報告

公益財団法人社会福祉振興・試験センター2015年度福祉人材養成・研修助成事業
課題別研修/精神保健福祉士の成長を促す「業務指針」活用法
〜私たちの専門性を伝えるツールとして〜を受講して

 2015年度は、「課題別研修/精神保健福祉士の成長を促す「業務指針」活用法」、東京都会場、宮城県会場、大阪府会場の3地域で開催します。ここでは、各会場が終了するごとに修了者からの報告記事を掲載していきます。


<東京都会場>
赤畑講師による講義2 演習の様子 全体会の様子 代表者による修了証書授与

・ 『PSWとしての私』を可視化する、という体験

地方独立行政法人 山梨県立病院機構 山梨県立北病院/経験年数5年 高橋 千華

  お恥ずかしい話ですが、正直なところ私はいつも自分の仕事に漠然とした『不安』を抱えていました。就職したての頃の『右も左もわからない不安』ではなく、『何となくできている気がするけれど、これでいいのか?』という不安です。自分なりに「正しい」と思ってはいるのですが、「PSWとして本当にこれでいいのか?」と考えては怖くなることがありました。そんな迷えるPSWの私ですが、今回こちらの研修で業務指針作成の経緯やその意義、活用法を聞かせていただき、ぼんやりとですが、自分の中に一本筋が通ったような感覚を味わっています。

 機能分化され制度化される中で、私達若いPSWは日々の業務の忙しさに追われ、自分達がどのような業務を行う職種なのかを問い直す時間が十分ではないと感じます。講義の中では、業務指針に対するイメージや捉え方が人によって違い、業務を分類化することへ抵抗を感じる人もいる、とのお話を聞きました。確かに、私たちが日々行っている実践はクライエントによって手法を変え、視点を変え、柔軟に対応するものであり、たとえば『相談援助』一つ取ってもただ一言で説明できるものではありません。明文化されることでマニュアル化され、そこからPSWの理念や専門性を読み取ることが難しくなってしまうのではないか、という懸念は確かにあるかと思います。

 しかし、日々PSWの在り方やその価値を模索している私にとっては、業務指針は自分の業務を点検できるツールになると感じられました。この研修を通して、また改めて業務指針のページを開いて、「PSWの業務と価値は何か?」と自分自身に語りかけてみました。そうすることで、足を止めて日々の実践の振り返りができたように思います。それはまさに『PSWとしての私』を可視化する作業でした。日々の業務は、放っておくとただ流れていってしまいます。けれどもそれをもう一度たぐり寄せ、中身を吟味するための方法として、今後もこの業務指針を活用していきたいと思います。

 さらに研修を通して感じたことは、「PSWってこんなに色々なことをしていてスゴイ!」という明るく前向きな気持ちです。「自分も少しは頑張れているかな?」と思うと、不思議と翌日出勤するのが楽しみになりました。また、グループワークでは諸先輩方のお話を聞かせていただき、様々な立場と視点から業務をなさっている姿に憧れを感じました。今後は、自分の実践と言葉を通して、クライエントや他職種に『PSWの価値』を感じてもらえるような専門職に成長したいと考えています。


<宮城県会場>
岩本講師による講義1 演習の様子 全体会の様子 代表者による修了証書授与

・ 自宅の書庫ではなく、職場のデスクに「業務指針」

医療法人社団 清泉会 布施病院(青森県)/経験年数15年 三浦 良介

 私の勤務する病院では、精神保健福祉法の改正をきっかけとして、退院後生活環境相談員となる精神保健福祉士が病棟に配置されたことにより、大きく分けて病棟と外来部門で「分業化」がなされました。

 「PSW業務の分業化、スピード化が進んでいる」と、今回の研修で語られたような状況です。一人部署となる精神保健福祉士も増え、先輩の背中を見る機会も昔より減り続けていると思います。どこの現場でも似たようなことが起きているものと考えますが、まさに「指針」を失ってしまいがちな状況と言えるのではないでしょうか。

 私は職場のデスクマットの下に、協会が作成した倫理綱領を印刷したものを常に置き、時折目を通し、思ったことを書き足すことをしてきました。改めて見直してみると、この作業を始めた当初から、私は倫理綱領に書かれていることをどのように実践と結びつけたらよいものか、と悩んできたようでした。それは、ある程度の経験と振り返りを重ねることでようやく内容が少しずつ自分に落とし込まれていったような感覚があります。研修内容と重なりますが、まさに倫理綱領に向かう指針を探していた状況です。

