報告/自主企画1

2008/10/06

自主企画1−(1) 「いま、あらためて、精神保健福祉士の業務を考える」 ―「新・業務指針(案)」と「業務実態調査」結果から―

概要

 私たち精神保健福祉士は、医療、保健、福祉、教育、司法等々さまざまな現場で業務を行っています。精神保健福祉士は、何を目的として、どんな業務を行っているのでしょうか。精神保健福祉士の働く領域はひろがり、当協会の構成員も5600名を越すまでになりました。働く領域の拡大に伴い、担う業務もまた多様化してはいますが、いずれの場面に於いても専門性に裏打ちされた精神保健福祉士固有の業務が展開されているはずです。

 協会では、通常総会にて「精神保健福祉士業務指針」提案委員会にて検討を重ねた「新・業務指針(案)」を提案します。また、昨年度実施した、業務検討委員会の「精神保健福祉士の業務実態調査」の結果もあわせて報告し、グループディスカッションにて、参加者の日々の業務の目的を討論し、さまざまな側面から業務を考える機会にしました。

企画構成

  1. オリエンテーション
  2. 業務実態調査の中間報告/配布資料の「精神保健福祉士の業務に関する一次調査の中間報告」に基づき、集計結果の回答者の基本属性や精神保健福祉士として一日に実施した業務などについて報告。
  3. 業務指針の経過
  4. グループディスカッション
  5. 各グループからの報告
  6. 業務指針提案委員会報告

自主企画1−(2) 「自殺対策活動報告〜PSWの役割〜」

 今企画では、横浜市立大学医学部精神医学教室准教授である医師の河西千秋氏、青森県立保健大学健康科学部社会福祉学科講師PSW坂下智恵氏、杏林大学付属病院医療福祉相談室PSW加藤雅江氏、横浜市立大学医学部精神医学教室共同研究員PSW名取みぎわ氏をシンポジストに迎え、それぞれの立場からの自殺企図者への再発予防・ケア活動、市民への啓発活動の紹介、その中から見えてくるPSWの役割を考えた。コーディネーターは、横浜市立大学医学部精神医学教室共同研究員PSWである山田素朋子氏につとめていただいた。

シンポジスト1 河西 千秋氏

 横浜市立大学付属病院では救命救急センターに精神保健福祉モデルを持ちこみ、精神科医やPSWが、自殺企図者の精神疾患や発病、再発の契機となった社会心理的な要因に早期に介入し個別的な支援を行っている。データをもとにした自殺についての一般概論、市大病院での事例の紹介からPSWの役割を解説していただいた。自殺は複雑事象であり、健康問題や経済問題など、次元のちがう複数の危険因子が重なりあい、おこっている。自殺未遂者はハイリスク者であり、致死性が低かった未遂や自傷も、次第に致死性があがり、ついには既遂となることが多いとわかっている。救命センターはそういったハイリスク者が多く集まる場所である。自殺者のほとんどは、精神疾患を持っており、救命センターを退院したあとにも社会資源につながることが必要である。

 入院中から早期に精神科医、PSWが介入することで在院期間を短くし、地域につなぐことで再発を防ぐことができる。自殺未遂者は「終わらせたい」という思いで心が視野狭窄に陥っている。そういったサインに気付き、早期に発見、介入するには精神保健福祉に携わるものが適しており、生活支援、地域介入、個別支援ができるPSWが重要な役割を果たしている。自殺対策について、医療、看護、保健、福祉、教育の現場で教えていくことも必要だろう。

シンポジスト2 坂下 智恵氏

 自殺率が高い地域は、非生産者は不要との考えや、自殺を容認する風潮など、自殺に対して住民が特異的な考えを持っていることがわかっている。また、そういった地域では予防対策の不備も指摘されている。このような点にはPSWによる社会資源の開発や啓発活動が有効と考えられている。

 自殺対策は、自殺のリスクの高い個人への自殺防止、職場や地域など集団への自殺予防活動、自殺遺族者ケアの三本柱で行われている。青森県では、保健事業として、自殺率低減に有用なスクリーニングを用い、うつ病の早期発見、介入と啓発、健康教育を中心とした地域介入を行ってきた。一次スクリーニングは保健師が担当、PSWは2次スクリーニングやミーティングの段階から関わることとなる。

