機関誌「精神保健福祉」

通巻113号 Vol.49 No.2(2018年4月25日発行)


目次

巻頭言 伝統と進化/大屋 未輝

特集 「つながり」再考;つながる意義とそのあり方を問う

[総論]
「つながる」ことの多様性とソーシャルワークにとってのその意義題/松岡 克尚

[各論]
病いの語りによる「つながり」再考;自己とつながり、仲間とつながり、そして未来とつながる語りの活動/栄 セツコ
“やさしいまちづくり” JHC板橋会の地域展開;連携と協働の歩み、そして現在/清家 政江・清水 恭子
実践報告 触法行為に至ってしまった障がい者の支援;つながることは理解すること/及川 博文
総合病院での子ども虐待対応におけるPSWの取り組みについて;院内外でのつながりを求めて/西野  舞
スクールソーシャルワーカーがつながる「学校」とは/山本 操里
水平な関係でつながること;リカバリーカレッジとCo-production/山本 俊爾
ぐんま・つなごうネットの取り組み/林  次郎・加藤木啓充・原島久美子
「ハートインみやぎ」の取り組みから「つながり」を考える/渡部 裕一

◇研究論文
メンタルヘルスの課題を抱える母親とその子ども支援および支援機関の連携の現状と課題;沖縄県A市における支援者へのインタビュー調査から/名城 健二
自閉症スペクトラムの児童生徒におけるメタ認知トレーニングを応用したグループワークの有効性の検討;スクールソーシャルワーカーによる特別支援学級での取り組み/狩野 俊介

◇連載
つくる・つなぐ・ひらく 第2回/「地域が変わる/子どもが変わる/未来を変える豊島子どもWAKUWAKUネットワークの取り組み」/天野 敬子
託すことば、預かることば 第1回/「柏木 昭(その1)」/三品 竜浩・大泉 圭亮
BOOKガイド/鬼束 詠子・和田 大史
声 第1回/「私たち抜きに私たちのことを決めないで;増川ねてるの場合 Part 1」/増川ねてる
わたし×精神保健福祉士 第1回/「精神保健福祉士としての私」/鈴木 捺帆
学会誌投稿論文等査読小委員会連載企画 実践の見える化 第1回 「精神保健福祉士の発信力を高め、実践と研究の循環を巻き起こそう!」 /岩崎  香
メンタルヘルス見聞録 第1回/「学び、変わっていくことへの信頼と熱意;英国バーミンガムでのメリデン版訪問家族支援基礎研修に参加して」/上久保真理子

・協会の動き/坪松 真吾
・協会の行事予定
・2018年度開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧
・投稿要項


巻頭言

伝統と進化

おおや精神保健福祉士オフィス 大屋 未輝

 日本刀の国宝作家のお弟子さんから伝統についてお話を伺ったことがある。日本刀を作るには、技法の継承や技術習得の経験が大きく影響し、土の種類に応じて熱・水・気温・土地などの環境条件にある種の修正要素を加えているという。

 これは精神保健福祉士の歩み方にも通じた内容である。社会が複雑化するなか、ソーシャルワークの対象は一概ではなく、誰もが社会的弱者になり得る時代であり、個人・集団・地域の構造に対して精神保健福祉の必要性がクローズアップされている。この必要性をどのようにとらえ具体的な支援とするのか、これまで培ってきた実践と構築してきた価値・倫理は各現場で生じる実態を常に意識した対応が求められる。

 一方で昨年から世間を賑わせた大相撲業界で生じた傷害事件は、多くの国民が不安や不信を抱き、のちに法人の運営体制にまで言及される社会問題となった。なかでも刑事事件の通報が遅れ、適切な報告がなく情報が組織で共有されない実態は決して他人事とは言い切れないのではないだろうか。公益社団法人を運営する役割とその責任がいったい何であるのか、組織と構成員が同一の方向にあるのか、今一度振り返る必要があろう。

 これからさらなる社会変化が進むと、精神保健福祉士の存在意義を見直すことが余儀なくされる。精神保健福祉士がソーシャルワーカーとしての責務を果たし、これまで以上の人材を目指すのであれば、日本刀の製造に加えられている柔軟な視点が運営する組織として不可欠になるであろう。また、いかなる課題・難題に対しても創意工夫する研鑽と努力を絶やさない姿こそがソーシャルワークの先人から受け継ぐ伝統であり、一人ひとりが変化に備えて耐え得る成長を遂げることが精神保健福祉士の進化につながる。


「つながり」再考;つながる意義とそのあり方を問う

 「つながり」を意味する「連携」や「協働」などの言葉は、私たちにとって大変身近なキーワードである。当機関誌、あるいは協会の開催する研修企画などにおいても、これまで幾度となく取り上げられ、その必要性はたびたび強調されている。

 その理由は、単に法文にその義務が明記(精神保健福祉士法第41条)されているということだけではない。私たち精神保健福祉士が医療・福祉チームの一員としてクライエントの目標に寄り添うなかで、また他機関とさまざまな企画を立て地域づくりを担うなかで、互いに協力することによって、個々ではなし得ない成果を生み出してきた。「つながり」の必要性は、そのような実践のなかで経験則として得られてきたものであると考えられる。

 これまで医療福祉分野を中心に活躍してきた私たちのフィールドも大きく変化している。活躍の場は、司法、教育、行政、産業、災害支援など、従来にはないさまざまな分野へ拡張している。さらに、現在注目を集めている「地域包括ケアシステム」により、これまで以上に多職種による連携が重視されることは明白である。これらの背景から、私たちは今後いっそう多職種とつながり、協働のなかでクライエントとのかかわりをつくり上げ、つながりを構築する役割を担っていくことが予想される。いかなるフィールドにおいても、いかなる仕組みのなかでも、つながりを生かしてニーズに応える姿勢をもち続けること、これは私たちの大きな強みでもあるといえる。

 しかしながら昨今、割り当てられた日々の業務を遂行することに終始してしまい、つながることへの意識が変化してきているようにも思える。時代の大きな転換期において、あえてこの使い古された感のあるキーワードを見直すとともに、私たちの実践のなかで「つながり」がどのように生かされているかを検証し、その有用性と必要性を探りたい。

(細谷 友子) 


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