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<2009/07/31>

21回今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会が開催されました 

 

 7月30日(木)10時より、航空会館(東京都港区)において、標記検討会が開催されました。今回は「精神保健福祉法に関する課題等について」を議題とし、事務局より資料として、「精神保健福祉分野における制度改正の経緯」「入院制度・精神医療審査会について」「申請・通報制度、移送制度について」「行動制限・入院中の処遇について」が示され、主に「入院制度と保護者制度のあり方について」「移送制度について」「行動制限・入院中の処遇について」の三点について意見が出されました。

1.入院制度と保護者制度のあり方について

1)現行の入院制度と精神保健福祉法における保護者制度について

 まず、家族の同意を要する入院形態が存在することについての疑問の声が複数の構成員から上がりました。特に、現場での支援経験から、この制度によって本人と家族の関係性が悪化するケースが少なくないことを指摘する意見が複数出されました。また、家族との継続した関係性が乏しいにもかかわらず、入院が必要になった際には日常的に関わっている支援者ではなく、家族の同意が必要な場合があること等に対する疑問の声や、保護者がいないと何もできないのではないかという偏見を持たれることにもつながるのではないか、という点を危惧する声もありました。また、医療保護入院自体が保護者と病院との契約関係になっていることもあり、病院側も家族の意向を気にする傾向があることから、家族の反対により退院が進まないこともあるのではないかという意見も上がりました。

 加えて、家族会の構成員より、精神保健福祉法自体に予防の観点が抜けており、入院処遇、特に入院させるためにどのような流れをとるか、という点に記述が偏っており、法律のあり様が古いのではないか、との指摘がなされました。また、精神面のみならず、入院費用等、家族の負担は非常に大きく、家族が支えることの限界についての発言もなされました。

 また、医師である構成員からは、医療保護入院は本人や家族だけでなく、精神保健指定医にとっても問題がある制度であるとの意見が出されました。特に小さな地域では、医療保護入院時の指定医診察を行った者が主治医を担わざるをえないケースもあり、時に強制力を発揮せざるをえず、築き上げてきた信頼関係の再構築が必要になることもある、ということが指摘されました。

 以上の意見等に基づき、医療保護入院における保護者同意の規定において家族を外すことや、医療保護入院規定自体の削除、行政が積極的に同意に関わるような仕組み作りを求める声等が上がりました。併せて、保護者制度は撤廃すべきだが、その裏付けとして、権利擁護機能をより整備する必要があり、例えば自治体に権利擁護機能を備えた拠点を持たせ、定期的に本人と関わりを持つような有効な仕組みを作ること等を検討する必要があるのでは、との声が上がりました。また、そのためのマンパワーや財源確保の必要性についても言及されました。 精神医療審査会についても、当事者である委員を必ず含める等、本人の権利擁護体制をしっかり整えるべき、との意見が出されました。その点については、当事者の構成員より、理想的なことではあるが、当事者の体調等を考慮し、どこまで関わることができるかも含めて検討する必要がある、という意見がなされました。

 一方、認知症による入院については、他の精神疾患との違いから個別に何らかの基準や規程を設ける必要があるのではないか、という意見が出されました。特に、今回事務局より提示された資料からは、認知症による入院者の約半数が任意入院の形式での入院であることが読み取れるが、その多くが本来医療保護入院の手続きをとるべき方々なのではと推察される、という点が指摘され、あいまいな現状を問題視する声が聞かれました。

 最後に、当事者の構成員より、現在の保護者制度は、本人や家族のためではなく病院での処遇のために活用されている向きがあり、その点が大きな問題であるとの指摘がなされました。医療保護入院制度は本人のために活用されるべきであって、家族との関係が悪くなるものであってはならないということが重ねて主張されました。その上で、どの入院形態で入院しても満足して退院できるような医療体制が必要であり、誰の権利を守るための制度なのかをもう一度考える必要があるのではないか、との指摘がなされました。 

2)民法の監督義務規定について

 民法における監督義務規定についても、複数の疑問の声が上がりました。特に、家族会の構成員からは、民法第714条「責任無能力者の監督義務者等の責任」で「損害賠償」の規定があることを例にあげ、民法が家族に要求していることには無理があるのではないか、という意見が出されました。そのような意見を踏まえ、民法の監督義務者規定についても見直しを求める声が上がりました。

 一方、学識の構成員からは、精神保健福祉法の医療保護入院規定と民法における監督義務規定については問題の整理が必要であり、医療保護入院は契約手続上のことが主だが、民法第714条は他者へ危害を与えた状況について被害者への責任保障の観点で存在する法であることから、家族の保護者規定を廃止しても免責されるとは限らないという点が指摘されました。また、もしその役割から家族を外す場合には、責任の所在を併せて検討する必要があり、海外にあるrepresentative centerのようなものを作るという意見もあるが、それはあくまでも手続き代行機関に過ぎず、直接サービスの提供ができるわけではないことを踏まえて検討しなければならないという見解が示されました。

 最後に、入院制度と保護者制度全体について、どこに向かって進んでいけばよいかが分からず現場が非常に混乱しているという現状が報告され、将来像をはっきりさせたうえで、長いスパンで民法規定から一つ一つ見直していく必要があるのではないか、との意見が出されました。

2.申請・通報制度、移送制度について

 まず、現状についての運用状況とその評価が十分になされていないことについて、疑問の声が上がりました。 特に、事務局資料にも記載のある通り、平成12年の施行時より実施実績のない自治体も存在し、運用上の地域格差があるという印象が強いことから、検証をしっかりすべき、との指摘がなされました。

