高齢入院精神障害者の地域移行支援に関する現状と課題−第1版−


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はじめに

 2004(平成16)年9月に厚生労働省の精神保健福祉対策本部は「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を提示し、「入院医療中心から地域生活中心へ」というその基本的な方策を推し進めていくため、心の病に対する国民の意識の変革や、立ち後れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を今後10 年間で進めるとした。そして、「受入条件が整えば退院可能な者(約7万人)」については、精神病床の機能分化・地域生活支援体制の強化等、精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を全体的に進めることにより、併せて10 年後の解消を図ることを目標にした。また、各都道府県の平均残存率(1年未満群)を24%以下とし、退院率(1年以上群)を29%以上とする目標の達成により、10 年間で約7万床相当の病床数の減少が促されることを意図した。しかし、それから10 年を経過したがこの目標は残念ながら達成されていない。現在、わが国において精神科病院の病床の一部を居住施設に転換する計画が提示されているが、このことは本年1月にわが国が「障害者権利条約」を批准しているが、その第19 条(自立した生活及び地域社会への包容)に、「全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと(後略)」と定められているが、この居住施設転換案はその条文内容に違反するという意見もある。この計画は一向に進まない精神科病床の削減に向けた苦肉の策としか考えられない。

 私事であるが、初めて精神科病院の中に入ったのは40 年前である。普通に会話できる人たちがあまりにも多く入院されていることに驚いた。かつて精神科病院で働いている時に、その人たちが「院内寛解」をしている人であるということを知った。この「院内寛解」をしている人たちが現在の「社会的入院」者ということである。この問題は、わが国の精神医療における歴史的な課題であり、脱施設化は欧米諸国に比較してまったく進んでいないという現状にあることはだれも否定できない事実である。我が国の精神医療福祉における人口に比する精神科病床の数値、入院患者の平均在院日数、入院者の高齢化、地域生活支援体制整備の状況などのどれを取り上げても深刻な数値を示し、この「社会的入院」は「高齢精神障害者」問題として政策的に喫緊の課題として提示されている。しかし、高齢精神障害者という呼称は、確かに高齢化の問題ではあるが、我が国の精神医療福祉の政策的・歴史的な課題であり、人権侵害の問題であると考える。

 そして、私たち精神保健福祉士にとっても、精神保健福祉士が必要とされた国家資格化の背景にある現実的な実践課題である。2014(平成26)年4月より「精神保健福祉法」の改正が行われ、保護者制度の廃止に伴って医療保護入院のあり方についての検討がなされた。そして、医療保護入院者の早期退院を促進するために、退院環境整備の支援と地域関係者との連携を進める精神保健福祉士の役割が明確に打ち出されるとともに、精神医療審査会に参加し精神障害者の権利擁護を推進する役割が具体的に示された。

 この「高齢精神障害者支援検討委員会」は、近畿・北陸地域の精神保健福祉士が、精神科病院における「社会的入院」の実態を明らかにすることと、その人たちへの支援の課題と精神保健福祉士の活動の方向性を明確にすることを目的に組織され、調査・研究を進めてきた。その調査・研究により、550 例以上の長期入院の方々の状況を明らかにしたことは、我が国の「社会的入院」者の実態を知る上で重要な資料となった。

 また、調査を進めるにあたって近畿・北陸を中心に多くの方々に協力して頂いたことを心より感謝するとともに、この研究の結果が精神科病院に長期に入院されている方々の地域移行・地域定着に向けた精神保健福祉士の活動に資することを願いたい。

荒田 寛


高齢入院精神障害者の地域移行支援に関する現状と課題−第1版−もくじ

はじめに

T.高齢入院精神障害者に対する精神保健福祉士の支援に関する調査の概要
 1.背景
 2.目的
 3.方法

U.本調査に協力の得られた医療機関の概要
 1.目的
 2.方法
 3.結果
 4.考察

V.「高齢入院精神障害者」の本人の特性
 1.目的
 2.方法
 3.結果
 4.考察

W.「高齢入院精神障害者」の生活能力と生活環境
 1.目的
 2.方法
 3.結果
 4.考察

X.地域移行支援に対する「高齢入院精神障害者」と精神保健福祉士の認識の相違
 1.目的
 2.方法
 3.結果
 4.考察

Y.地域移行を促進するための精神保健福祉士の支援内容
 1.目的
 2.方法
 3.結果
 4.考察

Z.本調査の意義とまとめ
 1.本調査の意義
 2.まとめ

[.今後の課題
 1.本調査の限界
 2.今後の課題

おわりに

添付資料(調査票)
委員会体制(執筆担当)


2012 年度〜2013 年度 委員会体制(執筆担当)

委員長 荒田 寛(龍谷大学:滋賀県) はじめに
委員 磯ア朱里(田村病院:和歌山県) U.V.W.X.Y.自由回答
岡安 努(やたの生活支援センター:石川県)
蔭西 操(南加賀認知症疾患医療センター:石川県)
木下淳史(堺第2地域包括支援センター:大阪府)
木下未来(西山病院:京都府)
小下ちえ(浅香山病院:大阪府) X
栄セツコ(桃山学院大学:大阪府) T.Z、[、おわりに
清水美紀(セフィロト病院:滋賀県) W
野原 潤(吉田病院:奈良県) Y
南さやか(ACT−ひふみ:大阪府) U.V
担当部長 岩尾 貴(石川県障害保健福祉課:石川県)  
助言者 柏木一惠(浅香山病院:大阪府)  

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