報告

「課題別研修/ソーシャルワーク研修2011〜知識や技術を高めよう〜」を受講して

2011年10月29日(土)、30日(日)、関西学院大学・西宮上ケ原キャンパス(兵庫県西宮市)にて、「ソーシャルワーク研修2011」を開催しました。ここでは、6つのテーマの各修了者からの報告記事を掲載します。


・ テーマ1 深めよう権利擁護〜身近に潜む人権侵害〜

講義1の壬生講師 会場の様子 講義2の青木講師 演習の様子

■権利性の視点に基づいた支援をするために

財団法人 信貴山病院 ハートランドしぎさん(奈良県)/ 経験年数2年半 安居 幸栄

 この1年半私は、病院のスーパー救急病棟PSWとして勤務をしてまいりました。この病棟には、入院期間が長くても3カ月という前提があります。そのため、患者様の入れ替わりサイクルが早く、やれ自立支援の申請だ、やれ施設利用だというように、手続き業務や連絡調整業務に追われることが多い毎日でした。このことは、本来専門職として一番大事にしなければならないはずの「権利擁護の視点」が、これら日常業務の陰に隠れてしまっていたと言えると思います。そこで、これまで自分が行ってきた支援が、本当の意味で患者様の権利を守る立場できちんと支援できていたのか、もしできていないのであればそれはなぜなのかを見つめ直すよい機会になると思い、今回の課題別研修に参加させていただきました。

 そして、実際に参加してみての感想は、「参加してよかったぁ!」の一言に尽きます。

 とりわけ「障害年金制度の正しい使い方」での学びは、非常に印象的で価値あるものとなりました。なぜならば、私が今後ただの専門職としてではなく、実質的にも本質的にも福祉の専門職として誇りをもって仕事をしていく上での基盤となるものだったからです。

 その一つに、講義の中で、「単に障害年金制度を活用するということであれば、法律の専門家である社会保険労務士の方に依頼することの方がずっと効率的でいい場合もありますよね」という先生からの問い掛けがありました。それを聞いた瞬間、「確かに、自分のつたない知識と経験からすれば、そちらに依頼する方が患者様のためにもいいのかもしれない」と思ってしまいました。しかし、その後の講義を聴き、またグループワークで仲間と語り合うことで、我々福祉職の専門性に改めて気付くことができました。

 我々の専門性は、受給できたかできなかったかという結果も大事ではありますが、そこだけに重きを置くのではいけないということでした。つまり、その方がこの世に生を受け、不幸にも障がいを負い、そして、障害年金を申請するに至るまでの生活歴全体に権利性の視点を持ちつつ専門職として一緒に向き合うことができたかどうかが大事だということです。その上で、結果の如何によらず、その方が心から「申請してよかった!」と思っていただける支援にこそ、我々の専門性が発揮できたと言えるわけです。

 それは日頃から専門職も、障害年金を受けるとはどんな気持ちなのかということを深く考え、当事者の「自分は障がい者ではない」「受けると肩身が狭くなる」といった障がい受容やスティグマの克服といった課題に対して、寄り添い一緒に考えていくということです。

 また、究極的には、障がいを負った場合にはだれもが当然のように障害年金を申請し、それを受給できる社会、周りの人もそれを当然のように受け止められる社会を作っていくという使命が、一精神保健福祉士である私にもあるということでもありました。

 今回、研修への参加ならびに報告できる機会を与えていただきまして、誠にありがとうございました。これからも機会あるごとに研修に足を運び、専門職に必要な知識・技術に留まらず、価値観・倫理観をも学び、現場で大いに活かしていきたいと思います。

※テーマ1での障害表記は、報告者の記載のとおりに表記しています。


・ テーマ2 業務指針の理解と活用

講義2の中川講師 シンポジウム 会場の様子 修了証書授与

■床の間の掛け軸ではなく、茶の間の地図へ

浅香山病院(大阪府)/経験年数5年 市川 智美

 私が「業務指針の理解と活用」を選んだ理由は、自分の仕事の仕方について振り返り点検したいと思ったからです。デイケアで勤務している中で、他の職種の方との違いを感じることがあり、自分は精神保健福祉士として何をするのか改めて考えたいと思いました。また、利用者との関わり方を振り返り、見直す機会になればと思って参加しました。

