機関誌「精神保健福祉」

通巻106号 Vol.47 No.2(2016年6月25日発行)


目次

巻頭言 「地域包括支援」における精神保健福祉士の役割を考える/岩尾  貴

特集 子どものメンタルヘルスと精神保健福祉士

〔総説〕
子どもの貧困をめぐる動向と政策の課題/原  昌平
「チームとしての学校」におけるスクールソーシャルワーカー(精神保健福祉士)の役割/岩永  靖

〔各論〕
子どもの貧困問題に対する精神保健福祉士の役割/大西  良
子ども虐待防止に活かすべき精神保健福祉士の機能とその課題―メンタルヘルス問題のある親への生活・子育て支援を考える/松宮 透
精神障害のある親をケアする子どもと精神保健福祉士の役割/森田久美子

〔実践報告〕
教育相談室勤務から考えるソーシャルワークの可能性/岡本 亮子
発達障害のある子どもと精神保健福祉士の実践/知名  孝
児童虐待防止と精神保健福祉士の実践/加藤 雅江
ユース・メンタルサポートセンターMIEにおける子どもへの支援―若者精神保健相談を通した精神保健福祉士の役割/山本 綾子
子どもの貧困における地域実践―豊島子どもWAKUWAKUネットワークの取り組み/天野 敬子
通信制高校における生徒の支援の実践/川上 芳夫
精神障害のある親の子育て支援を考える会(カンガルーの会)の活動/辻本 直子・栄 セツコ・榎原 紀子・平田はる奈

誌上スーパービジョン クライエントと“関係性を築く”とは ──スーパーバイザー/柏木  昭 

◇トピックス
改正障害者雇用促進法について=三木 良子
「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」に至る背景と今後=青木 聖久
アルコール健康障害対策基本法について=岡ア 直人

情報ファイル
第1回ソーシャルフットボール国際大会」について=平山 惣一
「ACTブロック別研修会in中部:ネットワーク・対話・家族〜病院から地域、その後は?〜」に参加して=大野美子
日本地域司法精神保健福祉研究大会報告=三品 竜浩
第1回全国精神保健福祉フォーラム(チイクラフォーラム)」に参加して=寺西 里恵
「日本心理教育・家族教室ネットワーク第19回研究集会」について=小島 智子

リレーエッセイ/Tシャツとジーパン .元井 昭紀
連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」
・協会の動き/坪松 真吾
・この1冊/松本すみ子・金井 浩一
・投稿規定
・協会の行事予定
・想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク〜(15)
・2016年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧
訂正とお詫び


巻頭言

「地域包括支援」における精神保健福祉士の役割を考える

石川県健康福祉部障害保健福祉課 岩尾  貴

 国は「新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討プロジェクトチーム」を設置し、時代に即した、ニーズに即応できる地域の福祉サービスの包括的な提供の仕組み等について検討を重ね、2015(平成27)年9月に「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」を取りまとめた。ビジョンでは、(1)新しい地域包括支援体制の構築(包括的な相談支援システムの構築、高齢、障害、児童等への総合的な支援の提供、(2)効果的・効率的なサービス提供のための生産性向上、(3)総合的な人材の育成・確保の3つの方向性を示した。ここでは、国民が抱える福祉ニーズの多様化・複雑化を踏まえ、単独の相談支援機関では十分に対応できない、いわゆる「制度の狭間」の課題の解決を図る観点から、複合的な課題を抱える者等に対する包括的な支援システムを構築するとともに、地域に不足する社会資源を創出するなどの取組みが求められている。こうした課題は、本来ソーシャルワーカーが取り組むべき領域であり、「地域包括支援」が有効に機能するかは、ソーシャルワークの視点がどれだけ活かされるかにかかっている。しかし、今回のビジョンにはソーシャルワークを専門とする精神保健福祉士という名称は登場しない。このことは、私たちの実践が、当事者のニーズに応えきれていないことを物語ってはいないだろうか。私たちの実践課題は当事者の主体性の確立と自己決定の実践的支援である。「地域包括支援」は、私たち精神保健福祉士が実践課題としている当事者性が重視されてこそ機能するのであって、一方的な問題解決型の支援では、当事者の真のニーズに応えているとはいえない。

 日本精神保健福祉士協会は、「中期ビジョン2020」の中で、「ソーシャルワークを基盤とした地域包括支援を担える人材の育成と社会への提供」をうたっている。そのためには、一人ひとりの精神保健福祉士やそれぞれの地域で当事者の生活を支えるために、制度の枠を超えて人と人、資源と資源をつなぐ、創る、育てる取組みが求められている。日本協会と都道府県精神保健福祉士協会が連携し、各地域における実践力 上を目指した人材育成の取組みが必要と考えている。

 

特集 子どものメンタルヘルスと精神保健福祉士

 「子どもの権利」は、「子どもの権利条約」において(1)生きる権利、(2)守られる権利、(3)育つ権利、(4)参加する権利の4つの柱が示されている。これらの権利が脅かされている地域社会の現状がある。子どものメンタルヘルスの課題は、子どものみならず親や学校、地域社会にも広がっている。児童虐待や子どもの貧困、いじめや不登校等の子どもを取り巻く課題の背景に子どもやその親のメンタルヘルスの課題が多く存在している。

 2008(平成20)年から「スクールソーシャルワーカー活用事業」が始まり、スクールソーシャルワーカーである精神保健福祉士の実践等が報告されている。しかし、非常勤が多く十分な配置がなされず、子どもを取り巻く課題は年々深刻な状況になっている。そのような背景のもと、2015(平成27)年7月より文部科学省では「チームとしての学校」におけるスクールソーシャルワーカー(精神保健福祉士・社会福祉士等)の配置について検討がなされ、今後精神保健福祉士の活躍が期待されている。

 一方、子どもの虐待の増加を踏まえて、2016年3月に「新たな子ども家庭福祉のあり方に関する専門委員会」(社会保障審議会児童部会)報告(提言)の中で、より高度な児童福祉司の配置やスーパーバイザーの配置等が示され、高度な専門職が求められている。そこで、「子どものメンタルヘルス」にかかわる精神保健福祉士の実践を踏まえて、ソーシャルワーク業務を担う位置づけを示す必要がある。

 今特集では、子ども家庭福祉の施策の動向を踏まえて、その背景にある子どものメンタルヘルスを担う精神保健福祉士の役割について、「子どもの貧困」、「児童虐待」、「ヤングケアラー」等の課題から共に考えたい。そして、子どものメンタルヘルスを担う精神保健福祉士の実践から果敢に挑戦する精神保健福祉士の現状や思いを共有し、自身の実践に引き付けて考える機会とソーシャルアクションを展開する契機となることを期待したい。

(編集委員:坂本智代枝)


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