精神保健福祉士業務指針及び業務分類(第2版)


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はじめに

 業務指針の作成は、頂上の見えない登山に挑むようなものである。本協会における倫理綱領や業務指針の策定経緯は本文に詳しいのでここでは省略するが、本協会の前身である日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会の時代から国家資格化を経て十数年、社会情勢は刻々と変化し、また精神疾患や障害のある人々への支援方法も変化・発展してきていることに鑑みれば、唯一絶対を提示することの難しさは容易に想像できる。

 さらに、当事者・支援者がそれぞれの立場で展開してきた各種活動や世界情勢などに後押しされ、私たち精神保健福祉士のみならず精神疾患や障害を持つ人々のおかれている状況・環境にも変革が起こっている。他方、日本の社会状況は必ずしも好転の兆しがなかなか見えず、メンタルヘルスの課題は拡大しつつあるといえる。このような状況下、精神保健福祉士が狭義の「精神障害者」への支援のみならず、人々の精神的健康の保持増進のためにも多様な領域で活動を展開し始めて久しい。

 今回発刊される「精神保健福祉士業務指針及び業務分類 第2版」は、2010年6月の総会で採択された第1版において持ち越しとされた課題を引き受け、2012〜13年度の2年間をかけて「精神保健福祉士業務指針」作成委員会が担った改訂作業を結実させる形で発刊するものである。

 当初は、第1版において吟味不十分として掲載を見送った新規分野の収蔵と用語の定義の整理を中心的な目標に据えていたが、委員会における協議の結果、総論部分の見直しを含む第1版の改訂作業に多くの時間を費やすこととなった。このため、学校、産業保健などの新規分野の掲載は補遺形式で今後追加していく見通しであり、「精神保健福祉士業務指針」作成委員会には、山登りの歩を続けていただくことをお願いしている。

 第2版では、見やすさをより意識した記載方法に改めたほか、用語の統一にも精査を加えた。なお、業務指針はマニュアルではないことから、読み手一人ひとりが自身の職場環境や利用者の状況に合わせて考察と思慮や工夫を重ねることを求めており、業務指針を活用することにより実践力をさらに向上させることも目的としている。

 かつて坪上宏先生が、倫理綱領を「床の間の掛け軸ではなく、お茶の間の地図として」と言われたように、この業務指針が精神保健福祉士のそれぞれの現場で机上におかれ、また携行され、多様に活用されることを願うものである。

2014年9月

公益社団法人日本精神保健福祉士協会
「精神保健福祉士業務指針」委員会 担当副会長
(前「精神保健福祉士業務指針」作成委員会 担当理事)
田村 綾子


第2版の作成にあたって

 「精神保健福祉士業務指針」作成委員会(以下、本委員会)は、2012(平成24)年から2年間の協議を経て「精神保健福祉士業務指針及び業務分類 第2版」(以下、本業務指針)を作成し、この度、理事会の承認を経て構成員に提示する運びとなった。
 本業務指針は第2版とあるように、2010(平成22)年に総会採択された「精神保健福祉士業務指針及び業務分類 第1版」(以下、第1版)の改訂版である。また、第1版は、2008(平成20)年に「精神保健福祉士業務指針」提案委員会より提示された「精神保健福祉士業務分類および業務指針作成に関する報告書」をたたき台として作成されたものである。このように、本業務指針は、本協会における長年の取り組みを土台として完成したものであり、本委員会メンバーのみならず、これまで業務指針作成に携わってきた多くの構成員の努力に支えられてきたものである。
 本委員会では、まず第1版の記述内容のレビューを行い、第1版で示された「今後の課題」を踏まえ、今回の改訂の方向性と優先的課題を整理した。その結果、大幅な改訂を目指して活動計画を立て、作業に取り組むことになった。以下に改訂のポイントと本業務指針の構成について述べる。

■改訂のポイント

1.精神保健福祉士の価値と理念に裏打ちされた業務指針を示すこと
 第1版では、結果として「『業務』の根底にある『理念』や『視点』が見えにくいものになってしまっている」と述べられ、業務を通して精神保健福祉士の理念や視点が浮かび上がってくるような指針を作ることが今後の改訂作業の課題と位置づけている。本業務指針では、この重要課題に対応するべく協議を重ね、具体的な業務展開において常に理念や視点を確認できるような枠組みを設定して指針を示すことを目指した。

2.業務の定義及び業務を構成する要素の関係性を整理すること
 第1版では、精神保健福祉士の価値・理念そして視点について丁寧な説明がなされているが、「業務とは何か」を明確に定義しているとは言い難い。また「業務」「機能」「技術」「方法」などの用語に混乱が見受けられ、業務を構成する要素の全体関連性がつかみづらくなっている。これらのことが、1で述べた業務と理念や視点との関係を見えにくくしている一つの要因と考えられ、それぞれの用語の定義と関係性を明確化することに努めた。

