機関誌「精神保健福祉」

通巻787号 Vol.40 No.2(2009年6月25日発行)


目次

巻頭言 我、「語部」たり得るか/小関 清之

特 集 地域移行支援を通して考える、精神保健福祉士の存在意義

〔総説〕
精神科病院からの地域移行を実現する具体的実践を/川口真知子
地域生活への移行支援を権利保障としてとらえる/大塚 淳子

〔実践報告〕
「飯がうまい!」―あたりまえの生活を求めて/丸山ひろみ
精神障害者地域移行支援特別対策事業が始まって/法野 美和
「当事者PSW」という言葉が時代遅れになるときのために/工藤 忠誠
「できることから……」―病院PSWの実践/久保 親哉
組織を超えたつながりとソーシャルワーク実践―2つのNPO活動を通して/鶴田 啓洋
自由がある、あたりまえの生活とは―精神に障害のある人の退院後の 地域でのくらしに関する聴き取り調査を通して/宮まさ江

〔協会事業の報告〕厚生労働省精神保健福祉推進事業(地域移行支援事業の都道府県実施調査と精神障害者の円滑な地域移行を推進する地域体制整備コーディネーター等の 人材養成研修プログラム開発事業)の概要について ―精神障害者地域移行支援特別対策事業実施状況(抜粋)報告を中心に/田村 綾子

〔インタビュー〕当事者に聞く「退院して地域で生活するということ」/三井 克幸

〔座談会〕いろいろな立場から考える地域移行支援―立場が違うとすることも違うのか
/田中 哲志・三原 聖子・三浦 博幸・宮部真弥子・姫野紀代子・川本 正明 司会・福山 佳之

誌上スーパービジョン
長期入院患者への退院支援―PSWの思いから生じるかかわり方への迷い――スーパーバイザー/柏木  昭

トピックス
障害者自立支援法の見直しについて/木太 直人
介護報酬改定について/佐々木勝則

研究ノート
精神科病床機能分化におけるソーシャルワークの課題―急性期病棟担当ソーシャルワーカーへのインタビュー調査による考察/岩本  操
精神保健福祉士教育におけるリフレクティング・プロセスの応用―現場体験での学びを深めるためのアズ・イフ・ワークの試み/壬生明日香/矢原 隆行

委員会報告
「障害者自立支援法による精神保健福祉士への影響に関する調査」報告 精神保健福祉委員会(2006〜2007年度)

情報ファイル
「第4回日本地域司法精神保健福祉研究大会」報告/清水美由紀
「メンタルヘルスの集い(第23回日本精神保健会議)」報告/松本すみ子
「日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会第2回研究大会」報告/稲 淳子

リレーエッセイ
なんくるないさぁ〜うちなーらいふ(なんとかなるさ沖縄生活)/生山 雅子

連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」、協会の動き/坪松 真吾、書評/荒田 寛、投稿規定、GALLERY、協会の行事予定、2009年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧、読者の声


巻頭言

我、「語部」たり得るか

社団法人日本精神保健福祉士協会副会長/木の実町診療所 小関 清之

 「正午の時報が鳴り終わる、その瞬間。陛下が降り立つのは、駅長室に続く赤絨毯。位置と時刻を見定めての寸分違わぬ停車。幾度も練習を重ねたものだ……」

 昭和天皇行幸の際の御料車SLを運転した日々を顧みて語るときの父は、晴れがましく、生き生きとしている。

 私事で恐縮だが、この連休、往年のSL機関士だった85歳の父を鉄道博物館に招待した。そこでは、日本の鉄道の黎明期から現代に至るまでの鉄道技術やシステムの変遷・歴史が、それぞれの時代ごとに紹介されていた。83歳の母の押す車椅子に乗りながらも、展示された実物車両を次々と指差し、自身の体験を交えた説明を加えるその顔には、戦中戦後を凌いだ労苦で刻み込まれた幾重もの皺さえも燦然たる勲章となって輝いていた。まさしく歴史を繋ぐ「語部」の雄姿がそこにあった。

 あらためて「日本精神保健福祉士協会40年史」を開いてみた。

 わが国の精神科医療が抱える負の遺産にも真摯に向き合い、先達としての臆することなき歩を進め、時には自戒を込めて顧みざるをえない事態に遭遇しつつも、ついには国家資格を獲得し、法人化を成し遂げた本協会の確かな足跡が記されている。

 今号では、こうした歴史を経て来た精神保健福祉士一人ひとりの「今」という立ち位置で、「社会的入院」解消に向けた地域移行支援の実践を取り上げる、極めて意義深い特集を組んだ。このことは、私たちの活動領域があまねく人びとの精神保健福祉課題に寄り添うために拡大し多様化した今日にあってもなお、精神保健福祉にかかわる唯一の専門職として担う核たる役割であることにおいて揺るがすことのできない事実であることを肝に銘じたいがためである。

 私たちが何より大切にしている現場における実践を、私たち自身の存在意義とともに問い直し、加えて実証的知見からの精査を重ね、後に続く若者たちのいつも傍らにあり続け「語部」として伴走できる体力を維持しながら、歩み繋げたいと願う。


特集 地域移行支援を通して考える、精神保健福祉士の存在意義

 現在、「地域移行支援」は障害者福祉実践においては1つの重要なキーワードとなっている。精神保健福祉領域でも然りで、各行政単位での事業化された地域移行支援も全国各地で展開されている。いうまでもなく、精神科病院における長期収容や社会的入院は、歴史的かつ重大な課題である。過去から現在に至る長い歴史の中で、個々の現場では、「退院支援」として精神保健福祉士(PSW)の実践が重ねられてもきたし、一方で、時代状況やPSWの立場の弱さを背景に、思うような実践ができてこなかった部分もある。

 ちなみに当機関誌では、通巻53号で「新時代を迎え『社会的入院』を再考する」という特集を編んでいるが、以来6年にわたり、「社会的入院」に関連したテーマが特集として取り上げられることはなかった。

 この度、6年ぶりに特集するにあたっては、「地域移行支援」という最近の言葉を切り口にしつつも、改めて精神保健福祉士の存在意義について問い直す特集にしたいと考えている。と同時に、所属機関を問わず、どのような場に身を置く精神保健福祉士にとっても、等身大の目線から共通点や具体的に取り組む実践課題を発見する活力となるようなものを提供したい。

 精神保健福祉士の実践は、精神科医療の歴史や地域精神保健福祉の歴史とともに地道に積み重ねられてきたことがあると同時に、現状にはいくつもの課題もある。それらを、個々の具体的な実践や語りを通して、生きた言葉として読者に提供していきたい。

(企画担当:福山佳之、三井克幸、川口真知子)


△前のページへもどる