 研修では、業務指針が考えられた背景や倫理綱領との関係を学び、「業務とは何か」を講師に問われました。ソーシャルワーカーが行う支援以外の事務的なこと等も含め、一日の仕事をすべて‘業務’として振り返る機会があまりなかったことに気づきました。精神保健福祉士が国家資格となる際、国の政策として国から与えられる業務ではなく、‘社会福祉学を基盤とする専門職として、独自の業務指針をもつこと’を対抗軸として重要にしてきたことを知りました。私は社会福祉学科で学んでいたため‘精神保健福祉士=ソーシャルワーカー’と思っていましたが、必ずしもそうではないという現状があり、対抗策の重要性を今後より強く意識しておく必要があると感じました。

 ソーシャルワークの価値を明文化した倫理綱領をもとに作られた業務指針は、具体的実践内容についての行動綱領であるということでした。倫理綱領は‘床の間の掛け軸ではなく、茶の間の地図’とするべきであり、今回の講義を聴き、日々身近に置いて道しるべとして使っていかなければならないと思いました。

 講義の後半では「職場の日常業務において、常に大切にしていることは何か」「それは職場が変わってもソーシャルワーカーである限り不変のことか」という問いがありました。私はPSWとして利用者の気持ちやその人のペースに合わせた支援を大切にしていきたいと考えています。それはどの部署であっても、私にとって変わらないことであると改めて認識しました。自分の仕事の仕方について点検しなければならないという意識はあったものの、「ここだけは譲れないと現場で思っていることは何か」という能動的な意識をあまり持てていなかったことに気づかされました。業務指針そのものはマニュアルではなく、それをもとに自分がPSWとして何を大事にして働いていくかを考えていくものであるということも大変印象的でした。この研修で学んだことを今後の実践に活かしていきたいと思います。


・ テーマ3 障害特性の理解と支援

井上講師の講義1の様子 講義4の山中講師 会場の様子 修了証書授与

■私へのご褒美研修

特定非営利活動法人シニアライフセラピー研究所亀吉(神奈川県)/経験年数7年 木本 幸子

 10月29、30日の2日間でテーマ別の研修がありました。発達障害、高次脳機能障害、聴覚障害を取り上げるテーマ「障害特性の理解と支援」に参加しようと思いました。なぜ、このテーマを選んだかというと、障害名はよく聞くけれど、自分のかかわりは適切なのか、そもそも障害をきちんと理解しているのか不安なまま支援をしていると感じていたので、現場で働くPSWの生の声を聴くことで安心したかったのが動機でした。

 どの障害にも共通しているのは、他人には理解しづらいことが多いということでした。身近な家族や周囲との関係性が変化してしまうことや、障害を持った方たちが安心して過ごす場所が少ないため、本人と家族の距離が近くなることで、さまざまな葛藤や衝突が生まれ、互いに疲弊してしまうなどを具体的に聞くことができました。それに対する支援として、障害者にも家族や周囲の人にも必要な情報を「分かる」ように呈示することが有効だとのことでした。なぜなら、集団に入りやすくなり、生活の仕方や活動内容、ルールが理解しやすくなるからのようですが、これは実は、障害者だけでなく家族や私たち支援者にとっても当事者の見通しが立つので安心できるのだ、という言葉にドキッとしました。当たり前のこととして、普段の業務で常に相手に分かりやすく、簡潔に伝えることを意識してきたつもりでしたが、どこかで障害名にとらわれて勝手に支援が難しいと感じていたことを実感したからでした。障害が細分化されたことで、よりピンポイントな支援にPSWが従事していることを今回の研修で実感しました。それだからこそ過敏に構えてしまうのかもしれないと感じました。構えるのではなく、仲間の業務に興味を持ち、障害特性を理解するだけではなく、互いの経験や情報を伝え合えるような場に積極的に出て、自分のことを語り合うことも大切だと思いました。

 最後の講義のテーマは、従事者のメンタルヘルスでした。「今日ここに来た自分をほめてあげてください」とおっしゃったとき、正直ピンときませんでした。先生は、われわれ支援者は他人にばかり目を向け、より良い支援者になるための知識を吸収しようとしてないかとおっしゃいました。もっと自分に目を向け、自分をケアする(大切にする)ことで、自分が大切な存在になり、その先にいる支援者に良い支援ができるということを学ぶことができました。一番うれしかったのは、先生が私に「一生懸命聞いてくれているあなた」と言ってマイクを向けてくれたこと、そこで自分の気持ちを少しだけ表現できたこと、そして、それを「良いことだね」と肯定してもらえたことでした。きっと仕事を休んできたことにちょこっと罪悪感をもっていたからでしょうか。このような感情にも気付くことができ、研修後に気持ちを切り替えて観光が楽しめ、まさに、「自分へのご褒美研修」となりました。皆さんも、こんな楽しい研修への参加はいかがですか?


