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<2009/06/19>

第19回今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会が開催されました 

 6月18日(木)10時より、航空会館(東京都港区)において、標記検討会が開催されました。事務局より資料として、「地域医療体制のあり方・入院医療体制のあり方について」が示され、「1.入院医療における病床等の機能(総論)」「2.地域医療体制と精神科医療機関の機能」「3.精神科医療機関における従事者の確保について」の3点に分けて議論がなされました。

1.入院医療における病床等の機能(総論)

 まず始めに、事務局より提示された資料の妥当性について疑問がある、という声が複数あがりました。特に、精神症状がある方が地域生活に移行するケースは少なくなく、精神症状の有無と生活能力は別次元の問題であり、精神症状の有無と退院可能性を並べて考えることが馴染まないのではないか、という発言がなされました。

 また、資料中の精神科入院患者のIADLに関する記述について、入院中はIADLに関わる力を発揮する場面は少ないため、調査結果は本来の能力を反映していないのではないか、との指摘がなされました。当事者の構成員からも、入院中に認知症になることや、施設症の可能性を考慮していない資料になっているのではないか、との意見が出されました。

  加えて、データや症状、専門家の判断に固執することなく、誰の人生なのかということをよく考え、本人の希望に沿う選択をすべきではないか、という発言がなされました。

1)「精神保健医療福祉の改革ビジョン」との関連について

 平成16年9月に厚生労働省精神保健福祉対策本部より出された「精神保健医療福祉の改革ビジョン(以下「ビジョン」という)」の中間にさしかかり、特に病床数等については、ビジョン後の施策効果と現状の課題との関連性を検討会に示し、それを踏まえたうえでの方策を検討するべきなのではないか、という意見が出されました。同様に、提示された資料はあくまで現状を示しているだけにすぎず、ビジョンは厚生労働省が公表した省をあげて取り組むべき課題であり、その政策評価について厚生労働省側の見解を示してほしい、という声も上がりました。

 以上の意見に対して、事務局より、ビジョンにおける具体的達成目標とは、「国民意識の変革」「精神保健医療福祉体系の再編」の2点であり、「約7万床相当の病床数の減少」は「目指す」という位置づけであった、との説明がなされました。加えて、「精神保健医療福祉体系の再編」の達成目標である「残存率の改善」は、数字として効果が見られるが、病床数や患者数の減少につながっていない現状があり、総論としては想定した結果を得られていないということなのではないか、という見解が示されました。しかし、ビジョン策定当時は認知症等についての議論があまりなされなかったという実情があり、状況の変化を踏まえた議論を行う必要があるのではないか、との指摘もなされました。

 事務局の説明に対して、構成員からは、「約7万床相当の病床数の減少」は目標を達成することによって効果としてあらわれるという前提の話であったはずなのではないか、との反論がなされました。また、認知症に関しても、ビジョン策定時点ですでに話題には出ていたはずだが、との指摘もありました。 

 それに対して事務局からは、目標を達成すれば自ずと効果が出てくると想定していたが、現実にはそれ以上のメカニズムや想定外のファクターが働いており、効果として数字に表れていないのではないか、また、認知症に関する議論はなされていたが、ビジョンの内容に反映できていなかったため、その点を踏まえた議論が必要だ、との発言がなされました。

 構成員からは、具体的施策あっての目標であり、なぜ効果を得られていないのか、何が不十分であったか、をきちんと検証すべきではないか、検証しながら今後の検討を進めていかなければ、議論が深まっていかないのではないか、との意見が出されました。

 最後に、当事者の構成員から、人権侵害は今現在も続いており、病床削減を目指すということを再度確認し、実行するべきである、との発言がなされました。

2)適切な医療環境、生活の場の確保について

 人員配置基準、診療報酬については、精神科医療を一般医療の中の一つの科としてきちんと位置づけ、一般科と足並みをそろえた基準設定が必要だ、との意見が多く上がりました。特に精神科特例については、廃止時期を明確に設定し、具体的に進めていく必要があるのではないか、との指摘もなされました。

 また、人員配置は各病院の努力によって改善も見られており、一般科と同じ配置基準を設定することで、より良い医療の提供につながっていくのではないか、との意見も出されました。

 一方、人員確保については、地域差が非常に大きく、地域によっては基準があがっても対応しきれない現状もあるのではないか、との指摘がなされました。まずは、必要な人員を供給できる体制や仕組みづくりが重要であり、基準をあげるだけでは医療環境の改善にはつながらないのではないか、という発言がなされました。

 また、高齢精神障害者の地域生活移行にあたり、グループホーム、老人保健施設が退院後の「居住の場」としてあげられることが多いことから、あくまでご本人の意向を尊重するということが大前提であるが、選択肢が増え地域移行が進むのであれば、数の確保も必要なのではないか、との意見も上がりました。

