要望書・見解等

2020年度


標題 「結婚の自由をすべての人に」の札幌地裁判決への見解
日付 2021年3月25日
発信者 公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久 
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
 
 私たちは、ソーシャルワーク専門職である社会福祉士、精神保健福祉士で組織された専門職団体です。

 私たちは、倫理綱領において「すべての人々を、出自、人種、民族、国籍、性別、性自認、性的指向、年齢、身体的精神的状況、宗教的文化的背景、社会的地位、経済状況などの違いにかかわらず、かけがえのない存在として尊重する」ことを宣言しています。

 2021年3月17日、同性同士の結婚が認められないのは婚姻の自由を保障した憲法に違反するとして、札幌と帯広の3組6人の同性カップルが国を訴えた裁判で、札幌地方裁判所は、国への賠償請求は棄却し、憲法24条には違反しないとしましたが、「法の下の平等」を定めた憲法14条には違反するとして、違憲性を認めました。また、同日、国は、「他の裁判所に継続中の同種訴訟の判断をまずは注視していきたい」とコメントを出しました。

 私たちは、同性同士の婚姻が認められないことが合理的根拠を欠く差別的取り扱いとして違憲性を明確に認めたことを評価します。

 現在、東京地方裁判所、名古屋地方裁判所、大阪地方裁判所、福岡地方裁判所で審理が続いており、私たちは、差別、抑圧、排除などの無い、共生に基づく社会正義の実現をはじめ、基本的人権が尊重される公正・公平な社会の実現を目指し、これからも実践や活動をしていきます。
 
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標題 大阪地裁「生活保護基準引下げ処分取消等請求事件」判決に対する声明
日付 2021年3月5日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
 
 大阪地方裁判所は2021年2月22日、厚生労働大臣による生活保護基準の改定を違法なものとし、同基準による減額処分を取り消すという、画期的な判決(注)が言い渡されました。

 国は、本判決の意義を重く受け止め、控訴せず、本判決を確定させることを願います。加えて、違法に保護費を下げられたすべての生活保護利用者の生活実態に真摯に向き合い、被保護、要保護者を含むすべての人々の健康で文化的な生活を保障するため、平成25年引き下げ前の保護基準に直ちに戻した上で、所要の措置を取るべきです。

 また、生活保護基準については、ときどきの行政の都合、政治的意見、世論や社会の風潮などに影響されないよう、専門性と独立性を持った第三者的な機関の関与により、透明性のあるプロセスのもとでの見直し作業と改定の仕組みの導入を期待します。当然、それらは日本のどの地域の保護実施機関においても徹底されるべきです

 この度の判決の骨子は、「厚生労働大臣が平成25年から27年にかけて生活保護基準を減額改定した判断には、特異な物価上昇が起こった平成20年を起点に取り上げて物価の下落を考慮した点、生活扶助相当CPIという独自の指数に着目し、消費者物価指数の下落率を基に改定率を設定した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があると言わざるを得ず、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきであるから、上記改定は、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法である。」というものです。

 本協会は、2020年6月の名古屋地裁において不当判決以降各地裁で行われている新・生存権裁判を注視し、時には傍聴して原告の訴えに耳を傾け、また、日々出会う目の前の被保護者の生活実態にもこれまで以上に寄り添うとともに、本裁判のためのカンパや署名活動を展開しています。生活保護基準は、各種の社会保障制度やサービスの減免基準や最低賃金とも連動し、生活保護利用者ばかりか低所得者世帯にも大きな影響を与えています。特に、このコロナ禍においては貧困が顕在化し、それと並行して自死をはじめとするメンタルヘルス課題も深刻化しています。

 私たち精神保健福祉士は、それぞれの現場にあって、これらの人びとを支える立場にある生活保護ケースワーカーとも連携し、すべての人のいのちと健康が守られる社会の創造に向けて今後も努力する所存です。国においても各地で本裁判を戦っている約1,000名の原告や弁護団、支援者に希望の光を与えてくれることを切に願います。
 
