要望書・見解等

2004年度


標  題 「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」に関する見解
日  付 2005年2月4日
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一

 昨年10月12日に厚生労働省障害保健福祉部から社会保障審議会障害者部会に提出された「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」(以下「グランドデザイン案」という。)は、同年9月2日に厚生労働省精神保健福祉対策本部が3検討会(※)のまとめに基づき作成公表した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」の内容を相当程度盛り込みつつ、精神障害固有の問題は精神保健福祉法改正に委ねるものとした。また、介護保険制度との統合化については短期間内に課題整理をするものと位置づけている。

 1993年の障害者基本法により法的根拠を得た精神障害者福祉施策は、依然として隔離収容政策という精神医療の歴史的産物としての差別偏見を伴う状況にあり、他障害との比較においても著しく立ち遅れている。ようやくこの間、医療と福祉との法律分化を要望する声が本協会を含めた多団体から挙がり、精神保健福祉法の改正内容に期待を寄せていたところに、この「グランドデザイン案」が示された。

 グランドデザイン案は、障害保健福祉施策の総合化を謳っており、そうした理念には反対するものではない。また幾つかの点においては多くの当事者、関係者団体の要望が取り入れられた形となっており、一定評価はできると思われる。しかし、今後提示される具体策を注視していかねばならないが、既に示された「基本的考え方」や「具体的な見直しの内容」に対しては、精神障害者の福祉施策が他障害の福祉施策と横並びになる可能性よりも、ますます社会参加を阻まれる方向への逆行を危惧させる内容が含まれているため、本協会としての見解と提言を以下に記すものである。
<基本的な視点>
 障害保健福祉施策の総合化の中で謳われている「市町村を中心に年齢、障害種別、疾病を越えた一元的な体制を整備」し、「地域福祉を実現」することは、これまでの制度間の狭間問題を無くし、身近な市町村において人生における障害保健福祉サービスをトータルに捉えてサービス提供を保障していくこととして、誰しも望む目指すべき姿と考える。しかし、「自立支援型システムへの転換」で言われている自立支援は、身体障害領域を端緒として主張されてきたいわゆる自立生活運動における自立概念と異なる感が否めない。ここでは、就労支援等の自立支援サービスが強調されており、一時期主張されていた納税者となることをもって「自律」と捉える方向性を強いている感が強い。精神障害者に関してはいまだ「社会的入院者」と呼ばれる長期入院者が多く、社会から隔離されている間に社会で暮らす能力を奪われ、そのイメージすら持ち合わせにくくなっている者も少なくない。社会的入院者が地域社会で暮らしていくためには、医療機関内でのリハビリテーションだけではなく、地域でその人なりに暮らして行くための地域と連携した退院促進への支援や、暮らしを具現化するため支援が必要である。このような支援を福祉サービスとして検討していくことも求められているにもかかわらず、そのうえで成り立つ自立支援が先行してしまっている感が強い。

 また、制度の持続可能性の確保は、激動著しい障害保健福祉施策においては望むところであるが、「公平な費用負担と配分の確保」は明らかに財源破綻から導かれた主張であり、公平論が実質的な公平を述べるものではないことは一目瞭然としている。生活保護制度と同程度の最低生活基準による障害者の所得保障を確立して後、また選択可能な社会資源の整備を果たして後の定率負担導入の議論は検討すべき時代の土壌を、措置から利用契約という流れの中で作りえていると考える。

 しかし、現段階での税負担者とサービス利用者との間の不公平感の解決策を、介護保険への統合化を見据えた定率負担導入に求めることは、見せ掛けの公平論にしか過ぎず、許容しがたい。拙速な費用負担導入は、需要を制約する以前に需要そのものを見えにくくする弊害しか生まない。国民が納得するシステムをつくるためにも、まずは掲げられた「障害等に対する国民の正しい理解を深める国の取り組み」を文部科学省や総務省など他省庁との横断的連携の下に重点的に実行することを求めるものである。

 グランドデザイン案は、「社会福祉基礎構造改革」の理念を基にした福祉8法改正の流れの延長に位置づけられるように見える反面、実質的には三位一体改革路線に基づく国の福祉財源縮小方向が強烈に見え隠れし、最終的にその方向性に無理に合わせた施策案が多い点を残念極まりないものと受け止めている。

