高齢入院精神障害者の地域移行支援に関する現状と課題−第二版−


はじめに

 近年、我が国における高齢化率の上昇に伴い、精神科病院における入院者の高齢化が顕著な課題となっている。2011年の厚生労働省の患者調査によれば、入院者30.2万人のうち、65歳以上の占める割合は51.5%(2007年度は45.4%)を占める。このようななかで、厚生労働省は2012年度から「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」に「高齢入院患者地域支援事業」を新設したものの、「高齢入院者」の地域移行は病院独自の取り組みに委ねられてきたことから、その実態すら明らかにされていないのが現状である。そこで、「高齢入院者」の現状把握とそこから抽出された課題に対して、精神保健福祉士が支援すべき方策を提言するため、(公社)日本精神保健福祉士協会は2012年に高齢精神障害者支援検討委員会を設置した。

 本委員会は近畿・北陸地域の構成員で結成され、初年度は「高齢精神障害者」の現状に関する意見交換を重ねた結果、入院者の高齢化・長期化と認知症患者の増加の課題が析出された。そこで、次年度は「高齢入院者支援チーム」と「認知症者支援チーム」の下部組織を設置し、前者は高齢入院者の像とその病棟生活の実態に、後者は認知症者にかかわる医療機関と地域包括支援センターの連携に照準をあてて調査・研究を進めることにした。

 本報告書の第一部は、2012年度からの2年間にわたり行われた、「高齢入院者」の実態調査の報告である。要約すると、558人の「高齢入院者」と呼ばれる方々の心身の状況や生活実態は「社会的入院者」の像と同様の傾向を示すものだった。その一方で、「任意入院」者が療養病棟で閉鎖処遇にあるものが多かった。また、「退院」希望者が4割と高いにもかかわらず、精神保健福祉士に対する「希望がある」とする回答は2割に留まっていた。このような「高齢入院者」に対して、我々の想定すべき退院先は「特別養護老人ホーム」等の介護施設を選定する傾向を示すものの、要介護認定調査の未申請者は7割近くもあった。第一部の課題として、本調査で明らかになった「高齢入院者」の実態をもとに、精神保健福祉士の具体的な支援内容を検討することがあげられた。

 そこで、第二部では2014年度から2年間にわたり行われた「高齢入院者」に対する精神保健福祉士の支援の検討をもとに、その支援のあり方を提言した。具体的には、「高齢入院者」の退院に対する希望は入院期間が15年を超えると退院希望「有」が「無」に転じることを鑑み、通算入院。期間(3群)と退院希望の有無(2群)を軸として入院者を6群に分類した。その特性の析出に基づき、具体的な支援内容を提示したものの、「高齢入院者」の入院期間の長期化は「本人」「家族」「地域の受け皿」に加えて、「精神保健福祉士のかかわり」の課題が複雑に複層化していることが明らかになった。

 本報告に示す調査結果は「高齢入院者」と呼ばれる人々に対して、精神保健福祉士が十分にかかわれていない現状が明らかとなり、改めて我々精神保健福祉士の人権意識が問われるものとなった。地域包括支援システムが提唱されるなかで、本委員会が提示した「高齢入院者」への支援内容をいかに具現化できるのか、今、精神保健福祉士の真価が問われている。

 本報告書の作成にあたって、近畿・北陸地域の医療機関の入院者の方々やスタッフの方々、本協会の構成員の方々に多大なるご協力をいただいたことを心より感謝するとともに、本調査研究の成果が「高齢入院者」と呼ばれる方々の地域移行・地域定着に向けた精神保健福祉士の活動に資することを願いたい。

高齢精神障害者支援検討委員会 委員長 栄セツコ


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高齢入院精神障害者の地域移行支援に関する現状と課題−第二版−
目次

第一部 第二部
高齢入院精神障害者の特性−入院期間と退院希望の関連性に関する調査
はじめに

T.高齢入院精神障害者に対する精神保健福祉士の支援に関する調査の概要
1.背景
2.目的
3.方法

U.本調査に協力の得られた医療機関の概要
1.目的
2.方法
3.結果
4.考察

V.「高齢入院精神障害者」の本人の特性
1.目的
2.方法
3.結果
4.考察

W.「高齢入院精神障害者」の生活能力と生活環境
1.目的
2.方法
3.結果
4.考察

X.地域移行支援に対する「高齢入院精神障害者」と精神保健福祉士の認識の相違
1.目的
2.方法
3.結果
4.考察

Y.地域移行を促進するための精神保健福祉士の支援内容
1.目的
2.方法
3.結果
4.考察

Z.本調査の意義とまとめ
1.本調査の意義
2.まとめ

[.今後の課題
1.本調査の限界
2.今後の課題
 
おわりに
 
はじめに

T.調査の背景と目的
1.背景
2.目的

U.方法

V.結果
1.年齢
2.性別
3.ADL:移動
4.ADL:食事
5.ADL:排泄
6.入院生活や退院に関する協力者の有無とその内訳
7.経済状況
8.現在の病棟
9.現在の入院形態
10.退院に向けた支援
11.精神保健福祉士の本人へのかかわり
12.本人が認識する精神保健福祉士のかかわり
13.精神保健福祉士の本人へのかかわり
14.想定される退院先

W.考察

X.本調査の意義とまとめ
1.本調査の意義
2.まとめ

Y.本調査の限界と提言
1.本調査の限界
2.政策提言に向けた課題

おわりに
添付資料(マトリックス表)
添付資料(調査票)
編集・執筆者



公益社団法人日本精神保健福祉士協会 精神保健福祉部 高齢精神障害者支援検討委員会

役職 氏名 所属機関(支部)
部長(副会長) 宮部 真弥子 谷野呉山病院 脳と心の総合健康センター(富山県)
委員長 栄 セツコ 桃山学院大学(大阪府)
委員 南 さやか ACT−ひふみ(大阪府)
委員 清水 美紀 セフィロト病院(滋賀県)
委員 野原 潤 吉田病院(奈良県)
委員 磯ア 朱里 田村病院(和歌山県)
委員 小下 ちえ 浅香山病院(大阪府)
委員 木下 淳史 堺第2地域包括支援センター(大阪府)
委員 木下 未来 西山病院(京都府)
委員 野村 恭代 大阪市立大学(大阪府)
委員  蔭西 操 南加賀認知症疾患医療センター(石川県)
助言者  荒田 寛 龍谷大学(滋賀県)
助言者  柏木 一惠 浅香山病院(大阪府)

(2016年6月30日現在)


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