  (注)平成25年から3回に分けて行われた生活扶助基準の見直しに対し、生活保護利用者42名が、国と関係自治体を被告として、保護変更決定処分(基準引き下げ)の取り消しを求めたもの。判決は、国家賠償請求は棄却したものの、基準の引き下げのプロセスが厚生労働大臣の裁量権を逸脱しており、違法なものだったと判断した。
   
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標題 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会の報告書(案)に対する要望書
日付 2021年3月3日
発翰番号 JAMHSW発第20−338号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 精神障害にも対応した地域包括システムの構築に係る検討会 座長 神庭重信 様
 
 平素より本協会に格別のご理解、ご協力を賜り、深く感謝申し上げます。

 さて、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」(以下、「検討会」という。)においては、約1年に渡って議論が重ねられ、報告書(案)の中では「誰もが地域の一員として安心して自分らしい暮らしをする」という理念の実現が掲げられていると認識しております。この実現のためには、地域に安心かつ良質な精神医療体制を確立することが不可欠です。精神医療における長期入院や非自発的入院制度など精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)(以下「精神保健福祉法」とする。)の改正を要する従前の課題については、「別途、検討が行われるべきである」と記載されました。ぜひ、次の検討会では下記の内容について取り上げていただくよう要望いたします。

1.第1 はじめに
○ 「諸制度の見直し」の必要性について触れられましたが、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の見直しのための検討を行う」ためのタイムスケジュールが早期に示されるよう願います。

2.第2 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムについて
○ 重層的な連携による支援体制の考え方と構築において、「本人の困りごと等」に寄り添った支援体制の構築が課題としてあげられています。そのため、精神医療においては、本人の意向が尊重される仕組みを確立することが急務の課題です。意思決定支援の仕組みが確立されることにより、権利擁護機能が強化され、安心して受診することのできる医療体制の構築が可能となり、「精神障害にも対応した地域包括システムの構築」の理念の実現につながると考えられます。

3.第3 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを構成する要素について
○ 地域精神保健及び障害福祉において、市町村が行う精神障害を有する方等の相談指導等について言及されましたが、2018年に示された「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」の活用ならびに「措置入院者に対する支援のあり方ガイドライン」に基づく措置入院者退院後支援、それに伴う保健所の役割においては、地域格差の改善が図られることを要望します。

○ 精神科病院の長期在院者に対する支援において、地域の基盤整備に加え、入院中の虐待防止や安心かつ安全な医療体制構築の観点から、隔離拘束等の行動制限の状況把握、その状況改善のために、適正評価等に対する市町村の取り組みについて検討してください。

○ 長期在院者の早期退院を実現するためには、入院形態や推定入院期間にかかわらず、すべての入院患者について定期的に退院支援委員会を開催し協議する必要があります。特に、改正精神保健福祉法の施行前からの医療保護入院者や、重度かつ慢性につき審議継続しないとされた患者が退院支援委員会の開催対象から除外されてしまう現状を改善するよう検討してください。

○ 精神障害の有無や程度にかかわらず地域で暮らすすべての人が、精神医療を含め必要な時に適切な医療を受けられるためには、精神科診療所・精神科病院が安心してかかれる医療機関であることが重要です。精神科病院の中で現在も虐待事件が発生し、すべての人が安心してかかれる医療機関であるとは言えない現状に鑑み、精神科病院を障害者虐待防止法の障害者虐待に係る通報義務の対象にすることを検討してください。

○ 精神科医療機関における権利擁護機能について、意思決定支援に加え、行動制限最小化と、そのための適正な人員配置への見直しを検討するとともに、安全かつ良質な医療の提供に努める観点から、権利擁護機能の強化についても検討してください。

○ 危機的な状況に陥った場合の対応について、市町村が体制整備に取り組むうえでは、措置入院に関する精神障害者支援地域協議会の代表者会議も協議の場として活用することが望ましく、この協議会が地域差なく保障されるよう、法的な位置付けについて検討してください。
 
