にあっても、従来から重大な他害行為を行った精神障害者とかかわりを持ち続けてきた。私たちが大切にしてきたその「かかわりの視点」は、新しい法制度の下でも何ら変わるものではないことを確認したうえで、現時点で以下のような課題があり改善への取り組みが必要であると考えている。

1.審判における精神保健参与員の関与

 医療観察法の審判における精神保健参与員の役割は、対象者の社会復帰の見通しや、必要とされる処遇及び環境調整の内容について、専門的な立場から具体的な意見を述べることにある。精神保健参与員は、ソーシャルワーク実践の相当の経験に基づき、対象者の可能性に焦点化した意見陳述が必要となる。
 すでに、司法精神医療等人材養成研修が始まっているが、精神保健参与員が最低限獲得すべき知識や技術の習得に些か不安を抱かせるカリキュラム内容や時間配分となっていることから、来年度以降の研修ではその内容の充実が図られるとともに、研修参加にかかる交通費等の経費についても配慮される必要がある。

2.指定入院医療機関における入院処遇

 入院処遇における精神保健福祉士の役割は、入院当初からの丁寧なかかわりを通して対象者との信頼関係を構築したうえで、対象者の社会復帰の調整を具体的に進めていくことにある。指定入院医療機関では30床規模の病棟で2名の精神保健福祉士の配置が予定されているが、具体的な社会復帰調整には、対象者の意向を踏まえたうえでの退院予定地の社会復帰調整官や指定通院医療機関、利用が想定される社会復帰施設等の関係機関との連絡調整に相当の時間と労力を要することから、より適正な数が配置される必要がある。
 また、入院中の対象者には、第三者性が担保された外部の権利擁護者が定期・不定期に訪問し、直接面接ができるようなシステムを早急に検討する必要がある。なお、指定入院医療機関に配属される精神保健福祉士の業務においては、入院中の対象者の権利に関する情報提供が位置づけられ、権利擁護について精神保健福祉士が十分機能できるよう業務を保障すべきである。

3.指定通院医療機関における通院処遇

 現時点での指定通院医療機関運営ガイドライン(案)によると、基幹型指定通院医療機関の要件として臨床心理技術者、作業療法士、精神保健福祉士の配置が盛り込まれている。しかし、これらのコメディカル職種がすでに配置されている医療機関でも、ほとんどの場合は業務対象が入院患者に集中しており、新たに医療観察法の対象者のケアのために時間を割くことが難しい現状にある。また、医療観察法の対象者のためだけに新たにコメディカル職種を配置することは、医療経済上不可能である。
 このため、厚生労働省・精神保健福祉対策本部が決定した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(2004年9月2日)における精神医療改革策に連動させる形で、アウトリーチ型の外来中心医療への早急な転換を図り、最低でも外来部門に専従の精神保健福祉士を配置できるような診療報酬体系の構築が急がれる。

4.対象者の地域内処遇

1)都道府県及び指定都市の精神保健福祉センターは、精神保健福祉の技術的中核機関であることから、医療観察法の対象者の地域ケアが適切に実施されるよう、地域の関係機関・施設等の職員を対象とした研修を実施する必要がある。
 また、同センターは精神保健福祉に関する複雑困難な相談指導を業務としていることから、医療観察法の対象者も含めた重度精神障害者の地域ケアの推進のために、アウトリーチを基本とした多職種によるケアチームの配置が検討される必要がある。

2)医療観察法の対象者に限らず精神障害者全般の地域ケアが円滑に行われるよう、人的資源の充実が望まれることから、保健所及び市町村への精神保健福祉士の配置や精神障害者社会復帰施設等のサービス提供機関の増員が促進される必要がある。

3)地域内処遇の中心的な役割を担う社会復帰調整官は、対象者の地域生活支援のコーディネートが本務であり、地域ケア関係者の過重な期待は社会復帰調整官の孤立化を招きかねない。このため、地域内の精神保健福祉関係機関の精神保健福祉士等は、社会復帰調整官と積極的な連携を図る必要がある。
 また、社会復帰調整官は一部を除き保護観察所に1人の配置とされているが、制度の充実に向けて早急に複数配置とする必要がある。

4)医療観察法の対象者の地域生活には地域住民の理解が欠かせない。これまで以上に精神障害者に対する差別と偏見の解消に向けた国民への情報提供等が必要である。

 最後に、医療観察法の目的が対象者の社会復帰の促進にあるとすれば、最も重要なことは、対象者の地域生活の維持であり、そのための継続的なケアが保障される地域生活支援システムが生活圏を中心に整備されることである。対象者の地域内処遇は、現行の精神保健福祉サービスの活用を前提としていることから、早急にこれらの地域間格差の解消と飛躍的な充実が図られなければならない。


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