機関誌「精神保健福祉」

通巻80号 Vol.40 No.4(2009年12月25日発行)


目次

巻頭言  IFSWアジア太平洋地域のソーシャルワーカー組織と日本組織の貢献/木村真理子

特 集 精神保健福祉士の視点から考える自殺予防 ─生きることへの支援の可能性を探る

〔総説〕
社会構造的視点から見た自殺/竹島  正・稲垣 正俊・松本 俊彦・森川すいめい・藤田 利治
自殺対策とメンタルヘルス領域における支援 ─今、求められる精神保健福祉士のかかわり/四方田 清

〔各論〕
プリベンション1:自殺予防の観点から見た精神保健福祉士の支援について/中山 智美
プリベンション2:自殺対策としての地域連携と「相談難民」へのアウトリーチ/芝田  淳
インターベンション1:自殺企図者へのかかわり ─救急の現場から/青木 慎也
インターベンション2:従来の精神科医療でやってきたことから/佐野 明子
ポストベンション:自死遺族のケアの観点から/山口 和浩

〔実践報告〕
アルコールソーシャルワークの現場から/鶴 幸一郎
堺市の自殺対策“いのちの応援係”/豊坂 民雄

〔協会事業の報告〕
「2009(平成21)年度精神保健と社会的取組の相談窓口の連携のための調査」委託事業について/吉野比呂子

〔自殺関連資料〕 大塚 淳子

トピックス
今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会報告書「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」について/佐藤三四郎

研究論文
重い精神障害のある人の地域生活支援における援助者の実践スキル─英国バーミンガムの質的調査結果と結果が示唆すること/三品 桂子

実践報告
民間移送会社による「移送サービス」を利用した受診導入に関する実態把握
─患者と家族からの聞き取り調査をもとに受診援助を考察する/大塚 直子・川口真知子・菊池  健・岩崎  香

委員会報告
国際セミナー特別講演「障害者差別禁止法 ─過去、現在 そして未来」要旨/国際委員会

情報ファイル
「日本精神科救急学会第17回大会」報告/鴻巣 泰治、「第52回日本病院・地域精神医学会総会」報告/林  実香、「第24回日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会全国研究大会」報告/橋本美枝子、「日本社会福祉学会第57回全国大会」報告/國重 智宏

リレーエッセイ
筆に任せて体験談/米満恭一郎

連載
実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」・協会の動き/坪松 真吾  書評/松本すみ子  投稿規定  協会の行事予定 ・読者の声


巻頭言

IFSWアジア太平洋地域のソーシャルワーカー組織と日本組織の貢献

IFSW理事/国際委員長 木村真理子

 IFSW(国際ソーシャルワーカー連盟)は1年おきに国際会議(グローバル会議と称する)、その間にアジア太平洋地域会議を開催する。世界の5つの地域(ヨーロッパ、北米、中南米、アフリカ、アジア太平洋)は、2名の理事を選出し、ソーシャルワーク実践、ソーシャルワーク介入の必要な社会問題への政策提言、ソーシャルワーカーの養成、IFSWの組織拡大などの課題に取り組んでいる。私は2009(平成21)年6月に日本の4団体の代表としてアジア太平洋地域の理事に選出された。

 日本は日本ソーシャルワーカー協会のIFSW加盟以来半世紀以上を経過し、現在は日本精神保健福祉士協会、日本社会福祉士会、日本医療社会事業協会を含む4つの組織がIFSWの合同加盟組織となっている。

 私はIFSWの理事会に参加して、地域の課題により目を開かれることになった。アジア太平洋地域は多様性に富む文化圏で、加盟国も新しい国が多く、活動のあり方もいまだに模索的である。組織力を高める方法や財源のあり方などの課題が多く、アジア太平洋地域の社会福祉教育学校連盟組織と連携して、課題解決への歩みを進める組織固めが求められている。