4.その他検討すべき課題について
○ 2013年の精神保健福祉法改正時の附則(検討規定)に則り、意思決定支援のあり方について検討してください。

○ 入院期間や入院形態に関わらず、すべての入院者への退院支援委員会の開催と、地域援助事業者・市町村等の参加の義務付けについて検討してください。

○ 精神障害者の退院後支援において、地域差なく支援を受けることを可能にするための「法的根拠」となるべく、特に措置入院者退院後支援に関して議論してください。

○ 精神医療審査会の機能として、退院支援委員会のあり方に関する指導や障害福祉サービス等の利用に関する市町村への助言を追加し、保健福祉に関する学識委員の役割とすることが求められます。また、審査会における審査方法等には自治体間の差があり、居住地によって享受できる権利擁護機能の格差という不平等を生んでいるため、早急な是正策を検討してください。さらに、審査会委員の質の担保についても検討してください。

○ 本人の意向を尊重し、市町村や地域住民等との連携等、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」の理念に基づいた地域生活の実現を念頭に退院支援を行うため、退院後生活環境相談員の人員配置と質の担保を図る仕組みについて検討してください。

○ 市町村の役割強化に伴い、医療保護入院の同意を市町村の責任とするなど、非自発的入院制度のあり方について検討してください。また、市町村長同意の取り扱いにおける地域差を解消し、非自発的入院における行政責任の明確化について検討してください。

○ 2013年改正により導入された「家族等のうちいずれかの者の同意」については、関係性の薄い家族の同意に基づいた非自発的入院が決定されてしまうことの問題や、必要時に同意が得られず入院できない事態の発生など、新たな課題も生じています。家族の負担軽減を含めた改善のための検討を要望します。

 

  以上
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標題 子ども家庭福祉に関する資格について(要望)
日付 2021年2月24日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫)
提出先 厚生労働大臣 田村憲久 様 
 
 貴台におかれましては、日々福祉の増進にご尽力されていることに感謝申し上げます。

 さて、厚生労働省社会保障審議会児童部会に位置づけられた「子ども家庭福祉に関し専門的な知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策に関するワーキンググループ」は、2021年2月2日にとりまとめを公表されました。ソーシャルワーカーの職能団体として、悲惨な児童虐待が頻繁に生じるなかで、ソーシャルワーカーはその予防と適切な対応に最大限の努力をしていく決意であります。

 当とりまとめでは、児童虐待に対して、子どもの権利や家族の支援のためのソーシャルワークの必要性を指摘していただきましたが、社会福祉士・精神保健福祉士はソーシャルワーク専門職として、児童虐待に対して責任をもって取り組んでいきたいと決意しています。

 その一方で、新たな資格の創設について、資格制度の立て付けや付与方法については継続検討とされますが、一部の報道では国家資格創設と誤解を与えかねない報道がなされました。

 日本ソーシャルワーカー連盟は、一貫してソーシャルワーク専門職である社会福祉士、精神保健福祉士の活用促進が虐待防止に最も効果的であるとの主張をしてきました。そこで、改めて下記の事項について要望致します。
 
 
1 児童福祉司が抱える事例への対応はソーシャルワークを基盤とすることが必要であり、ソーシャルワーク専門職である社会福祉士、精神保健福祉士を積極的に活用すべきである。

2 専門性の向上には、社会福祉士および精神保健福祉士のソーシャルワーカー養成課程での充実に加え、児童虐待に対応できる高度な専門性を有する社会福祉士を養成する認定社会福祉士制度を推進していくべきである。当面の課題としては、現任者研修の強化を図るべきである。

3 児童福祉司の専門性の向上には実践知や経験値の積み上げが必要であり、短期間の異動等がないよう配置構造の改善が必要である。
  以上
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標題 精神病床の人員配置に関する要望
日付 2021年2月5日
発信者 精神保健従事者団体懇談会 代表 太田順一郎(公益社団法人日本精神神経学会) 長谷川利夫(日本病院・地域精神医学会) 木太直人(公益社団法人日本精神保健福祉士協会)
提出先 厚生労働大臣 田村憲久 様 
 