<基本的な課題>
1.障害者に関する福祉法の一元化を早急に検討着手すること
 障害種別毎の福祉法の谷間や狭間で、障害認定を受けられない障害者の生活問題を福祉的に解決するためにも、「障害者福祉法(仮称)」といった総合的な法律の枠組みを作るべきである。また、精神障害者においては医療・保健・福祉が一つの法律の枠組みに盛り込まれた歪さを持つことから、法律上は医療と福祉を切り分け、有機的な連携を図れるように組みなおす意味からも、早急に障害者に関する福祉法の一元化を検討着手することを求める。

2.障害定義と障害認定基準についての見直しを早急に行う必要があること
 現行では、「知的障害」の定義がないことや、精神障害が精神疾患により規定されていることなど、障害種別によって法律上の定義のあり方に大きな差異が生じている。このことは、グランドデザイン案の理念実現の最大の隘路となりかねない問題である。現在の手帳制度の認定基準がまちまちであることや、疾病による障害程度認定への影響が大きいことからも、早急にICF(国際生活機能分類)に基づく生活者の視点による福祉制度の利用可能な認定制度に変更していくことを求める。

3.社会資源整備は時限立法措置も視野に入れて国の責任で計画化すべきであること
 グランドデザイン案では、サービス提供体制の整備やサービス体系再編については触れられているが、社会資源の整備については盛り込まれなかった。公的責任による社会資源の整備無しに、費用負担を求める契約型の福祉サービスに、生計を一にする者への負担も伴って移行することは、サービス利用が真にニーズを持つ者ではなく、費用負担が可能な者に制約され、福祉需要を見えにくくしてしまうものである。新たに予算確保をしなくとも地域内の既存の資源活用を計画することも含めてのインフラ整備を先ずは優先することを求める。

4.応益負担導入の必要条件は、障害者の所得保障であること
 差別禁止法を実定法として持たないわが国においては、障害者の雇用施策の貧困と相まって、障害者の所得保障は低水準の年金制度に頼るしかない。そのことが家族から自立した生活の確立を阻む要因にもなり、家族・扶養義務者の経済的・精神的負担を強化し、家族関係をも悪化させる背景となっている。また、差別禁止法のない中での地域生活を支えるサービスが果たして「益」であるかという論点もある。所得保障と選択可能な資源整備を果たした上で費用負担に関する議論を持てるまでは、これまでどおり応能負担を継続することを求める。

<精神保健福祉施策の個別的な課題>
1.「良質」を担保するシステムを早急に整備すること
 「良質な精神医療の効率的な提供」と謳うからには、その「良質」を担保するためのマンパワー改善策が盛り込まれるべきである。またその養成策も必要である。さらに、質の点検システムとしての権利擁護機関やオンブズマン制度を医療から独立した第三者機関として設置することを求める。今回は措置入院受け入れ医療機関の看護のマンパワーにしか踏み込んでいない。

2.社会的入院者約7万人に関しての受け皿を整備すること
 今後10年間で7万床相当を減らすとして、精神病床数に踏み込んだことは一定評価できるが、1年以上の長期入院群への対応には、医療と地域支援体制の協働や3障害共通の自立支援システムとあるのみで居住資源等の対策は盛り込まれていない。
 長期入院群は、病棟の機能分化の関連および極めて重度の障害者に対するサービス確保として示されているように、病棟から新類型の施設への変更もしくは医療モデルによるケア提供対象と読み込めないことはない。果たして居住サポート事業がその対応策として期待されるものであるが、同事業が障害者地域支援事業として個別性が加味されず、もっぱら地域特性や利用者状況に応じた市町村事業として落とし込まれると、市町村格差が激しく残る可能性も危惧される。退院者が集中する病院集中地域では介護保険下の入居前居住地に出費を求める構造と同様になるか、入院者の少ない地域は逆にそうした事業が進まない可能性もあろう。

3.病床数の減少促進に関する年次計画とその具体策を示すこと
 「今後10年間で約7万床相当の病床数の減少」を促進することが政策目標に掲げられたが、各都道府県の平均残存率と退院率の指標が対策として挙がっているのみである。特に1年以上の長期入院患者群に関しては、本人の病状や意向に応じて「医療と地域生活支援体制の協働」の下、段階的に計画的に地域生活への移行を促進することが記されているが、医療機関や地域自治体によっては、以前からこの努力は取り組まれており、それでも地域生活への移行がなかなか進まない現状への積極的対策が窺えない。真に自らの意思で長期入院を求める患者は一人として存在せず、長期入院を助長することとなった諸制度の問題は少なからずや大きい。自らが希望する食事を摂取するささやかな喜びさえ享受することなく、長期入院の末に人知れず逝かれる患者を独りでも無くすことへの積極的な施策を予算が伴った国策として打ち出すべきである。