3.精神保健福祉士の包括的な視点を表す業務指針を示すこと
 精神保健福祉士は「人と環境の相互作用」の視点に立ち、「ミクロ−メゾ−マクロ」のレベル性を包括的に捉えた実践を行っている。本協会の倫理綱領は「クライエントに対する責務」「専門職としての責務」「機関に対する責務」「社会に対する責務」を示しており、第1版ではこの4つの責務に沿って業務分類を行っている。本業務指針でも第1版の分類基準を継承しつつ、各業務の指針を示すうえでも単一レベルで完結することなくレベル間の関連性を示すような記述に努めた。

4.分野別業務指針の作成の方向性
 第1版では、新規分野の業務指針の作成を今後の課題にあげている。本委員会でもその必要性は認識しているが、まずは第1版で取り上げた3分野(地域、医療、行政)の改訂を優先することにした。分野別業務指針の構成や内容を精査し、記述の質を高めることによって、今後さらに広がりを見せる精神保健福祉士の職域に対応できる枠組みづくりが重要と考えたためである。

■本業務指針の構成と活用法

 本業務指針は4部で構成されており、各部の主旨は以下のとおりである。
 第T部は、精神保健福祉士の業務及び業務指針をめぐる動向を整理し、精神保健福祉士の業務特性について、「価値」「理念」「視点」「業務」「機能」「技術」「知識」それぞれの定義と関連性を踏まえて説明している。第U部、第V部を読む際の土台となる部分なので、第T部の内容を押さえて先に読み進めてほしい。
 第U部は、どの分野にも共通する精神保健福祉士の業務の代表例を取り上げ、各業務について、「目的−指針−業務−機能−技術」のつながりと「ミクロ−メゾ−マクロ」の連続性を押さえて指針を示している。一つの業務が多様な要素から構成されていることを示す見取り図であり、自分の行為の位置と方向性を確認するために活用してほしい。
 第V部は、分野別業務指針として地域・医療・行政分野に特徴的な業務とその指針を示している。実践現場において迷いや葛藤が生じやすい場面を例示し、それを指針に基づいて状況分析と課題を記述している。それぞれの現場における類似場面に活用するとともに派生する場面も想定して柔軟に応用してほしい。
 第W部は、本業務指針全般にわたる用語の解説と定義を行っている。ソーシャルワークにおいて類似する用語や一つの意味を示すのに複数の表現や表記があるなど用語の混乱がしばしば見受けられる。それらを明確に区分することは困難だが、本業務指針を読む際の一定の基準として確認してほしい。

 業務指針は実際に活用されてはじめて意味をなすものである。精神保健福祉士の業務指針としてこの第2版が一つの通過点であることを認めたうえで、構成員各位には日々の実践を振り返り確認する道具として活用して頂きたいと思う。そこから見えてきた本業務指針の課題や改善点を提示して頂き、本協会の業務指針の発展に多くの構成員が参画してくださることを願っている。

「精神保健福祉士業務指針」作成委員会
 委員長 岩本 操


精神保健福祉士業務指針及び業務分類(第2版)もくじ

はじめに
第2版の作成にあたって

第T部 精神保健福祉士の基盤と業務指針の位置
1.精神保健福祉士をめぐる社会状況
 (1)精神保健福祉をめぐる状況
 (2)精神保健福祉士の業務をめぐる動向
 (3)精神保健福祉士の業務指針作成の経緯
2.精神保健福祉士の実践基盤
 (1)精神保健福祉士の価値と理念
 (2)精神保健福祉士の視点
 (3)精神保健福祉士の対象
3.業務指針の位置づけ
 (1)業務指針のターゲット
 (2)業務指針の目的
4.精神保健福祉士の業務特性
 (1)精神保健福祉士の業務特性に関する整理
 (2)精神保健福祉士の業務に関する分類基準
 【表1】精神保健福祉士の業務特性に関する整理
 (3)精神保健福祉士の業務を構成する要素

第U部 精神保健福祉士の業務指針
第U部のねらいと活用上の留意点
1.精神保健福祉士の主な業務と定義
2.精神保健福祉士の主な業務と業務指針

第V部 精神保健福祉士の各分野における業務指針
第V部のねらいと活用上の留意点
1.地域分野における業務指針
 (1)はじめに〜地域分野の動向及び精神保健福祉士を取り巻く現状〜
 (2)地域分野における精神保健福祉士の仕事の実際と大切にしていること
 (3)実践上の指針
 (4)業務名
 (5)業務指針
2.医療分野における業務指針
 (1)はじめに〜医療分野の動向及び精神保健福祉士を取り巻く現状〜
 (2)医療分野における精神保健福祉士の仕事の実際と大切にしていること
 (3)実践上の指針
 (4)業務名
 (5)業務指針
3.行政分野における業務指針
 (1)はじめに〜行政における近年の動向及び精神保健福祉士を取り巻く現状〜
 (2)行政分野における精神保健福祉士の仕事の実際と大切にしていること
 (3)実践上の指針
 (4)業務名
 (5)業務指針

第W部 本業務指針における用語の解説
1.用語の解説と定義
2.法律名称と略語

おわりに
参考文献一覧


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