 また、啓発活動として、保健師、PSW、精神科医などが地域で車座となっての健康教室を行っており、その中でスクリーニングに参加する意味なども話される。福祉関係者へはケースワークや連携調整などの方法についての教育を行う。

 地域介入では、啓発、スクリーニングの面接、陽性者へのケースワーク、ゲートキーパーの養成、資源の開発とネットワークの構築、住民との話し合い、医療の必要性の判断、生活問題への介入、予防体制ネットワークの構築、援助を求めない人へのアウトリーチなどがPSWの役割、存在意義としてあげられる。

シンポジスト3 加藤 雅江氏

 地域の基幹病院である杏林大学付属病院救命救急センターでは、急性期特有の課題に対する援助、退院・転院援助、児童・高齢者虐待・DV症例への効果的な早期介入などのソーシャルワーク業務が行われている。その中で患者総数の1割を超える自殺企図患者の多さ、再発率の高さ、自殺企図者の低年齢化などの問題に気付き、PSW・MSWとして現場でできることを実践し続けている。

 杏林大学病院では、H12年から、救命センター内での精神保健福祉活動に取り組み、課題を抽出し、その視点を提示し、治療計画・看護計画の中に持ち込むことをルーティン化し、ケアを行っている。ソーシャルワークを救急医療に持ち込むことで、自殺は防ぐことが出来るというメッセージを浸透させ、自殺企図者の気持ちへ視点をずらすことの大切さ、精神疾患や精神医療への誤解や偏見の修正などに重点を合わせて活動している。ケース介入のきっかけは自殺企図であっても、ほかのケースと特別に変わることなく、あたりまえの医療を受ける権利を確保し、安心感を提供できる支援が必要である。

シンポジスト4 名取 みぎわ氏

 救命センターで命は助かっても、安心できるのは束の間で、生命の危険がなくなったころには周囲は混乱し、本人は身体的精神的に疲弊している。退院後も環境は変わらず、場合によっては後遺症が残り、混乱した中で本人の問題解決能力は低下しており、生きにくさは変わらない。厚生労働省の「自殺対策のための戦略研究」では、救命センターに搬送された自殺未遂者に対してソーシャルワークを含むケースマネージメントの効果を検証する研究が行われている。

 横浜市大病院では、救命センター退院後もフォロアップを行い、既存の地域資源を利用して援助を行っている。企図者へのアセスメントとして、希死念慮の有無、切迫度、実際の方法や準備をしているかなどを確認し、希死念慮への本人の対処行動などを確認することで、再希企図防止策を考え、本人が持っている資源の確認を行うなどの手法をとっている。

 県内の精神科病院医療相談室での実態調査では、希死念慮者本人への聞き取りで、自殺抑止因子として、家族や家族以外の重要な人の存在があげられた。また、必要と考えられる支援内容については、身近な相談機関の存在や、家族や周囲の理解をあげた人が多かった。PSWは日々の業務で希死念慮者と接触が多く、相談しやすい機関やネットワークの構築、家族の支援などを含め、意識的に自殺予防対策に携わるべき立場にあるといえる。そのためには、「自殺」の特性を知り、危険性に気付き、より適切なかかわりが出来るよう意識することが大切である。


自主企画1−(3) 地域ネットワークの作り方

内容

  1. 司会者自己紹介
    司会・進行:中島 直行氏(東京家政大学准教授/精神保健福祉士/特定非営利活動法人三浦半島地域精神障害者を支える会事務局長)

  2. 企画意図説明
    ・地域生活支援センターにおけるネットワーク構築の必要性
    ・世田谷区の事例をもとに学ぶ

  3. 講師紹介
    講師:進藤義夫氏:(特定非営利活動法人障害者支援情報センター理事長/精神保健福祉士)

  4. 世田谷区のネットワーク

  5. 司会者自己紹介
    司会・進行:中島 直行氏(東京家政大学准教授/精神保健福祉士/特定非営利活動法人三浦半島地域精神障害者を支える会事務局長)

  6. ツールドヨコスカ発表
    ・発表者自己紹介
     事例発表者:米田 順一氏(独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター/医師/退院促進ネットワーク「ツール・ド・ヨコスカ」メンバー)
    ・ツールドヨコスカの概要説明
    ・DVD上映
    ・成果と課題