4.社会参加や地域自立生活を想定できる体験サービスを位置づけること
 自立概念と関連するが、介護給付や自立支援給付の利用のための自立支援計画の作成の前に、社会的入院者の退院促進支援事業で行われているような、障害当事者同士や市民らの参加も含む体験訓練を医療モデルによるリハビリテーションではなく、福祉サービスとして予算上もマンパワーとしてもサービス形態としても位置づける必要がある。また、宿泊体験などの箱物についても福祉サービスとして、居宅支援事業のショートステイとは別立てで位置づけることを求める。そうした事業を相談支援事業の一類型に位置づけ、国費の支払い制度を検討すること。体験の機会は精神障害当事者に可能性の発見をもたらすばかりか、医療従事者のパターナリズムによる精神障害者に対するネガティブな評価を打ち破りリハビリテーションにも大きく寄与するものである。

5.通院医療公費負担制度については当分現行のまま継続すること
 指定機関制度とすることは評価できるが、負担増の実行の前に綿密な実態把握調査等を行い、医療中断や経済的困窮ゆえに医療を受けられない状況に置かれる人を無くさなければならない。コストパフォーマンスは、アウトプットの量の増減や、他制度との整合性、歴史的期間といった指標のみでなく、同時に当該制度の利用が精神障害者の権利保障や福祉の向上に結びつき、結果として治療中断者や未治療者が減っているかどうかなどの指標で評価することが本質的で欠かせないものである。

6.雇用政策との連携および就労に関するインフラを整備すること
 今回は就労移行支援事業が強調されており、施設外授産や職場適応訓練事業等の効果的活用および要支援障害者雇用事業が設定されたことで、支援システムの強化は伺える。しかし、現在でも授産施設や小規模作業所などでの請負作業が発注中止になるなど不況の影響下にある中で、支援システムを有効に機能させていくためには、協力受け入れ先の開拓等、各種産業界との雇用政策との連携をいっそう推し進める必要がある。また、すべてのハローワークにあらゆる障害に対応できる障害者職業相談員の確保を求める。

7.当事者、関係団体間の意見調整の場と期間を保障しながら検討を図ること
 基本的な課題に関する各団体間での合意形成はそう困難ではないと思われるが、具体策や個別課題に反映される内容を詰めていく段階においては、共通の枠組みには網羅できない障害特性や疾病特性があり、意見調整が欠かせない。現在、財源問題からの圧力に屈せずに、時間をかけて本質的な議論を深める段階を迎えている認識は各団体が持ちえており、厚生労働省障害保健福祉部が関係省庁とも連携し、日本の障害保健福祉施策の舵取りを担うことを切に要望する。
(※)心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会、精神病床等に関する検討会、精神障害者の地域生活支援の在り方に関する検討会
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標  題 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」に関する現段階での見解
日  付 2004年11月26日
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一

  国は、現在「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下、医療観察法)の2005年7月までの施行に向けた準備作業を進めている。報道等によると、指定入院医療機関の整備は、独立行政法人国立病院機構の病院や公立病院の指定手続きや建設着工が、地元住民の根強い反対もあり遅れている。当初予定されていた30床規模の専門病棟の全国24か所の設置についても、一部で病床数を縮小する形での病棟設置や既存病棟での改修による設置も許容するなど、法施行の難しさを物語っている。

 一方で、国は本年3月に、医療観察法の鑑定、指定入院医療機関運営、入院処遇、指定通院医療機関運営、通院処遇、地域処遇に係るガイドラインの試案を公表し、その後も関係諸団体の意見も取り入れながら改変した内容について公開し、来年1月のガイドライン策定に向けた作業を進めている。法運用上の根幹となるガイドラインの策定経過を情報公開してきたことに加え、入院処遇及び通院処遇のガイドライン(案)では、処遇の目標・理念の一つに「標準化された臨床データの蓄積に基づく多職種のチームによる医療提供」が掲げられ、精神保健福祉士も対象者の社会復帰調整を主に担う職種として位置づけられていることは、一定の評価が与えられるものである。