 私たち精神保健従事者団体懇談会は、1986年の発足以来、精神保健・医療・福祉の改善を図ることを目的とした活動を行っている団体です。
 良質な医療、保健、福祉の提供にあたり、その人材の重要性は強調しても強調しすぎることはありません。しかし、我が国の精神保健・医療・福祉は、未だに精神科の他科に比べて少ない人員を認めた1958年当時の厚生省事務次官通知「特殊病院に置くべき医師その他の定数について」の影響を受けています。2000年に第4次医療法改正がありましたが、それはむしろ精神科特例の少ない人員の内容を施行規則のなかに織り込む形になっています。
 上記第4次改正医療法が公布された直後の2000年12月13日に開催された公衆衛生審議会において、同会の精神保健福祉部会長名で報告された意見書「精神病床の設備構造の基準について」では次のように述べられています。

 「精神病院の人員配置の基準については、昭和33年の厚生省事務次官通知により、精神病院以外の一般の病院に比べて、緩やかな基準となっている。具体的には、主として精神病の患者を入院させる病院にあっては、医師数は患者48人に1人、看護婦等の数は6人に1人となっている。現在の精神医療を取りまく背景は、入院患者や国民が期待するニーズ、また医療職種の人数など医療資源に関して、現行の医療法上の人員配置の基準を設定した時点のそれとは、大きく変化してきており、現在の精神医療に求められるニーズや整備し得る医療資源の量を踏まえて、時代に相応しい医療を確保できる人員配置の基準とすることが求められる。」

 私たちもまさに、時代に相応しい医療を確保できる人員配置の基準とすることを望んでいます。昨今、身体拘束についての話題が様々な場で出ることが多くなってきていますが、人手不足のために身体拘束を行わざるをえないという声も実際にあります。夜勤帯に60名の患者さんを看護師と看護補助者の2名で看なければならないような状況が続いています。このような状況下で、やむを得ず身体拘束をして筋力が低下、歩行能力が低下し、そして転倒して骨折し、寝たきりになってしまうという悪循環さえ出現しています。日勤帯も現状では個別ケアができづらく、集団管理になりがちな現状があります。今後はいわゆる一般医療と同様のケア、治療を提供できるような体制にして頂きたいと思います。

 我が国は、2014年に障害者権利条約を批准しています。同条約第4条“一般的義務”では、「締約国は、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進することを約束する。」とし、第25条“健康”において「障害者に対して他の者に提供されるものと同一の範囲、質及び水準の無償の又は負担しやすい費用の保健及び保健計画(性及び生殖に係る健康並びに住民のための公衆衛生計画の分野のものを含む。)を提供すること。」としています。これらからも障害の種類によって異なる基準を設けることが許されないことは言うまでもありません。またそれ以前に、国連において決議された“精神障害者の保護及びメンタルヘルス改善のための原則”(91年国連原則)の原則8 ケアの基準 では、「すべての患者は、自己の健康上の必要性に照らして適切な保健医療的及び社会的ケアを受ける権利を有し、他の疾患を持つ者と同じ基準に則したケア及び治療を受ける権利を有する。」としています。つまり精神疾患をもつ者が他の疾患を持つ者と同じ基準でケアを受ける権利があるとされています。

 以上述べてきたことからも、精神保健・医療・福祉においても、他の領域と同様の基準でケアが行われることが強く望まれます。精神病床に一般病床と同様の人員配置基準を適用することになれば、精神科医および看護師の人員確保、そのための人材育成が必要となります。また、そのような人材確保のためには、財政的な施策による裏付けが必須となります。人材の確保と、そのための財政的な裏付けを伴った、現実的な人員配置基準の見直しを要望いたします。その実現のための、具体的な行程表を示していただくことを強く求めます。

 私たち精神保健従事者団体懇談会は、2011年7月26日障害者基本法改正についての要望を提出し、この中で「非自発的な入院や隔離拘束を受ける障害者の人権尊重のための実効性のある適正な手続きを確保すること」を要望しています。このような患者の人権尊重の立場からも、現行の医療法の中にある精神科を別基準とする規定を廃止し、その他医療と等しい基準とすることを要望いたします。

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標題 「子ども家庭福祉に関し専門的な知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策に関するワーキンググループ」取りまとめに対する声明
日付 2021年2月4日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫)
 
 私たち日本ソーシャルワーカー連盟は、権利擁護と社会福祉の増進を使命とするソーシャルワーカーによって構成された専門職団体です。

 厚生労働省社会保障審議会児童部会に位置づけられた「子ども家庭福祉に関し専門的な知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策に関するワーキンググループ」(以下、WG)が終了し、2021年2月2日にとりまとめが公表されたことを受けて、日本ソーシャルワーカー連盟としての見解を表明します。