  7. 質疑応答

  8. まとめ
    昨今、「退院促進支援事業」や「社会的入院患者72000人を地域へ」といった言葉が障害者福祉計画や障害者自立支援法の中でうたわれ、各方面から取り組み提案や事業説明などがなされている。そして、事業促進のためには地域のネットワーク構築が重要であるといわれている。
    本自主企画では、どこでも実践できるネットワークづくりの方法論はないかを検討するため、地域ネットワークづくりに先進的に取り組んできた東京都世田谷区の事例を紹介し、それを参考として現在ネットワークづくりに取り組む神奈川県横須賀・三浦地区を活動の場とした「ツール・ド・ヨコスカ」の事例を題材に課題や実践方法を検討した。

 以下、本自主企画で発表された事例について述べる。

 東京都世田谷区は人口84万人を抱える自治体であり、精神障害者日中施設も20ヶ所を越える。平成2年から共同作業所の『連絡会』が発足し、交流、行政への要望、共同事業などを行っている。連絡会は情報交換・教育・対行政交渉などの機能を持っているが、これは施設職員がフォーマルな会議のみでなく、インフォーマルな話し合いや懇親も行い、忌憚のない話し合いが出来る関係となっている。また、連絡会の共同事業の一つとして、「作業所ガイド&マップ」の発行が行われている。実行委員会形式で当事者が作業所を探しやすいようなページ作りが行われ、1996(平成8)年から第5版を重ねて、各施設や相談支援事業所、関係機関に置かれ閲覧が可能である。さらに、連絡会は精神保健福祉法にもとづく法内施設の整備に伴い、施設体系ごとの連絡会やその代表者会議が行われるようになり、重層的なネットワークが組まれるようになっている。今日では、障害者自立支援法の大波を受けながら、時には対策を考える会となったり、勉強会の機能を持ったり、行政交渉の場となったりしている。

 上記の『世田谷区精神障害者共同作業所連絡会』と並び、世田谷区の地域ネットワークづくりに『作業所見学ツアー』がある。1996(平成8)年から区内の精神障害者施設(現23ヶ所)を5つのブロックにわけて毎月5回見学するツアーが開催されている。当初は作業所職員と利用所の研修として始まった見学ツアーであるが、「作業所ガイド&マップ」の閲覧とともに、作業所を探したい当事者・家族、関係機関職員、ボランティアなどに利用されるほか、学生の勉強や地方からの見学にも利用されている。見学ツアーは当事者や家族にとっては、ややこしいセッティングなしに1日で複数の施設見学が可能である。施設側も事業開始当時はまだ閉鎖性が高かったが、「定例的に見学が来るのも当たり前」という土壌が形成された。また、連絡会だけでは交流が薄くなりがちな施設間の交流が維持され、その後、就労支援や退院促進にも見学ツアーというツールが利用されるようになっている。

 2006(平成18)年12月、横須賀・三浦地区の病院PSW、OT、医師、地域作業所職員、支援センター職員ら有志数名が集まり、障害者自立支援法の動きとは関係のない自主的な新しいネットワークを構築しようと「退院促進ネットワークグループ」が始まった。地域の保健医療福祉関係機関が参加できる退院促進支援のシステムができないかと考え、世田谷区の作業所見学ツアーを参考に。「入院中の方が、退院を目指すきっかけとなれば」と地域資源見学バスツアーを企画し、企画名を「ツール・ド・ヨコスカ」とした。4月の医療関係者を対象としたプレツアー以降、隔月でツアーと実行委員会を交互に開催し、3月までに計6回のツアーを行った。

 参加した入院中の方からは「いろいろな資源をみることができて良かった」などの感想を頂き、病院関係者からは「患者様が地域でどのような生活をしているのかを実際に見学できてよかった」、「退院後の生活まで見据えた関わりのモチベーションをあげたいと思った」など予想以上の好反応があった。入院患者と直接関わる病院スタッフに地域生活のイメージを持っていただくことで、より良い退院促進支援事業につながるのではと考えられる。実行委員メンバーはほぼボランティア的な関わりをしており、現状では多くの参加者の受け入れは難しいことなどの問題や課題もあるが、今後より多くの方が実行委員会に参加し、より一層充実した活動が出来ればと考えている。

