機関誌「精神保健福祉」

通巻89号 Vol.43 No.1(2012年3月25日発行)


目次

巻頭言  ひとりの精神保健福祉士として/鈴木 長司

特集 家族支援を考える─精神保健福祉士に求められる家族支援

〔総説〕
精神障害者家族とその支援/白石弘巳
家族が求める家族支援/良田かおり
家族から学び、家族と共に社会を変える/増田一世

〔実践報告〕
早期支援サービスにおける家族支援 ─都立松沢病院早期支援外来wakabaの取り組み/石倉習子・西田淳志・野中猛・岡崎祐士
ACTにおける家族支援/佐藤純・石川三絵・金井浩一・橋本東代子・水嶋美之
依存症の家族支援/西川 京子
家族と共に取り組む支援 ─家族会活動から学んだこと/千葉 孝治
認知症の家族支援 ─ソーシャルワークの価値・家族のエンパワメントを活かした認知症地域支援体制の構築を目指して/室谷牧子

〔家族の声〕
精神保健福祉士に期待すること/飯塚壽美
親とは異なる立場のきょうだいから伝えたい9つのメッセージ/神谷かほる
“子ども”に焦点を当てた支援を/瀬戸紗智子

〔企画担当者としての総括〕
精神保健福祉士に求められる家族支援/伊藤 千尋・小田 敏雄・三井 克幸

誌上スーパービジョン
訪問でのかかわりを通して考えさせられたケースを振り返る ──スーパーバイザー/柏木 昭

トピックス
保護者制度の見直しについて/岩上洋一

研究ノート
医療観察法入院対象者へのソーシャルワーク実践の課題の検討 ─医療観察法病棟入院対象者の入院決定書関係書類における社会復帰阻害要因の分類より/狩野俊介

実践報告
行政の福祉関連部署の職員面接を通して─メンタルヘルス不調の予防的観点から/名城健二・真栄平勉・西銘隆・中下綾子・田中望江・喜納ひろみ・佐久田規子・山城涼子

情報ファイル
「第26回ASW協会全国研究大会」報告/鶴幸一郎、沖縄と東北を結ぶもの〜第53回日本病院・地域精神医学会総会に参加して/古屋龍太、日本福祉教育・ボランティア学習学会第17回京都大会/松本すみ子、シンポジウム「精神保健福祉士と弁護士との連携をめざして〜精神障害者の権利擁護充実のために〜」/加藤瑞枝

リレーエッセイ
今日も学生たちの笑い声と共に/杉山真生子

連載
実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」、・協会の動き/坪松真吾、この1冊/笠井亜美・村 裕子、協会の行事予定
想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク〜

投稿規定、2012年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧


巻頭言

ひとりの精神保健福祉士として

福島県支部長/東北病院 鈴木 長司 

 東日本大震災から12カ月が過ぎようとしています。福島県は大地震、津波、原発、風評被害という大きな四重の被災を負っています。そして、それはまだ続いています。そんな私たちの被災地に、日本精神保健福祉士協会をはじめ各支部の会員の方々、他県の行政・医療機関の方々、ボランティアの方々など、ほんとうに多くの方々の支援をいただきました。誠にありがとうございました。感謝に堪えません。この場をお借りしてお礼申し上げます。

 大震災からの自分の行動を振り返ると、ほんとうに嫌で身が縮まる思いでした。何もできなかったとの思いが強く、自責の念に駆られていました。なぜその時にそのような行動を取ってしまったのか、なぜ動けなかったのかと、何度となく自分を責めていました。また、大地震が起きてあの異常気象での吹雪から少しずつ暖かくなり、また冬の時期を迎えておりますが、夏の大変暑かった時期になってやっと「あぁ、夏になったんだ」とふと気がつく自分がいたという変な感覚がありました。

 やっと今再考するに、その時、その時の自分自身の選択があり、そこには紛れもなく自分自身がそこにいたわけです。ですから、その選択とその結果をありのままに受け止めていこうと思います。実習生には「当事者の言葉や行動をありのままに受け取りなさい」と何度となく話していた自分がいました。

 現在は日本精神保健福祉士協会の南相馬市への支援を福島県支部が引き継いだ後、冬季期間ということもあり休止状態ではありますが、年度替わりには再検討をしなければと思っております。また、福島県介護支援専門員協会・福島県社会福祉士会・福島県理学療法士会・福島県医療ソーシャルワーカー協会・福島県作業療法士会・福島県精神保健福祉士会(福島県支部)の職能6団体が相談支援専門職チームと連携し、福島県の県北、県中、会津(南会津を含む)、県南、相双、いわきの各方部で支援活動を行っております。

 最後になりますが、これからは周りの人々も自分自身もありのままに受け止めて、今何ができるかを仲間と共に考えながら進んで行きたいと思います。
 今後ともよろしくお願いいたします。


特集 家族支援を考える─精神保健福祉士に求められる家族支援

 「家族支援」は私たちが長い間、重要だと認識し続けてきたテーマである。

 しかし、「家族支援」という言葉からイメージするものは、精神保健福祉士それぞれで違うのではないだろうか。「家族相談」をイメージするかもしれないし、「家族心理教育」をイメージするかもしれない。他にも「保護者の選任」「家族会とのかかわり」など、家族を支援する場面は多種多様に存在する。また、治療やリハビリテーションの「協力者」としての家族、当事者を身近で支える「支援者」としての家族、地域で暮らす「生活者」としての家族など、家族のとらえ方も多様であるのが現状であろう。

 現在、「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム」により、保護者制度の見直しについて検討されている。これまで、保護者制度によって家族には「保護者」としての実施困難な責務も課せられてきた。精神障害者の地域生活は、まだ多くの場合、家族の負担に支えられて成立しているという現状がある。これらの状況は、家族に過大な負担を強いるだけでなく、当事者に対しても家族が支援を担えない状況になった時、これまでの生活を維持していくことに困難が生じる不安を抱かせてもいる。

 多くの家族が口にされる「親なき後」という言葉からは、「親が元気なうちは自分たちが世話をしていくとしても…」という現在の社会状況から、「支援者」としての役割を引き受けている、もしくは引き受けざるを得ない家族の姿が見えてくるのではないだろうか。

 本特集では、多種多様にとらえられてきた「家族支援」を実体化することを目指し、家族の生活をも大切にする「家族支援とは何か」を模索していきたい。そして、「家族支援とは何をすることなのか」私たち精神保健福祉士の実践を見つめ直す機会となることを願いたい。

(編集委員:伊藤 千尋)


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