 その上で、現在の運用状況について、いくつかの問題点が指摘されました。まず、民間警備会社の移送への関与について、事務局資料においては「事例が発生していた」と過去形で記述されているが、そのような状況は現在も継続して発生しており、過去の出来事ではないことを国もしっかり認識してほしい、という意見が出されました。また、保健所の削減等にともない、保健所職員と地域で暮らす精神疾患のある方が関係性を築くことのできない状況にあることが指摘され、マンパワーの確保の必要性が指摘されました。

 加えて、精神保健指定医の不足により、措置診察等が通報地で実施できない場合も多く、現場が混乱しているという現状や、その場合、移送に危険を伴う可能性があるが、警察の関与が地域や担当者によってバラつきがあり、保健所職員のみの対応では不十分なのではないか、という懸念が報告されました。そもそも、精神保健指定医が不足していることが問題であり、当事者の人権の観点からも移送制度の実態を把握し、訪問診療との関連性も含め、どのような運用が望ましいのかを考える必要性があるのではないか、という意見が出されました。

 また、精神保健福祉法第34条では、移送制度の対象者について既に診断により精神障害者と認められている者であることを前提としているが、国が定める法律である以上、診断前の人も含め医療が必要な者全てを網羅する法律であるべきではないか、との指摘がなされました。そのうえで、移送制度とそれに伴う判断基準等について、システム作りから見直すことで、運用の方法や現行の運用に問題がないのか、といった点を確認し、修正していくことができるのではないか、という意見が出されました。さらに、制度創設当初の議論において、移送制度を活用するにあたっては慎重に行うようにすることから、この部分において専門家の判断がしっかり入るということに意味があったはずであり、その重要性を再確認すべきだが、慎重にということで返って運用面では行政が関与せずに民間移送会社に丸投げになっている現状があり、見直すべきであるという意見が出されました。

 これらの意見に対して、当時者の構成員からは、警察は犯罪を取り締まるための機関であり、精神障害者の保護は本来執務ではないはずだが、実態としては警察署の保護室で24時間を超えて精神障害者を保護している場合もある。当事者の仲間の多くも警察の関与を望んでいないということが強く主張されました。移送制度については、自治体にチェック機能が与えられたと捉え、24時間安心して精神科医療にかかるための行政の仕組みを作ってほしい、という意見が出されました。

 通報制度については、矯正施設の長からの通報制度(26条)については資料にも、実際の診察に至ったのは1割にも満たない実態が報告されているように、現場からは、病状的には十分外来治療で済むが、居住の場が確保できないがために入院制度に関する通報が活用されている実感が強く、被通報者要件の見直しをすることや、刑余者の出所者支援の制度等で解決することではないかという意見が出されました。

3.行動制限・入院中の処遇について

  まず、事務局より提示された任意入院者の閉鎖処遇と開放処遇に関する資料のデータについて、病院の構造上、閉鎖病棟で個別に開放処遇を行っている場合も十分ありうるため、資料の妥当性についての疑問がある、という指摘がなされました。

次に、看護師の職能団体の構成員より、職能団体として「行動制限最少化」を目指し活動をしているが、指示をする医師や看護師自体の不足によって、実行が難しい現状にあるとの発言がなされました。当事者の利益のためにも、基準を明確にし、ガイドラインの作成などが必要と考えるが、国の見解をまず示してほしいという意見が出されました。

 資料には、医療観察法病棟との比較における治療のアメニティや人員配置などが隔離・拘束の実施率を下げているということが明らかであること、また海外の事情なども紹介され、人員配置を厚くする等の対応をとるべきとの発言がありました。複数の構成員から、根本的に人員配置が少ないことに問題があり、入院者の処遇が改善するためにも、マンパワー確保が急務である、との声が上がりました。

 また、地域移行支援に携わる構成員からは、入院中の方と話をしている際に、ご本人が自身の主治医や入院形態、処遇状況を理解しておらず驚いた経験がある、との報告がなされ、国連が示している被拘禁者処遇に関するガイドラインの基準の確認も含め、基準やガイドラインの検討・確立を望みたい、との意見が出されました。

 また、一般病院での身体拘束については、精神保健福祉法が及ばない部分であり、危なさがあるので、その点についてもフォローしていく必要があるのではないか、という指摘もなされました。

 最後に、精神保健福祉法のあり方について、いくつか意見が出されました。まず、障害者基本法と精神保健福祉法について、障害者の定義について捻じれがあり、整合性をはかる必要があるのではないか、という意見が出されました。加えて、障害者自立支援法制定以来、精神保健福祉法に福祉についての位置づけが弱くなっているように感じられることから、全体の組み立てを再度検討する方がよいのではないか、との意見が出されました。これらの指摘については、事務局より今後話し合いの場を設けることが明言されました。

 また、家族会の構成員より、本検討会の委員構成について、当事者や家族会の構成員が各1名しかいない現状では、伝えたいことが伝えきれない可能性もあり、本来は、サービスを受ける側と提供する側、半分ずつの構成にすべきではないか、との指摘がなされました。加えて、委員構成の検討が難しい場合にも、当事者や家族のヒアリングを積極的に行い、当事者や家族の声を積極的に反映すべきではないか、という発言がなされました。

 当事者の構成員からは、人と人との関わりが原点であり、関わりのあり方が精神障害者の立場を変えるということが改めて指摘され、やれることをやる、人任せにしないことを関係者には求めたい、という要望がなされました。

 次回(第22回)の検討会は8月6日(木)15時30分〜18時00分の日程で、航空会館(東京都港区)にて、開催される予定です。

傍聴記録:事務局 今井 悠子

配布資料(WAMNET090731)へリンク


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