 本企画内容が、地域ネットワークづくりについて改めて考える場となり、課題や展望も含め、ひとつの参考になることを期待し、全国の地域ネットワークの高まりや向上に役立てば幸いである。


自主企画1−(4) −KENRI−かかわるPSWの強さと弱さを識る

 東京・神奈川・埼玉の3都県では、4年前から合同の権利擁護研修を実施しています。午前中にシンポジウムや講義、午後は、各都県から事例を提供し、グループでディスカッションするというスタイルで行っています。今回は、その午後の部分だけを切り出し、参加型ワークショップとして企画しました。今回の企画には、全国から約50名の方が参加されました。PSWとしての経験年数や年齢も幅広い層の方が参加をしてくださいました。

 まず、企画の趣旨説明として、これまでの合同権利擁護研修の取り組みを踏まえ、過去4回の合同研修の内容の紹介、東京権利擁護委員会が行っていた独自の研修に神奈川県が加わり、埼玉県も加わっていき、現在のような合同権利擁護研修が毎年行われるようになった経過をスライドで説明しました。そして、研修の様子を具体的に知ってもうために、今年3月に行われた事例提供の様子をビデオで上映し、皆さんに見ていただきました。

 その後、今回の企画における3つの事例が、東京・埼玉の権利擁護委員会の皆さんによって、小道具や効果音などを使ったユーモアあふれる寸劇形式で発表されました。

<事例(1)>

 仕事帰りの飲み会のあと、ほろ酔い加減のベテランPSWが電車に乗り込み世間話をしているところへ、近隣保健所の美人保健師が乗ってきました。ベテランPSWは憧れの保健師の登場に嬉々とし、話を盛り上げようと、つい、最近一緒に関わった患者さんの話を始めました。ベテランPSWの声は段々大きくなり、保健師さんは戸惑い顔。後輩PSWも周囲を気にしてベテランPSWの袖を引っ張ったりしますが、ベテランPSWはかまわずしゃべり続けます。彼らが電車を降りていった後、その車内には話題に挙がった患者さんが乗っており、話を一部始終聞いていました。

<事例(2)>

 成年後見人に関する研修会の後、参加していた顔見知りのワーカー同士で話が始まりました。グループワークをした後ということもあり、口も滑らかになり、話がつきません。後見人をしている患者さんの話も話題に挙がり、その患者さんの財産のことなど個人に関わる情報を話し始めるワーカーも出てきました。それを聞いていた周囲のワーカーはどうしたらよいものか困ってしまいました。

<事例(3)>

 ある病院の新人ワーカーが、ある日上司に「もっと連携を大切にしなさい」と怒られます。その理由は、新人ワーカーが関わっている患者さんに以前関わっていたことのある外部のワーカーが、患者さんの近況を尋ねて来た時、「守秘義務があるから」と情報を伝えなかったからです。新人ワーカーは「守秘義務」と「連携」の狭間でどうしたら良いのか悩みます。

 今回の事例のテーマはいずれも「情報の共有とプライバシー保持」。情報には活用されるべき情報と守秘すべき情報があります。日常的にたくさんの情報を取り扱う私たちは、どのような視点でどのように支援していくことが求められるのかを、後半のグループディスカッションで話し合いました。

 8名程度のメンバーを名前順で7つにグループ分けをし、アイスブレイキングとして、クイズ形式の波長合わせなどを行いました。これにより、緊張がずいぶん解け、スムーズにディスカッションに移れた印象でした。本題のディスカッションは各グループ盛り上がりを見せ、2時間近くの話し合いとなりました。最後に各グループでどのようなことが話し合われたのか、模造紙にまとめて発表してもらいました。

 ・・・など、さまざまな意見が発表されました。これが正しいといった明確な答えの出せない話題ではありましたが、だからこそ、私たちの持つ情報が時として対象になる人のプライバシーを侵害する危険性があることを常に意識していくこと、このような機会に立ち止まって、他のワーカーと話し合い、自分の普段の情報の扱い方について見つめ直すことが大切であるということが確認できる企画となりました。


△前のページへ戻る