機関誌「精神保健福祉」

通巻98号 Vol.45 No.2(2014年6月25日発行)


目次

巻頭言  最近思うこと/高石 大

特集 ともに遊ぶ実践−こころとからだと表現の自由

〔総説〕
ソーシャルワーク実践における“遊び”の再考/向谷地生良
精神保健福祉領域における遊びの系譜−1960〜1990年代の精神科病院における取組みを中心に/古屋 龍太

〔各論〕
ともに遊ぶ.精神保健福祉士の専門性に着目して/岡田 隆志
精神保健福祉士を縛るものと、そこからの解放/鶴 幸一郎

〔実践報告〕
遊びの実験.原稿依頼編/ 白江 香澄
PSWとして考える「遊び」と信頼関係/森脇 英人・荒内 佑輔
アソシア社会大学の実践−.ワーク・ライフ・バランスからワーク・ライフ・ハピネスへ/諸留 将人
みんなでつくり上げた語り部事業/芦田 邦子
音楽活動を柱にした就労継続支援/B型を行うまで/行ってみて/戸島 大樹
精神障害者が出演するドキュメンタリー映画制作の取組みについて『ありがとう〜心の病と向き合う人々の映画〜』の報告/木本 達男

誌上スーパービジョン
クライエント主体のかかわりとは何か/スーパーバイザー 柏木  昭

トピックス
平成26年度診療報酬改定について=今村 浩司
障害者の権利条約批准と精神保健福祉領域の課題=岩崎 香
道路交通法改正=安部 玲子

情報ファイル
埼玉・東京精神保健福祉士協会合同災害支援研修「災害支援と精神保健福祉士」について=濱谷 翼
平成25年度精神障害者保健福祉等サービス提供体制整備促進事業に関する研修(改正精神保健福祉法に関する業務従事者研修)について=大嶌 高昭
シンポジウム「拡大する貧困に立ち向かう」−.ソーシャルワーカーと法律家のコラボ=今西 綾子
みんなねっとフォーラム2013=佐藤真由美
心理教育・家族教室ネットワーク 第17回研究集会仙台大会に参加して=大塚 直子

リレーエッセイ/つながりが支えたPSW生活−.そして神奈川へ/高橋 陽介
実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」 ・協会の動き/坪松 真吾
・この1冊/江間由紀夫・松本すみ子
・投稿規定
・協会の行事予定、想いをつなぐ.災害とソーシャルワーク(9) ・2014年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧


巻頭言

最近思うこと

日本精神保健福祉士協会常任理事/もとぶ記念病院 高石 大

 私たちは精神保健福祉士法において「精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを業とする者」と規定されている。私もこれまで、つなげること、援助すること、調整することなどを業務として行ってきた。

ところで現在、私は精神科病院の事務長として業務をしている。むろん全国には現場から管理職へ職務が変わった構成員は多数いるであろうから、何も珍しいことではない。利用者とかかわる機会が減ったとしても精神保健福祉士でなくなったということではないのだが、現場を離れることで精神保健福祉士とは何かと改めて考える機会も得られることもあるのである。

 例えば現場にいたころ、利用者の支援としてかかわっていた事業所の社長と、改めて取引先の社長としてお会いした時、その方の起業の想いや障害者を雇用する熱意を感じ、私に対するあの時の社長の要望はこのような背景があったのかと自分の未熟さを知ったりもするのである。現場業務から離れることにより、いかに自分自身が社会を知らなかったかということに気づき、社会を知らない私がどのように助言や指導をしていたのかと思うと恥ずかしいばかりである。

 私たちは資格を取得し、現場に入ったその日から精神保健福祉士として利用者とかかわり、関係機関と調整を自ら行い、そして他職種からそれを業務として求められる。しかし、社会復帰の援助をするためには自身が社会性を身につけなければならず、地域移行を推進するにも自身が地域を知り、自らその一員として地域を創造する気持ちがなければならないのではないだろうかと改めて感じるのである。

特集 ともに遊ぶ実践−こころとからだと表現の自由か

 「遊ぶ」「遊びごころ」と聞いて、皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。ポジティブなイメージにもネガティブなイメージにもつながるこの言葉は、硬直した時代状況においては、実践に潤いを与えてくれるインパクトを持つものだと思われる。
 今日、精神保健福祉士は精神科医療や福祉制度の中に国家資格としての位置づけを与えられ、その活動領域では専門職として福祉的支援を行うことのできる環境づくりが進められている。しかし、その一方で制度的な枠組みの中の支援だけがソーシャルワークだという誤解が生じたり、反対に制度の枠組みに縛られ本来のソーシャルワークができないなどの葛藤が生じている場合もある。言い換えれば、制度の整備が精神保健福祉士の実践をフォーマルサービスの調整や事務作業に偏らせ、「かかわり」や「つながり」を基盤とした援助や、精神保健福祉士としての「遊びごころ」を失わせてしまっているのではとの心配をわれわれに抱かせる。
 このような心配の中から本特集は、暴力装置としての専門性(本誌96号柏木氏巻頭言より)という視点に立ち、「ともに遊ぶ」ことで自身の硬直化した専門性が脱げることと、それを経験することの意味をあぶり出そうとしている。当事者が、精神保健福祉士が、ともに生き生きと楽しんでいること、また、楽しむことで当事者と精神保健福祉士がともに成長している姿は、まさに「素の個人」が表れるその瞬間であるとも言えるだろう。本特集が「遊び」を通して精神保健福祉士が縛られているその硬直化した専門性から解放され、当事者やわれわれが自由やゆとりをつかみ取るための実践の助けになればと思う。

(編集委員 三井 克幸)


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