・ テーマ4 地域生活移行支援は進んでいるの?〜医療・福祉の連携はこう作る!

殿村講師の講義1の様子 講義2の佐原講師 講義3の田村講師 演習の様子

■地域移行支援を通しての精神保健福祉士としての在り方

医療法人社団橘会 多度あやめ病院(三重県)/経験年数4年 辻 宏明

 私が所属する多度あやめ病院は、精神科急性期治療病棟56床と認知症治療病棟60床、精神科療養病棟(開放・閉鎖)各60床を有する病院です。また、愛知県、岐阜県、三重県3県の境にあるというのもこの病院の特徴です。

 現在、私は開放病棟担当で長期入院患者様の地域移行支援を行う業務をしております。今後の地域移行支援への取り組み方や普段の業務を振り返るため、10月30日(日)開催の「ソーシャルワーク研修2011 テーマ4地域移行は進んでいるの?〜医療・福祉の連携はこう作る!」を受講しました。

 今回の研修では、「社会復帰調整官の実践から」、「訪問型生活訓練とは」、「PSWの役割と課題の再整理」、チェーンレクチャー「支援のおもしろさ・難しさ」の講義がありました。「支援のおもしろさ・難しさ」では3人の先生方からのお話やピアサポーターさんの生の声を聞くことができました。また、最後に受講者間での話し合いとして、普段お会いすることができない方々と、各々の現状を踏まえてお話をすることができました。

 研修で印象に残ったのが、地域移行支援、地域定着支援にはアウトリーチによる包括的生活支援が有効だとされていますが、実際にはそういったサービスが少ないこと、そして、地域定着支援の必要性とその導入方法などを学びました。それらは、非常に役立つことが多く、今後の業務で活かしていければと思いました。次に印象的だったのが、「支援のおもしろさ・難しさ」というプログラムでの、地域移行推進員としての活動やその意識についてです。地域を中心に活動するケースワーカーの方でも、他機関においては、なかなか「外部の人間」という枠を超えることはできないと思います。その枠を超えるために行っている活動や意識が、とても素晴らしいものだと思いました。そういったことを行っていくことで生まれる連携はすごく重要であると思います。地域で活動する方々と病院や施設で活動する方々が連携することによって、困難であったことができるようになっていくことの重要性を再確認することができました。

 実際に支援に取り組む中で、このままで良いのか、業務をどういったふうに行っていけばいいのかと考えることが多々あります。しかし、今回の研修を通して、専門職として重要なことを学びました。それは、それぞれ活動する場は違ってもつながりを大事にして、連携を取っていくことの大切さです。こういった研修に参加することで、普段の業務では学べないことや新しい視点などに気付くことができました。今後は「知識」「技術」「価値」という専門性を踏まえたうえで、地域で活動する人たちとも積極的に連携を取っていけるよう、研修で得たものを活かしていきたいと思います。また、このような機会をあたえて頂いた皆様に感謝いたします。


・ テーマ5 精神保健福祉士の魅力(初任者・学生向け)

元井講師の講義2の様子 会場の様子 シンポジウム 修了証書の授与

■伝えたい精神保健福祉士の魅力

医療法人好寿会 美原病院(大阪府)/経験年数8年 角田 純一

 私は、今の職場で8年の経験を積み重ねる中で、数年前より後輩・実習生への関わりを意識するようになり、改めて自分自身の中で今まで実践してきたソーシャルワーク・そこに感じる魅力・やりがいをどのように“言語化し継承”していくのかが自分の中での課題でもあったので、この研修を受講しました。

 4名の講師の方々の講義を拝聴し、「気づき」「寄り添い」「橋渡し」「権利擁護」等々の話がありましたが、私自身が感じた4名の講師の方々の日々の実践での共通項は、目の前の対象者について、対象者の有益になるために、どれだけ対象者のことを語ること・言語化すること≠ェできるのか?という部分でした。日々の実践の中で、対象者との関わりを通して、対象者が当たり前の生活を構築していくために、共に、悩み、笑い、泣き、対象者と共働する。対象者自身の生活を、はたまた人生に関わることを共に考えさせていただく中で、対象者のことを伝え・語る過程で、成功する時や失敗する時を共有することができる。直接私自身との関わりが途絶えたとしても、他の仲間(精神保健福祉士)につながっていく。そんな中で、人生の一旦を担わせていただいたことへの感謝が一番の魅力だと考えます。