 地域共通の課題に取り組む方法として、プロジェクトに賛同する地域諸国のソーシャルワーカー組織の参加を募って情報共有とネットワーク化による組織固めを図ろうとしている。これまで同地域で多発する災害を取組みの切り口として、インドシナ津波や地震を機にFASTプロジェクトが立ち上げられ、日本はインドシナ地域のソーシャルワーク組織の災害対応のシードマネーを4団体が募金し、活動に資することができた。その後、2007(平成19)年には、マレーシア・クアラルンプールで災害とソーシャルワークを主題とする地域会議が開催された。

 日本がアジア太平洋地域の諸国と共有しうるソーシャルワークの課題は多い。貧困、アジア太平洋地域のソーシャルワーク実践モデルの開発、人口移動と精神保健、医療や福祉サービス、人口高齢化、児童虐待などいくつも存在する。

 11月初旬に開催されたニュージーランド地域会議で、日本のIFSWコーディネーティングボディは、地域プロジェクトの1つとして、「災害とソーシャルワーク:アジア太平洋地域の国を超えたソーシャルワーカーの連携と訓練養成」に取り組むことを提言し、参加国の賛同を得ることができた。

 マレーシア会議につなげる取組みとして日本は2010(平成22)年の香港会議で「災害とソーシャルワークの対応」ワークショップを開催し、その先にソーシャルワーカー訓練カリキュラム開発やアジア太平洋地域ネットワーク構築というプロジェクトを通じて、IFSWアジア太平洋地域のソーシャルワーカー組織のより活発なネットワークの構築へと結びつけてゆきたいと考えている。


 特集 精神保健福祉士の視点から考える自殺予防 ─生きることへの支援の可能性を探る

 「疲れたなぁ」「しんどいなぁ」「仕事(学校)に行きたくないなぁ」そんな呟きを街中で、もしくは自分の心の内に聞いたり、吐き出したりした経験はないだろうか。

 生きづらさや生きにくさを感じ呟くことがあっても、自分の命を絶つことの実行までには、いくつもの段階があるだろう。踏みとどまることができる支えの形もさまざまにあるだろう。しかしわが国は今、1日に約80人〜100人(15分〜20分に1人)の自殺者があり、3万人を超える年間自殺者数の推移は12年連続となってしまいそうな状況である。

 個人的問題としてではなく社会的な要因も認識し社会的取組みを図るべく、2006(平成18)年には自殺対策基本法が施行され、翌年に自殺対策大綱が策定されている。少しずつだが「自殺」ということに関する国民の意識や、各自治体の取組みも変化をみせてきている。しかし、厳しい社会経済状況が続くなか、さまざまな要因や背景から「追い込まれた末の死」である自死に至る人は減らない。

 本現象を受けて、「自殺対策100日プラン」が11月27日に内閣府自殺対策緊急戦略チームから打ち出され、具体的対策案が提示された。「我が国はいま、『自殺戦争』の渦中にある」という基本認識が示されており、その表現の過激さにたじろぎつつも唸ってしまう。

 自殺者の問題は、総数が減ればいいということではなく、一人ひとりが安心して生きられるかどうかという、社会のありようを変える取組みとしてとらえられないといけない。

 精神保健福祉士は、自らも生きる者としての苦悩を持ちつつ、社会での生きづらさを敏感に感じ取り、症状や障害をかかえる当事者と日々向き合い、生活支援を、つまり生きることの支援を提供することに努めている。誰もが寿命を迎えるまで、疾病や障害、その他さまざまな生活困難課題があっても孤立することなく誰かとつながりながら支え合って生きていくことができるような社会環境の創造が求められる。

 今回の特集が、われわれが行う生きることへの支援は、自死を防ぐことにつながることを再確認し、改めてゲートキーパーとなるべく各支援現場でできることについて考え実践に結び付く機会になるよう願う。

(特集企画担当編集委員:四方田清、鶴幸一郎、大塚淳子)


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