機関誌「精神保健福祉」

通巻114号 Vol.49 No.3(2018年7月25日発行)


目次

[巻頭言]
精神保健福祉士としての成長/岡本 秀行

[誌上研修]司法精神保健福祉領域におけるPSWの挑戦;加害と被害をこえて

講話:被害者からのメッセージ/高岸 美加
講義1:被害者の理解と支援/大岡 由佳
講義2:司法福祉の現状、刑事司法の仕組み、PSWの役割/今福 章二

シンポジウム「犯罪に関わった人等を支援する現場からの発信」
/寺西 里恵・柴田 純子・金子 宏明・山田真紀子、司会・今福 章二

感想:参加者の声

[連載]
つくる・つなぐ・ひらく 第3回/「真実と向き合う実践;平等を考え行動するソーシャルアクションとDET(障害平等研修)」 /小林 学美
託すことば、預かることば 第2回/「柏木 昭(その2)」 柏木  昭/インタビュアー・三品 竜浩・大泉 圭亮・渡部 裕一
声 第2回/「私たち抜きに私たちのことを決めないで;増川ねてるの場合 Part 2」 /増川ねてる
わたし×精神保健福祉士 第2回/「精神保健福祉士として変わったこと、変わらないこと」/浅沼 充志
学会誌投稿論文等査読小委員会連載企画 実践の見える化 第2回/「研究倫理」 /荒田  寛・山口 創生
メンタルヘルス見聞録 第2回/「アトランティック・カナダ、ハリファックスでの330日間」 /中村 和彦
BOOKガイド/深瀬 菜緒・齋中 康人

・協会の動き/坪松 真吾 
・協会の行事予定 
・2018年度開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧 
・投稿要項 
編集後記・奥付
機関誌編集委員会への手紙


巻頭言

精神保健福祉士としての成長

川口市保健所 岡本 秀行

 桜の季節を迎え、私の職場でも生まれたばかりの精神保健福祉士を迎えた。ペンを力強く握りしめ、緊張した面持ちで電話を受けている。

 その姿を見ていると、病院勤務から始まった自分の新人時代を思い出した。当時の私は「困ったなぁ」とつぶやきながら相談室内を歩き回ることが日課であった。その都度、先輩から「岡本君が困っても仕方ないでしょ」と笑顔で指摘された。また患者さんから相談希望があると、資料を何冊も抱えて病棟に駆け上がっていったことは今でも記憶に残っている。しだいに持参する資料は減り、気がつくと何も持たずに相談を受けるようになった。今ではたいていの場合、落ち着いて、時に楽しみながら相談を受けられるようになった。

 そんなことを振り返ってみると、自分の歩んできた精神保健福祉士としての年輪を感じる。一方、経験を重ねるなかで「何か大切なものを失くしていないだろうか」と不安に感じ、日々の実践について自己点検を繰り返す。

 毎日見慣れている自分の体型変化に気づくことができないように、日々業務と向き合っていると、精神保健福祉士としての自分の成長を実感する機会は乏しいものである。

 「どのような精神保健福祉士になりたいのか」という質問は簡単なようで実に意味深い問いである。ちなみに私には憧れの精神保健福祉士が存在する。「あんなふうに良い支援ができるようになりたい」と願い、無我夢中で日々を過ごしてきた。それは小さいころに野球選手になりたくて、時間を忘れて白球を追いかけていた純粋な気持ちと何ら変わりがない。

 「立場が人を育てる」というが、不十分な自分を認めつつも、自らが精神保健福祉士であると意識して、新任期から継続して現場に居続けることこそ、専門性を深化させることにつながるのではないか。そして、己の目指す精神保健福祉士像に一歩でも近づきたいと願うことで、精神保健福祉士は成長を続けることができるのではないだろうか。

 これからも仲間と共に、この長く続く道のりを歩んでいきたい。


誌上研修/司法精神保健福祉領域におけるPSWの挑戦;加害と被害をこえて

 近年、精神保健福祉士(以下、PSW)の職域は広がりをみせ、刑事司法過程に関連する職場で働くPSWが増加し、精神保健福祉の日常業務においても刑事司法過程との接触面が拡大しつつある。そこで、2016(平成28)年秋に発足した司法精神保健福祉委員会では、司法と精神保健福祉の連携が求められる領域におけるPSWの将来像を展望し、その人材の育成のために本研修を企画した。

 本研修は、タイトルにあるように、加害と被害をこえていかにPSWが司法福祉における実践を紡いでいけるかについて、考えてもらえる機会になるよう工夫を凝らした。具体的には、〔講話〕で、交通犯罪のご遺族から、事件事故からの経緯から回復の道のり、ご遺族の立場から考えるPSWだからこそできる支援についてお話しいただいた。それを受けて〔講義1〕では被害者に絡む制度や支援の現状や課題について共有してもらった。また、〔講義2〕では、PSWの知識として十分ではないと考えられた刑事司法の仕組みや現状について参加者に最新の知見や動向を知っていただく狙いとした。その後の〔シンポジウム〕では、地域相談機関や地域生活定着支援センター、法務省の矯正や更生保護の領域で、罪を犯したクライアントの支援を実践しているPSWによる現場からの発信を参加者にお聞きいただいた。このように盛りだくさんの研修の最後に実施した〔演習〕では、司法精神保健福祉領域にPSWがかかわることの意義や今後それを深めていくうえでの可能性について、参加者同士で共に考えるよい機会になったのではないかと考える。

 罪を犯したクライエントの立ち直りに向けた支援や犯罪被害を受けたクライエントなどの回復に向けた支援の重要性がより広く理解されるようになり、その実現を目指した施策や取組が一定程度進展を見せつつある昨今、加害・被害をこえて、生きづらさを抱えたクライエントにPSWとしてどのように寄り添い、支援をしていくかがあらためて問われている。今後も多くの方に本委員会の研修等を受けていただき、司法精神保健福祉の実践に必要な価値・技術・知識について共に考えていけたらと期待している。

(司法精神保健福祉委員会 大岡 由佳)


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