2.地域医療体制と精神科医療機関の機能

 「地域医療体制の整備について」および「医療計画制度における精神科疾病の位置づけについて」の2点について議論がなされました。

1)地域医療体制の整備について 

 まず、地域体制の整備は重要事項であり、施設数は絶対的に足りない現状にある、との発言がなされました。 また、精神障害者の高齢化に伴い、介護サービスを利用する方が増えているが、絶対数が足りないだけでなく、サービス内容が実情に合わない点も多く、利用しにくい現状がある、との指摘がなされました。また、家族会の構成員からは、若いうちから自立できるような生活環境を整えてほしい、という要望が出されました。

 加えて、今後増加すると想定される認知症の方々の生活の場をどのように確保するかは大きな課題であり、出口をいかに用意できるのか、ということが重要である、との意見が出されました。加えて現役世代人口の減少を考慮すると、精神科病床を一律に削減していくだけでなく、認知症患者の入院受け入れに生かしていくことも大切なのではないか、との発言も出ました。

 また、地域医療体制を考えるうえで、往診やリエゾン体制の構築は非常に重要であるが、現に往診を行っている医師の多くが高齢であるという印象があり、診療報酬による明確な位置づけと教育体制を整える必要があるのではないか、との指摘がなされました。

 さらに、訪問看護やACTも含めて、広義の救急体制として捉え、地域医療体制を整えることを目指してはどうか、また往診をはじめとした危機介入は病院の医師と診療所の医師が協力して行っていく必要があるのではないか、との意見が出ました。また、機能連携が円滑に行われるためには連携や調整機能の整備も併せて検討する必要があるとの意見が出ました。

2)精神科医療の医療計画上の位置づけについて

 精神科医療が医療計画に必ず記載すべき「4疾病5事業」に含まれていないことについて、いかに評価するかが大切であるだけでなく、精神科疾患は国民の健康を大きく損ねる要因となっていることから、精神科医療を4疾病5事業にぜひ加えてほしい、という意見が複数あがりました。英国では精神科疾患が三大疾患として定義されているという例も示され、国としてしっかり取り組むという意志を示す意味でも、5個目の疾病として加える必要があるのでは、との声があがりました。

 加えて、各自治体ではそれぞれの部署ごとにさまざまな計画を定めることになっているが、それぞれの計画の相互の連携がとれていない、という現状が指摘され、福祉計画との連携についてもきちんと考えるべきではないか、との発言がなされました。

 一方、計画を策定することはできても、法体系や財源などから現実的に実行が困難な場合が多く、指針等がきちんと示されないと実現できない地域が多いのではないか、という指摘もなされました。医療計画は、地域性を出すための計画であり、市民感覚との乖離が生じないよう、注意する必要がある、との発言がなされました。

3.精神科医療機関における従事者の確保について

 精神科医療機関における従事者の確保については、事務局資料に加え、長野構成員より資料「愛媛県南宇和郡愛南町における地域精神医療福祉の職員配置の推移」が示されました。 長野構成員からは、厚労省が示したビジョンをもとに、人員配置の改革を行ってきた経緯が説明され、病院勤務者が急に地域機関勤務へ移行することの困難さや再教育等の必要性等、人員配置を大きく変革するには、様々な課題があり、長期的視野での計画が必要、との指摘がなされました。

 構成員からは、欧米と違い日本は民間病院が多いことから、人事異動等で人員数をカバーできないという現状があるため、地域内でカバーしていく体制づくりが必要なのでは、との発言がなされました。

 看護師の職能団体の構成員からは、看護師は女性が多いため、出産、育児等を考慮すると、精神科病院の立地は交通の便がよくないところが多く、通勤時間がネックになる場合がある、との指摘がなされました。しかし、実践している医療や看護の内容が勤務する上での重要な判断材料でもあり、人員配置をあげる等、質の高い看護を実践するための手段を講じることで、人員確保につながるのではないか、との発言もなされました。 

 医師の職能団体の構成員からは、医療業務以外の書類作成等の業務が非常に増加傾向にあり、医師の負担が更に大きくなっている、との意見が出され、書類を簡便にする等の工夫をし、より多くの人手を確保することが大切なのではないか、との指摘がなされました。

 最後に、国民がどのような精神科医療を望んでいるかが最も大切であり、安心して医療にかかることができる体制が何より大切である、との発言がありました。当事者の構成員からは、それぞれの専門職団体が精神科医療の実態について情報収集をしっかり行って実情を把握し、幅広い視点で議論を進め、国の制度としての仕組みを整えるべきだ、との指摘がなされました。

 次回の検討会は7月9日(木)10時〜12時30分の日程で、はあといん乃木坂(東京都港区)にて開催される予定です。

傍聴記録:事務局 今井悠子

配布資料(WAMNET090619)へリンク


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