機関誌「精神保健福祉」

通巻110号 Vol.48 No.2(2017年7月25日発行)


目次

巻頭言 知の継承/尾形多佳士

特集 拡散化するメンタルヘルス課題と精神保健福祉士の役割 地域包括ケアシステムの到来に向けて

〔総論〕
全世代・全対象型地域包括支援と精神保健福祉士/松本すみ子

〔各論〕
精神障害者の地域包括ケアシステムにおける精神保健福祉士の役割/木太 直人

〔実践報告〕
新たな地域精神保健福祉医療体制の構築に向けて;地域生活を支援する医療機関であるために/名雪 和美
保健所における地域実践;和歌山市保健所が担ってきたネットワークづくりの変遷から地域包括ケアシステムを考える/松岡信一郎
地域包括支援センターにおける精神保健福祉士の役割;広島市基町地域包括支援センターの取り組みから考える/増本由美子
相談支援事業所における地域実践;精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを見据えて/徳山 勝
路上生活者支援の実践報告/槙野 友晴
「キングコング」脱福祉への挑戦;支援する側される側からの脱却を目指して/外間 章浩
北九州成年後見センターの地域実践;法人後見における精神保健福祉士の役割/今村 浩司他
備災のための地域包括ケアシステムを目指して/松田聡一郎

〔特別寄稿〕精神保健福祉士に期待すること
精神科看護師の立場として/吉川 隆博
当事者・ピアスタッフの立場として/内布 智之
一精神疾患経験者の立場として/原田 幾世

◇研究ノート
・「年金権利型」と「ジャッジ型」でジレンマを抱える精神保健福祉士;障害年金と就労との関係性を通して/小島  寛 他
・精神障害者の地域生活支援におけるクライシス・プランの有用性と活用に向けた今日的課題/狩野 俊介

◇座談会 機関誌刷新特別企画;機関誌編集を通してみる精神保健福祉士
/石川 到覚・柏木 一惠・川口真知子・古屋 龍太・松本すみ子 司会/渡部 裕一・オブザーバー/洗  成子

・協会の動き/坪松 真吾
・協会の行事予定
・2017年開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧
・投稿要項


巻頭言

知の継承

さっぽろ香雪病院 尾形多佳士

 本機関誌が17年ぶりにリニューアルされた。社会情勢の移り変わりや時代の変遷に伴い、本協会も変容を遂げていくことは必然である。今回の機関誌のリニューアルはそのことを見事に反映しているといえる。しかしながら、「変化」と「進化」は必ずしもイコールではない。私たちは、PSWの先駆者たちが築き上げてきた知見やノウハウを正しく継承できているのだろうか。本協会は設立53年を迎えているが、この先達が残した「知」を適切に継承していくことは火急の課題といえる。

 さて、2016(平成28)年12月17日に「会長経験者懇談会」が開催された。これは、本協会ならびに本協会の前身となる日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会等の会長(理事長)経験者であって、現に本協会の構成員である5名の「伝承者」と、「継承者」の代表たる現会長および副会長、常務理事、常任理事等が一堂に会する、2016年度に新設された年1回の稀有な機会である。その「伝承者」とは、柏木昭名誉会長をはじめ、大野和男さん、門屋充郎さん、橋一さん、竹中秀彦さん(歴任順)の5名。残念ながら門屋さんは欠席となったが、4名が放つ気品に満ちた威厳と風格、しかし醸し出すどこか温かく懐かしい雰囲気に私はずっと引き込まれていた。4名の先覚は今のPSWを取り巻く情勢をわれわれ以上に的確にとらえ、本協会の行く末を心から案じてくださっていた。ここでその詳細を伝えることはできないが、数々の珠玉の助言と激励は、常任理事として、そしてPSW個人として多大な感銘を受けた。

 ここでの「継承」とは単に知を引き継ぐにとどまらず、「再現性」が保証されなければ意味がない。伝承者が積み上げてきたPSWとしての優れた価値、知識、技術、考え方、判断基準等に基づく具体的な実践を、私たちはどの時代でも同様に再現していかなければならない。そのためには、組織財産の保全を目的に、あまたの先人の実践知や経験知の体系的整理がなされ、知の継承をオフィシャルな協会活動へ位置づけていくことが重要である。世代を超えた知の集積と継承をスムーズに推し進めるべく、微力ながら会務に専心する決意を新たにしている。


拡散化するメンタルヘルス課題と精神保健福祉士の役割;地域包括ケアシステムの到来に向けて

 昨今の精神保健福祉士の現場や実践においては、児童や高齢者、生活困窮者問題など、従来の精神保健医療福祉分野に限った課題だけではない、横断的で多様な福祉課題に直面している現状がある。

 一方、ここ1年間ほどの間に立て続けに公表された一連の国の動き・社会福祉の動きも、同様に「分野横断的・全世代対応型」の必要性を謳い、あらゆる地域生活上の相談と解決に、「丸ごと」対応するシステムが求められている。

 今後、縦割りの支援だけでなく、個人、あるいはひとつの家庭で複合的な課題を抱えている人たちに、包括的な支援(ワンストップを含む)を展開できるよう、そしてさらには行政や専門職だけではなく、地域住民がみんなで作り上げる支援の仕組みを構築するため、地域福祉の枠組み全体を変えようとしている状況である。

 まさにソーシャルワーク専門職である精神保健福祉士に「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」に示されているソーシャルワークの任務の「社会変革」と「社会開発」と「社会的結束」が期待されているのである。

 読者には今特集号から、国が示した地域福祉体制の方向性を理解すると同時に、多様化・拡散化の一途をたどる福祉・メンタルヘルス課題に対し、地域社会内で精神保健福祉士に求められる専門性や、コミュニティワークの必要性について整理し、精神障害者をはじめ、高齢者、児童、母子、貧困、外国人等の多様なクライエントに対し、支援を行っている精神保健福祉士の先駆的な実践報告から学び、自身のソーシャルワーク実践のヒントにしていただきたい。

 同時に、これまで精神保健福祉士が蓄積してきた経験、特にクライエントとのかかわりを踏まえ、大切にしてきた私たちの固有性や専門性(強み・持ち味)を再確認することも忘れてはならない。

 さらに、今後の地域包括ケア実践の向上につなげていくために、制度・政策の動向を踏まえ「自身の考える精神保健福祉士の価値、専門性」(クライエント中心・自己決定の尊重)等についても議論する機会としてほしい。

(坂本智代枝)


△前のページへもどる