 精神保健福祉士の魅力は誰よりも対象者のことが語れること∞生活への関わり・人生への関わり≠ニ考えていますので、日々の実践の中で、覚悟と責任を意識する必要があると考えています。知っていたつもり・分かっていたつもり・できないと聞いていた等いろいろとあると思いますが、共働していく者としては、多角的に背景などのアセスメントをし、しっかり言語化し、本人・家族・多職種へのプレゼンテーションに磨きをかける必要があると感じています。そして、権利擁護について代弁する視点は、精神保健福祉士として忘れてはいけない部分であるとも考えます。そのためにも、日々の実践では言語化することを心がけ、誠実に向き合い、想像力を働かせ、対象者の本心に向き合っていきたいと思います。

 最後に、魅力を誰よりも対象者の事が語れること≠ニ偉そうに書いていますが、これは、数年前に、当時デイケアでの先輩作業療法士の口癖であり、当時は、あまりピンと来ていなかった言葉です。今回、講義を拝聴し、講師の方々の実践を伺い、少し整理ができ、意味が分かってきた気がします。

 今後は、後輩PSW・実習生にも、私自身の実践を言語化し、ソーシャルワーク・そこに感じる魅力・やりがいを言語化し、伝えていきたいと思います。


・ テーマ6 就業支援にかかわる精神保健福祉士

講義1の倉知講師 演習の様子 講義2の金塚講師 講義3の渡邉講師

■精神保健福祉士は求職者と企業の頼れる味方

ハローワーク福岡南 精神障害者雇用トータルサポーター/経験年数2年半 五葉 淳子

 私が就労支援に携わるきっかけとなったのは、11年前に担当したハローワーク手話協力員でした。窓口で手話通訳をしながら、障害者の就労は大変なんだと実感するばかりでした。その後、障害者職業相談員を5年、PSW資格取得後、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(当時、「(独)高齢・障害者雇用支援機構」)の障害者雇用アドバイザー、B型就労支援員を経て現職に至っています。

 今回の受講の目的の一つは、コミュニケーション障害ともいわれる聴覚障害や発達障害がベースにあり、就職がなかなかうまくいかないケースやブランクが長期化し求職者が自信をなくしてしまうケースが増え、これにどう向き合うか学びなおすこと、二つ目は、企業に対して本人や支援者がどのようにアピールすればよいか苦労しており、他の実践を知りたいと考えた次第です。

 現場では、ともすると「この職種は接客があるからやめた方がいい」を始め、頭から求職者を否定するような言葉かけになりがちです。支援者が保護的、指示的な態度や言葉ばかりだと、ますます相談者は落ち込んでしまい、支援者ともども迷路に入りこみかねません。倉知講師の講義では、「求職者の夢や希望の確認」と「一緒にニーズを実現させる」という視点に全くそうだと感じました。悲しいかな、私はどちらかというと苦手なところ、短所を見つけるのは得意です。しかし、支援者として必要なのは、自分も含めて人の良いところ、強味を見つける観察力であることを感じました。

 さて、障害者雇用アドバイザー時代は障害者雇用ゼロ企業を約200社訪問しました。驚いたことは、企業からの門前払いはほとんどなかった一方で、多くの人事担当者は障害者雇用の不安や悩みを抱えていたことでした。「精神障害とは?事件を起こす人?」「アスペルガーとは何?」「うつの社員の復職はどうしたら?」「どう接したらいい?」等々。本講義でも支援者は積極的に会社を訪問しようという内容でした。私たち支援者は求職者のことを会社に伝える専門家であり、頼れるコンサルタントでもあると思います。そのためには障害のプラスイメージ、求職者のできること、得意なこと、スキルが説明できるプレゼンテーション能力および豊富な説明アイテムを持つことが求められると思います。加えて労働市場の知識を持ち、産業構造の変化にも敏感でなければと気づきを得ました。

 研修は遠いしお金もかかる、時間もかかる、でも研修とは明日への力をもらえる機会です。次の日、仕事に向かう足取りは確実に軽くなっていました。


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