 本協会は、2003年7月の医療観察法成立を受けて、同年8月13日に法成立に当たっての見解を表明し、医療観察法の諸課題について引き続き改善・解決への取り組みを求めていくことや、医療観察法の対象となる人々を社会で受け入れていくための方策を怠ってはならないことを確認した。この見解に基づき、本協会の理事を中心とした諸会員は、これまで厚生労働科学研究や司法精神医療等人材養成研修の企画等に参加し、精神障害者の人権擁護と社会復帰・社会参加を促進する観点から意見を述べてきた。

 また、医療観察法に規定された精神保健参与員や社会復帰調整官の中心的な職種が精神保健福祉士であることからも、本協会は法の目的である対象者の社会復帰が形骸化され、社会からの隔離へと目的が変質しないよう、今後もこの法制度に関心と関与を持ち続けなければならない。

 私たち精神保健福祉士は、精神保健福祉に対する認識の低さ等の地域社会における様々な矛盾や地域精神保健福祉システムの貧困といった困難状況の中にあっても、従来から重大な他害行為を行った精神障害者とかかわりを持ち続けてきた。私たちが大切にしてきたその「かかわりの視点」は、新しい法制度の下でも何ら変わるものではないことを確認したうえで、現時点で以下のような課題があり改善への取り組みが必要であると考えている。
1.審判における精神保健参与員の関与
 医療観察法の審判における精神保健参与員の役割は、対象者の社会復帰の見通しや、必要とされる処遇及び環境調整の内容について、専門的な立場から具体的な意見を述べることにある。精神保健参与員は、ソーシャルワーク実践の相当の経験に基づき、対象者の可能性に焦点化した意見陳述が必要となる。
 すでに、司法精神医療等人材養成研修が始まっているが、精神保健参与員が最低限獲得すべき知識や技術の習得に些か不安を抱かせるカリキュラム内容や時間配分となっていることから、来年度以降の研修ではその内容の充実が図られるとともに、研修参加にかかる交通費等の経費についても配慮される必要がある。

2.指定入院医療機関における入院処遇
 入院処遇における精神保健福祉士の役割は、入院当初からの丁寧なかかわりを通して対象者との信頼関係を構築したうえで、対象者の社会復帰の調整を具体的に進めていくことにある。指定入院医療機関では30床規模の病棟で2名の精神保健福祉士の配置が予定されているが、具体的な社会復帰調整には、対象者の意向を踏まえたうえでの退院予定地の社会復帰調整官や指定通院医療機関、利用が想定される社会復帰施設等の関係機関との連絡調整に相当の時間と労力を要することから、より適正な数が配置される必要がある。
 また、入院中の対象者には、第三者性が担保された外部の権利擁護者が定期・不定期に訪問し、直接面接ができるようなシステムを早急に検討する必要がある。なお、指定入院医療機関に配属される精神保健福祉士の業務においては、入院中の対象者の権利に関する情報提供が位置づけられ、権利擁護について精神保健福祉士が十分機能できるよう業務を保障すべきである。

3.指定通院医療機関における通院処遇
 現時点での指定通院医療機関運営ガイドライン(案)によると、基幹型指定通院医療機関の要件として臨床心理技術者、作業療法士、精神保健福祉士の配置が盛り込まれている。しかし、これらのコメディカル職種がすでに配置されている医療機関でも、ほとんどの場合は業務対象が入院患者に集中しており、新たに医療観察法の対象者のケアのために時間を割くことが難しい現状にある。また、医療観察法の対象者のためだけに新たにコメディカル職種を配置することは、医療経済上不可能である。
 このため、厚生労働省・精神保健福祉対策本部が決定した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(2004年9月2日)における精神医療改革策に連動させる形で、アウトリーチ型の外来中心医療への早急な転換を図り、最低でも外来部門に専従の精神保健福祉士を配置できるような診療報酬体系の構築が急がれる。

4.対象者の地域内処遇
1)都道府県及び指定都市の精神保健福祉センターは、精神保健福祉の技術的中核機関であることから、医療観察法の対象者の地域ケアが適切に実施されるよう、地域の関係機関・施設等の職員を対象とした研修を実施する必要がある。
 また、同センターは精神保健福祉に関する複雑困難な相談指導を業務としていることから、医療観察法の対象者も含めた重度精神障害者の地域ケアの推進のために、アウトリーチを基本とした多職種によるケアチームの配置が検討される必要がある。