 精神保健福祉士の「業務」とは、ソーシャルワークの価値や理念を具体的に表す行為である、と今回の研修で学びました。研修のテキストである「精神保健福祉士業務指針及び業務分類第2版」が自宅に届いたときは、正直に言うと、内容を読み解き、実践に生かすまでをイメージできぬまま自宅の書庫に仕舞っておりました。研修を受けてみると、実践の振り返りやOJT、実習指導、業務管理などで即活用しうるものである、ことがわかりました。

演習で行った活用法ワークショップですが、場面事例を用いて、その状況分析と課題整理を行い、その業務を展開するにあたって必要な知識、技術を具体的に述べ、クライエントを取り巻く環境に目を向け、どのような業務展開が考えられるかをミクロ、メゾ、マクロの実践レベルで具体的にまとめてみるという作業を行いました。普段あまり行わない作業であり、少々戸惑いましたが、実際行ってみると、不足していた知識、欠けていた視点などを点検することができました。

 クライエントとの関わりや、先輩方の背中から学ぶような、どこか職人技的な要素もこの仕事にはあると思います。しかし、これからは私たちが身につけてきた技術や専門性を体系的に学び伝えていく機会が、もっと必要になってくると思います。職場のデスクに「業務指針」を置き、活用していこうと思います。


大阪府会場
原見委員による調査報告 演習の様子 演習の様子2 代表者による修了証書授与

・ 業務指針から見る精神保健福祉士の専門性

松風病院(愛媛県)/経験年数20年 戸山 理恵

 近年、精神保健福祉士の業務は多種・多様化しておりその職域は拡大する一方です。それに伴い業務は制度化・分業化されスピードを求められ、じっくり丁寧に取り組めない現状があります。それらに対応すべく作成されたものが業務指針であり、精神保健福祉士が意味と意義を立ち返る根拠となるものとして大きな意味を持っています。しかし、「それを元にきちんと振り返れているか?」「根拠を明確に伝えられているか?」「後輩指導や組織での会議などに運用できているか?」と問われると、しつかり答えることができないと思い、今一度自分の襟を正す気持ちで参加しました。

 午前中は、岩本操氏(武蔵野大学)より精神保健福祉士業務指針及び業務分類第2版の作成経緯・活用法について講義して頂きました。講義の中で、PSWの業務は時代の流れと共に多岐に渡り、また所属機関ごとに業務内容も様々です。その中で専門職としての考え方や捉え方・関わり等、専門職としての質を担保するため、大枠としての倫理綱領があり、実践場面で求められる必要な機能や技術、理論、知識を示す業務指針があることを話されました。その中で、曖昧なものを言語化していくこと、曖昧だからこそ実践を共通の枠組みに沿って整理し、可視化し、説明する必要があることを意識として持つことができました。

 午後は業務指針の実践的活用法について、当時作成委員だった赤畑淳氏(帝京平成大学)の講義の中で、PSWの業務はソーシャルワークの価値や理念を具体的に表す行為であり、業務指針の活用法として(1)実践の振り返り(2)OJT・実習指導(3)業務管理・開拓の3つの場面について話されました。精神保健福祉士の業務は、目に見える部分として場面・状況(人と環境)と見えない部分(解釈・分析)があり、後者では特に専門性が求められ、常に立ち位置を確認していく必要があります。PSWの業務特性の確認・点検作業、専門性を内外に発信していくためのツールとして活用できること、していくことの必要性を改めて感じました。

 また、グループワークでは、場面事例を用いての状況分析と課題の整理と、業務を展開するための知識・技術の確認と活用、包括的視点について話し合いました。日々の業務の中で個人や集団に働きかけることは多くありますが、専門職や組織に展開させることはあっても、地域や社会に投げかけることが出来ていません。そこまでがPSWとしての責務であることを再認識しました。

 この研修を終えて、価値や理念・視点を自己確認しながら、日々の業務や後輩指導、実習指導にあたる必要性の再確認ができました。今後は、自分なりの根拠ではなく共通する根拠へ言語化していくことに努力していきたいと思います。


△報告一覧ページ