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<2009/06/23>

第5回目となる「権利擁護に関するシンポジウム」に150人が参集!

       
権利擁護シンポジウム会場 開会挨拶をする河合山形県協会会長 150人が集った会場 シンポジストの皆さん

 2009年5月23日(土)、山形市保健センター(山形県山形市)において、社団法人日本精神保健福祉士協会(以下「本協会」という。)主催による「権利擁護に関するシンポジウム」が開催された。本シンポジウムは、精神障害者の人権擁護に関する啓発を目的とし、これまでに4回開催され、第5回目となる今回は「地域移行と地域ネットワークづくり−精神障害者の人権という視点から−」と題し意見・情報交換がなされた。

 はじめに本協会権利擁護委員長である岩崎香氏より「精神障害者の人権状況と支援のあり方について」と題し講演いただいた。権利擁護委員会の機能および活動内容について触れた後、精神障害の“見えない障害”という特徴について述べ、人権に関しても同様で“自分の身に降りかからないと実感しにくい”という特徴に触れることで、参加者の人権に対する意識を喚起した。また、人権侵害の歴史から現在、批准に向け動いている「障害者の権利条約」についても説明した。その上で「権利の侵害と擁護は表裏一体である」ことを指摘し、支援者のパターナリズムが正当化される恐れについて述べ、気づきを促した。そして当事者の人権について向き合う際には、抑圧された環境では防衛機制が強まり、人権侵害があってもその環境に順応しようとしてしまう傾向について触れ、理想だけではかかわれない難しさと、気づきが持てる感受性を育む大切さについて説明した。そして最後に「障害者の権利条約」について、新たな権利を謳うものではなく、これまであった権利を保障しようというものであるとし、批准に向けて動いていくよう、一人ひとりが意識を持つことの重要性を説いた。

 シンポジウムでは3名の方から発表いただいた。当事者である松岡氏は、精神病を患った自分を恥じ、健常者として見られたいという想いで必死に生きてきた歴史を語り、自分と同じような苦しみを持ち、家族や住み慣れたところから離れ、病院や施設にて生活している人がたくさんいる現状を憂い、理解と支援の輪を広げ“社会全体”でこの問題について考えて欲しいと投げかけた。そして、日本国内のどこに生まれ育っても明るい希望を持てる社会であるために、根幹である医療・福祉・教育等の社会保障の整備を切に願うと語った。

 医療法人二本松会山形さくら町病院の永田氏からは、山形県における地域の現状について、社会資源が乏しいと言われる一方、社会資源をつくっても利用する人が少ない等、本当に必要なものが市町村に伝わっていない状況について説明した。その上で、長期入院によりリハビリが病院内に限定され、家族や地域とのつながりが希薄化し、住所が形骸化すること等を原因とし、一度は地域で生活することを望むも、諦めて現状に納得し病院での生活に慣れていってしまう当事者の心の動きについて述べた。これらを踏まえた上で、山形さくら町病院における退院前・後の取り組みについて紹介し、家族や地域が参加してのケースカンファレンスが増え、これまでのような病院主導の一元的支援から地域主導の支援へ移行している等の変化について説明頂いた。また当事者にとってではなく、医療機関や地域にとっての安心・安全を重視した支援になっていないか、常に点検する目を持ち、当事者を中心とした地域と医療機関における支援の包括的統合を目指す大切さを訴えた。

 本協会権利擁護委員でもある特定非営利活動法人MEWの三木氏からは、所在地である武蔵野市の地域性を紹介しながら、東京都における地域移行への取り組みについて、退院促進支援事業(退院促進コーディネート事業,グループホーム活用型ショートステイ事業),広域支援退院促進支援事業について説明いただいた。ミューのグループホームにおける取組みや、退院促進事業を受託しての実践について紹介し、そこでは元利用者などのピアの力を借りながら、地域生活に戻りたいと思って頂ける支援の工夫を課題とした。またそこでは支援者が当事者を“評価”するのではなく、“何が得意でどの部分においてサポートが必要なのか”をアセスメントする機能を充実させる必要性について説いた。その上で、誰しもに認められた「希望する場所で暮らす権利」について、憲法第22条と障害者の権利条約第19条を引用し、その実現のためには、当事者の症状にばかり目を向けるのではなく、当事者のもつ力を信じ共に取り組む支援者の視点が重要であると述べた。

 シンポジウム後のディスカッションでは、参加者から多数の意見・質問があがった。当事者からは楽しみを見出せない辛さや、都心における自立支援法をめぐる動きについて、病院職員からは希望を失いかけている当事者にどう希望を抱いてもらえばよいか、弁護士からは地域ネットワークづくりの一員に入れて欲しいという声などが上げられ、積極的な意見交換がなされた。

 まとめでは、心と心の絆を持ち、役割に固執せずに共に考える仲間として取り組む事や、一方向的なものではなく、当事者・支援者共に取り組む双方向性を築く事が、豊かな地域ネットワークづくりにつながる事を共有した。また、シンポジウム終了後には、エールを頂いた当事者が松岡氏の下に駆け寄り握手を求めるなど、単なる意見・情報交換ではない、心と心の交流の場になったことがうかがえた。

 
写真/山形県協会の皆さんほか

 本シンポジウム開催にあたっては河合会長をはじめとする山形県精神保健福祉士協会(本協会山形県支部)の皆様の多大なる協力の下、無事開催することができた。また、山形県に実践の場を置く本協会副会長の小関氏には、日頃のご関係から山形新聞に事前に取り上げていただいた上、当日も取材にお越しいただき、翌日の新聞に掲載いただいた。これらのご協力のお陰で、本シンポジウムは定員120名のところ、約150名もの参加をいただくことができた。

 多くの当事者・関係者と共に、温かい雰囲気と場を共有し、のびのびとした意見交換がなされたことに心から感謝したい。そして精神障害者の権利についての意識を高める貴重な時間となったことを最大のお土産として、まずは報告者自身の身近なところから、この意識の共有を図ることを「私の権利擁護実践」としていきたいと感じた。

報告者:田波裕美(本協会権利擁護委員/横浜丘の上病院)


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