2)医療観察法の対象者に限らず精神障害者全般の地域ケアが円滑に行われるよう、人的資源の充実が望まれることから、保健所及び市町村への精神保健福祉士の配置や精神障害者社会復帰施設等のサービス提供機関の増員が促進される必要がある。

3)地域内処遇の中心的な役割を担う社会復帰調整官は、対象者の地域生活支援のコーディネートが本務であり、地域ケア関係者の過重な期待は社会復帰調整官の孤立化を招きかねない。このため、地域内の精神保健福祉関係機関の精神保健福祉士等は、社会復帰調整官と積極的な連携を図る必要がある。
 また、社会復帰調整官は一部を除き保護観察所に1人の配置とされているが、制度の充実に向けて早急に複数配置とする必要がある。

4)医療観察法の対象者の地域生活には地域住民の理解が欠かせない。これまで以上に精神障害者に対する差別と偏見の解消に向けた国民への情報提供等が必要である。

 最後に、医療観察法の目的が対象者の社会復帰の促進にあるとすれば、最も重要なことは、対象者の地域生活の維持であり、そのための継続的なケアが保障される地域生活支援システムが生活圏を中心に整備されることである。対象者の地域内処遇は、現行の精神保健福祉サービスの活用を前提としていることから、早急にこれらの地域間格差の解消と飛躍的な充実が図られなければならない。
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標  題 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」改正に関する要望について
日  付 2004年11月22日
発翰番号 JAPSW発第04−54号
発 信 者 社団法人 日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神保健福祉課長 矢島鉄也 様

 平素より、精神保健福祉行政の推進にご尽力を賜り、心から感謝申しあげます。
 さて、宇都宮病院事件から20年が経ち、精神障害者の社会復帰と人権擁護を主眼とした精神保健法が制定されて後、障害者基本法に精神障害者が福祉サービスの対象として規定されて、更に精神保健法が「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下「精神保健福祉法」という。)に改正され、その後も、数次にわたる改正が図られています。
 しかし、精神科病院における不祥事が未だにあり、精神科病院への在院患者数はほとんど変わらず、社会的入院および長期入院患者の状況も同様にあります。また、精神障害者が地域で暮らすための支援体制の整備は遅々として進んでいません。
 社会情勢も急激なIT化や経済状況の慢性的不況、少子高齢化と好転の兆しが見えない中で、精神障害者は社会参加や自立への困難が未だ大きい状況に置かれています。
 一方、前回の精神保健福祉法改正により、市町村等における「精神障害者居宅生活支援事業」による身近な地域での施策展開の芽が出始めております。
 この間、貴省におかれましては、厚生労働大臣を本部長とする精神保健福祉対策本部の「精神保健福祉の改革に向けた今後の対策の方向」(中間報告)を受けて設置された3検討会のまとめや「精神保健医療福祉の改革ビジョン」、また「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」を公表提案されておりますが、そうした現状改革への取り組みに今、精神障害者、関係者をはじめ、国民の関心が高まっております。
 つきましては、今般の精神保健福祉法の改正作業において、精神障害者が地域でごく普通に暮らすことができますように、下記の事項について要望いたします。 
1.法全体における問題点と改正案
  精神障害者に関する法律のみ、保健及び医療と福祉にまたがる形になっていることは、精神障害者が1993年まで法的に福祉の対象に規定されずにいたことや、疾病と障害を併せ持ち、相互に影響しあう特性から法体系が構成されたことと無縁ではないと考えられる。しかし、現状においては、精神障害者が疾病治療をしながらも福祉サービスの利用により地域で暮らすことが可能であるにもかかわらず、疾病特性から保護や医療の提供の割合が大きくなりすぎ、自立を損なう可能性も高い。保健・医療・福祉領域が健全な連携を果たしながら精神障害者の主体的な生活支援をしていくためには、法律を保健・医療と、福祉に関するものとに切り離すべき時期を迎えていると考える。このための作業に今般の改正から取り組みを要望する。またその際には、保健・医療の部分に関して精神障害者の特別対応を考えず、一般医療への統合を目指す形とした取り組みを果たしていただきたいこと。

