機関誌「精神保健福祉」

通巻90号 Vol.43 No.2(2012年6月25日発行)


目次

巻頭言  満を持す/宮部 真弥子

特集 今まさに問う、アウトリーチの真価と醍醐味とは

〔総説〕
アウトリーチと精神保健福祉士 ─ソーシャルワークの原点は地域で共に生きること/三品 桂子
これまでの実践から考えるアウトリーチ/伊東 秀幸

〔各論〕
公的機関の立場からのアウトリーチのあり方について/小出 保廣
精神保健福祉士からみた医療機関におけるアウトリーチ/鶴 幸一郎
出雲におけるアウトリーチのあり方について/石田 健一・高尾 由美子・矢野 喬夫・飯島 健太

〔実践報告〕
未治療、治療中断状態にある地域生活者への包括型地域生活支援プログラムの実践 ─ACTプログラム手法を用いたアウトリーチ/山田 創
地域移行・地域定着支援におけるアウトリーチ/金川 洋輔
精神障害者アウトリーチ推進事業の実践から/磯ア 朱里
家庭訪問事例にみるひきこもり支援/門脇 祥子
就労支援を行っている機関におけるアウトリーチ実践/小野 彩香

〔関連資料〕
「精神障害者アウトリーチ推進事業」

トピックス
精神疾患の医療体制の構築 ─医療計画策定に関して/中川 浩二

研究論文
地域精神保健福祉機関で働くPSWの成長過程に関する研究─利用者に対する援助者役割に着目して/塩満 卓

研究ノート
精神保健福祉士の技能習得過程に関する研究─同一事例に対する経験年数別グループワークの比較検討より/吉川 公章

情報ファイル
みんなねっとフォーラム2011/佐藤 智子、「3.11東日本大震災に学び、復興支援を考える集い」報告/三浦 知加子

リレーエッセイ
構えをとって水のように/堀 真由美

連載
実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」、・協会の動き/坪松 真吾、この1冊/江間 由紀夫・三井 克幸、協会の行事予定
想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク〜

投稿規定、2012年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧


巻頭言

満を持す

脳と心の総合健康センター 宮部真弥子

 2012年5月21日の朝、いったいどれくらいの人が、観測グラスを手に空を見上げていただろう。天候にも恵まれ、金環日食が932年ぶりに日本の広域で観測できた。私の住まいは残念ながら金環日食とならない地域にあり、当初それほど関心が高くはなかったが、辺りが薄暗くなり、木漏れ日が三日月形の影をつくる幻想的な様には、かなり感動してしまった。今後、この観測結果からさまざまなことが解明されていくらしい。そのなかで、金環日食の始めと終わりに観測されるベイリービーズ現象を利用して、「史上最高の精度で太陽の大きさが判明する」という報道があった。こんなに科学技術が進歩した現代においても、まぶしすぎてあの太陽の正確な大きさがわかっていなかったなんて、本当に驚きであった。この金環日食は、天文学領域研究の進歩にとって大きなチャンスであり、この日を迎える準備が入念に行われ、まさに、満を持した活動が繰り広げられたであろう。

 精神保健福祉領域に目を転じると、医療計画重点対策作成に精神疾患が盛り込まれ「4疾病」から「5疾病」となった。また、保護者制度・入院制度の見直しが検討され、保護者の責務規定の削除についても議論されているなど、まさに目前に大きなうねりが来ているといえる。当協会としては、機を逃さず、あるいは自らチャンスをつくり、発信・行動できるよう日頃から意見集約と検討を重ね、十分に準備をしていくことが必要である。今年度は、中期(5カ年)計画の2年目に当たり、各事業推進力となる委員会体制も「意見集約・調査研究」を担う6委員会と「事業企画・運営、体制整備」を担う7委員会とに役割を分け、また、協会のシンクタンクを担う委員長会議も設置している。構成員の皆さまの英知を集め、精神障害者の社会的復権と福祉のための専門的・社会的活動を進める精神保健福祉士の、全国唯一の専門職団体としての責務を果たしていきたいと思う。


特集 今まさに問う、アウトリーチの真価と醍醐味とは

 近年、地域移行・地域定着支援やACTの展開をはじめとした、地域における精神障害者の在宅生活支援が進められ、アウトリーチが注目を集めている。2011(平成23)年度には、入院によらない地域支援を構築する目的で「精神障害者アウトリーチ推進事業」が創設された。アウトリーチという語が頻繁に用いられる以前から、精神保健福祉士(国家資格化以前においてはPSW)は、関係性を第一に大切にしながら訪問活動を行ってきた貴重な歴史がある。アウトリーチの活動は、市民として地域で当たり前に暮らしていける社会を目指すものでもあり、精神保健福祉士にとって重要な意味を持つ。

 しかしその一方で、多くの精神保健医療福祉機関は、その機関に足を運んで来た人を対象としている。本当に困った状況にある人々にどうすれば支援が届けられるだろうかという問題に対しては、機関に所属する精神保健福祉士自身がそのような発想を持たない(あるいは持ったとしても方策が模索できない)という例があることも否めない。

 また、アウトリーチの活動には、一歩誤れば「Y問題」での当事者不在の受診導入のような権利侵害を誘発するリスクがあるだけでなく、当人が会う理由を感じていない場合には「相手にとって自分は何者なのか」と悩んだり、当事者の自己決定をどうとらえるかという倫理的葛藤を抱えたり、精神保健福祉士にとって葛藤を生じる場面がさまざまにあり得る。そして、さまざまな難しさと隣り合わせに、そこには、精神保健福祉士が活動する意義を多数見出すことができる。

 そこで、今回は「今まさに問う、アウトリーチの真価と醍醐味とは」というテーマで、アウトリーチを取り上げることとした。アウトリーチとは何か、精神保健福祉士としてこれから目指すべきアウトリーチの方向性とはどういったものなのかについて、個々の精神保健福祉士が、自らの実践に引きつけて捉え直し、考える機会となれば幸いである。

(編集委員:川口真知子)


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