機関誌「精神保健福祉」

通巻86号 Vol.42 No.2(2011年6月25日発行)


目次

巻頭言  みちのく幻視行/柏木 一恵

特 集 身近にあるアディクション問題と精神保健福祉士

〔総説〕
アディクション問題を考える/岡崎 直人
ディクションと精神保健福祉士─ソーシャルワーカーの課題として/藤田さかえ

〔各論〕
アディクション問題の地域ケア/長坂 和則
嗜癖当事者にかかわる援助者のポジショナリティ/大嶋 栄子
セルフヘルプグループと回復─支援者のかかわりについて/岡田 正彦
アディクション問題における家族支援/山本 由紀

〔実践報告〕
アルコール依存症専門病棟の現状と支援のあり方/坂口  享
薬物依存にかかわる相談支援のあり方/小河原大輔
ギャンブル依存症へのソーシャルワーク─私の実践報告/岡田 洋一
女性とアディクションにかかわる相談支援のあり方/小野 史絵
震災とアルコール関連問題─啓発および予防に関する取り組み/中村(土井)寛子

誌上スーパービジョン
「本人本位・自己決定」という気持ちを大切にかかわってきた事例を振り返って考える ──スーパーバイザー/柏木  昭

トピックス
精神保健福祉士養成カリキュラム改正について/木太 直人

研究論文
精神保健福祉領域におけるリフレクティング・プロセスの応用 ─スーパービジョンに代わる支え合いのコミュニケーションの可能性─ /光岡 美里・知花 絵美・川田  恵・三根  卓・森岡 知江・壬生明日香・矢原 隆行

情報ファイル
「メンタルヘルスの集い(第25回日本精神保健会議)」報告/四方田 清
「精神保健福祉士による災害支援活動に関する研修」報告/大江 良生

リレーエッセイ
ライオン誌封入作業と障害者施設見学ツアー/進藤 義夫

連載
実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」 、協会の動き/坪松 真吾、書評/伊藤亜希子

投稿規定、協会の行事予定、2011年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧


巻頭言

みちのく幻視行

社団法人日本精神保健福祉士協会副会長/浅香山病院 柏木 一恵

 未曾有の自然災害に想定外の人災である原発事故が重なり、東北ばかりか日本全体を揺るがす大災害となった東日本大震災、衝撃の日より3カ月が過ぎようとしている。

 当初はTVで視る映像や新聞等の記事に知らず涙が流れていたこともあった。被災地の知人や支援活動に入った方々からはさらに生々しい情報が伝えられ、その現実の前にどんな言葉も虚ろに響き、言葉を喪う気がした。今なお苦しみと哀しみの内にある方々に心からお見舞い申し上げる。また自らも被災者でありながら支援活動に奔走する方々、日本各地から支援のため被災地に結集した方々に感謝と敬意を表したい。

 東北の地は、関西圏から出たことのない私にとっては、遠い憧憬の地でもあった。松尾芭蕉の奥の細道、柳田國男の遠野物語、宮澤賢治の童話や詩、奥州藤原氏が築いた黄金楽土、古代蝦夷の英雄である阿弖流為、大和朝廷に追われた物部氏の白鳥伝説、幾重にも重なる歴史の地層に花開く豊かな文化。その一方で、常に中央政府からの収奪と支配に苦悩していた地。厳寒の風土、度重なる飢饉による餓死や身売り、戦後は出稼ぎ、三ちゃん農業、金の卵などという言葉を生み、日本の高度成長を支えた若年労働者の都市への流出。私の中では東北の地の持つ光と影は「物語」と「教科書」のようにリアリティのないまま存在していた。

 しかしこの震災を契機に、電力や農水産業ばかりでなくあらゆる分野において日本という国が今なお東北の地に依存しているということを実感として認識したのは私だけではないだろう。また避難所にいる方々の6〜7割が高齢者であるという話も聞く。多大な被害を蒙った各市町村の高齢化率の高さ、震災以前よりすでに医療は崩壊していたという現実も、今の日本のもつ地方の危うさをより鮮明にしたのではないだろうか。

 一方で、世界中から発信される応援メッセージ、想像力あふれる多様な支援活動、復興を目指して立ち上がる人々の勇気、励ましあい支えあう人々のつながりは、瓦礫の下から発芽する若木のように日本全体に力を与えているように思う。今後復興に向けては幾多の困難が待ち受けるだろう。東北の地、東北の民だけではなく、日本に生きるすべての人が苦難を共にし、乗り越えるために手を携えなければならないと思う。そして多くの犠牲を払った震災からの復興が、地域を活性化し、地方の再生につながることを心から願う。その中には精神障害者や地域住民のために地道な実践を展開し、住みやすい町づくり、活き活きした地域おこしに参与する精神保健福祉士の姿があるだろう。私の視るこの幻が現実のものとなることを切に祈る。


特集 身近にあるアディクション問題と精神保健福祉士

 「アディクション」という言葉を聞いて、私たちは何をイメージするだろうか?

 アディクションの定義として、「特定の物質、行動、人間関係について不健康な習慣へののめり込み」とある。対象も物質(アルコールや薬物、タバコ等)、行動(ギャンブル、ショッピング、仕事等)、人間関係と幅広く、精神科医療はもちろんのこと、障害、高齢者、母子、児童、低所得者等関連する分野が多方面に渡ることもあり、大きな社会問題となっている。また、特徴として虐待等、本人だけではなく家族に対しての影響も大きく、併せての支援が必要となっている。代表的なアルコール依存症においては、2003(平成15)年の全国調査では約82万人と推測され、また違法薬物の使用についても社会的影響の大きい芸能人の薬物使用問題等もあり、社会的関心が高くなってきている。

 また、近年はアルコール依存症等と自殺との関連も注視されており、2008(平成20)年10月改正の自殺総合対策大綱では、うつ病以外の危険因子としてアルコール依存症が含まれ、2010(平成22)年の診療報酬改定では、アルコール依存症の専門的治療評価として、「重度アルコール依存症入院医療管理加算」(200点/日)が新設された。

 このような状況から、精神保健福祉分野において、アディクションに関連する取り組みが重視され、今後精神保健福祉士として、アディクションにかかわる機会が相当数増加するとともに、精神保健福祉士への期待も大きくなると考えられる。

 そのためにも、今号では、精神保健福祉士としてアディクションについての正しい理解や対応を学び、今一度、「アディクション」を正しく捉え直し、アディクションの問題に精神保健福祉士がどのように取り組んでいくのか、また課題は何なのかを確認していくことを考えられるような特集を企画した。今号が、アディクションについての基礎知識、および私たちの精神保健福祉士の専門性について改めて再確認する特集企画となれば幸いである。

(編集委員:向井 克仁)


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