2.個別条項に関する問題点と要望
 1)精神障害者の定義に関して関連法との整合性を図ること。また、疾病規定ではなく、障害という観点からの規定にしなおすこと。(第5条関係)
 2)地方自治体レベルでの市民への精神障害に関する理解の普及に関し、施策化を義務付けること。(第2条、第46条関係)
 3)精神障害者に対する福祉サービスの実施主体としての市町村の責務を明記し、その相談窓口に精神保健福祉士の配置を義務付けること。(第2条関係)
 4)精神保健福祉センター及び保健所に精神保健福祉相談員(精神保健福祉士)を専従で配置することを義務付けること。(第48条関係)
 5)医療保護入院制度を廃止すること。あわせて、精神保健福祉圏域毎に精神医療の救急体制を早急に整備すること。(第33条関係)
 6)措置入院制度に関して運用の地域格差をなくすために運用制度に関する規定を全国で統一していくこと。(第29条関係)
 7)措置入院期間および隔離状況が一年以上の長期に及ぶ場合は書面審査のみでなく、現地調査を行い状態の確認をするよう規定すること。(第38条の2関係)
 8)「医療又は保護に欠くことのできない限度」による制限以外に、家族・友人・関係者が病棟に入ることを制限しないようにすること。(第36条関係)
 9)医療機関の情報公開に関する規定を設けること。
 10)精神医療審査会を独立した第三者機関とし、同委員の医療委員の比率を他委員と同等とし、新たに当事者及び精神保健福祉士を加えること。(第13条関係)
 11)地方自治体毎に精神神障害者の人権擁護機関を設けること。
 12)地方精神保健福祉審議会の委員に当事者および精神保健福祉士を加えること。(第10条関係)
 13)「社会復帰施設」という名称を“未だ社会復帰の途上にある”というニュアンスから脱却できるように検討すること。(第4条関係)
 14)今後ますます重要となる地域生活支援を考えるとき、その拠点となりうる地域生活支援センターを中心とした「社会復帰施設」において、当該法律に規定された援助業務等を遂行するために必要な人的体制を確保すること。(第50条の2関係)

3.その他関連要望事項
 1)精神障害を理由とするあらゆる欠格条項を廃止すること。
 2)精神障害者が差別や権利侵害を受けている状況が未だ多いことを考えるとき、地域でごく当たり前に暮らすことができるように、基礎的な法体系整備も不可欠だが、あわせて民法の成年後見制度や社会福祉法による地域福祉権利擁護事業、また個別の福祉サービスや生活支援事業を利用しやすくする手立てを講じること。
 3)地域生活支援の推進のために、契約時代に移行している福祉サービスの利用が可能となるような所得保障制度の見直しを図ること。
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標  題 精神保健医療福祉施策の拡充に関する要望書
日  付 2004年9月24日
発 信 者 社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会 理事長 新保祐元、財団法人全国精神障害者家族会連合会 理事長 小松正泰、社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一、特定非営利活動法人全国精神障害者地域生活支援協議会 代表 大友 勝、社団法人日本精神科看護技術協会 会長 藤丸 成、きょうされん 理事長 立岡 晄、特定非営利活動法人全国精神障害者団体連合会 理事長 山崎多美子
提 出 先 厚生労働大臣 坂口 力

 貴職におかれましては、精神障害者の諸施策の充実にご尽力いただき、こころから感謝申しあげます。

 この度、3検討会の検討結果を踏まえ、「入院医療中心から地域生活支援を目的に、立ち遅れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化」を目的に、今後10年の精神保健医療福祉の改革ビジョンを策定されたことに、私たちとしても大いに期待できる内容であると評価しているところです。

 しかし、厳しい財政事情の下とはいえ、平成16年度の精神障害者社会復帰施設の施設整備費採択率は低い水準にとどまっていること、三位一体改革の中で精神障害者社会復帰施設の一般財源化等が「地方6団体」から提案されている等、喫緊の課題である精神保健医療福祉施策の後退を強く懸念しているところです。

 こうした中にあって、精神保健医療福祉関係の平成17年度概算要求は、施策充実に対する精神保健福祉課の強い決意を示す内容で高く評価できるものです。

 私どもといたしましては、精神保健医療福祉の充実を図るため、下記の事項が必ず実現するよう強く要望いたします。
1.精神保健福祉施策については、一般財源化されることなく、国の責任においてこれを推進してください。

2.今回不採択となった施設整備費補助金について、年度内にすべて救済(復活採択)してください。

3.精神保健医療福祉関連の平成17年度概算要求を確実に実現できるようにしてください。
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