 この間のWGの議論において、私たちは、社会福祉士・精神保健福祉士の有資格者が実地訓練を重ねながら、スーパービジョンを含む新たな研修体系の中で養成されるべきという主張を繰り返し、また専門職団体の責務として、その研修体系を早急に構築することを提案してきました。一部には、新たな国家資格の創出に関する事実誤認に基づく報道もされていることから、従来の私たちの見解を改めて述べさせていただきます。

1 虐待対応をはじめ、児童福祉司がかかえる事例への対応は、子ども本人のみならず学校や周囲の大人、家庭や地域社会等の多様な問題を包括的に捉え、多職種が連携して取り組む必要があるため、ソーシャルワークを基盤とすることが必要です。児童福祉司の専門性の向上が喫緊の課題であることをふまえ、ソーシャルワーク専門職である社会福祉士や精神保健福祉士の国家資格を積極的に活用すべきです。

2 現任の児童福祉司の専門性の向上には現場指導(OJT・スーパービジョン・所内研修等)が重要であり、知識供与型の学習だけでは実践力を向上させるには不十分です。そのため、新たな国家資格の創出よりも現任者研修の強化が急務です。

3 児童相談所におけるソーシャルワーク機能の十分な発揮に向けて、長時間労働・精神的負担感の増大等の解消を図り、職員の待遇を改善することが重要です。また、児童福祉司の専門性の向上については、5年未満という短期間での異動では実践知や経験知及び職場内スーパービジョンやOJTが根付きにくいため、配置構造の変容を求めます。

 東京都目黒区(2018年3月)や千葉県野田市(2019年1月)で起きた児童虐待の痛ましい事件に対して、私たちソーシャルワーカーは、尊いいのちを救えなかったことに忸怩たる思いを抱えています。そこで、子ども家庭福祉にかかわるすべての現任ソーシャルワーカーに対する研修等を強化し、目前の課題に速やかに対応していく所存であり、社会福祉士・精神保健福祉士を対象とした研修プログラムを開発し、「子ども虐待の予防と対応研修」を年度内に開始します。

 「新たな国家資格創設」のためのカリキュラムの検討や実施よりも、いますぐできる対処を行うことで児童虐待を防止し、日本の未来を担う子どもたちの生命の尊重とそれを育むことのできる家庭、地域社会の実現に向けて、私たち日本ソーシャルワーカー連盟は、厚生労働省をはじめ関係機関・団体との連携のもとに取組む所存です。

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標題 新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえた生活保護制度運用の緩和及び即時即応の経済支援措置について(要望)
日付 2020年12月25日
発翰番号 JAMHSW発第20−260号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 厚生労働大臣 田村憲久 様
 
 平素より精神保健福祉の向上にご尽力くださり、厚くお礼申しあげます。

 さて、コロナ禍に端を発する貧困は、多世代に影響が及び、新たに生じた貧困の世代間連鎖すら危惧されます。貧困は、人々の健康とQOLを脅かす最大の要因であり、経済的な安心感を持てないことは、うつ病や依存症をはじめとする労働者のメンタルヘルス不調、若者や中高年の社会的ひきこもり、児童虐待等、様々な問題の発生に影響し、追い詰められた暮らしの先には、自死を考える人が増えることも懸念されます。
 厚生労働省におかれましては、この間、特に生活保護に関する運用の緩和や改善、適切な保護の徹底等の事務連絡を発出されているところですが、自治体によって認識に差があり、不適切な窓口対応の結果、申請が円滑に進まない事例が現場の精神保健福祉士から少なからず報告されています。
 日本国憲法第25条の理念に基づく最低限の生活を脅かされている人々に対し、更なる緊急措置が求められることから、下記を要望いたします。

1.権利としての生活保護制度の積極的活用を国民に呼びかけてください。

2.申請手続きの即応かつ弾力的な運用と保護開始決定までの期間の短縮化を図ってください。

3.国の生活保護運用の柔軟な方針を一層進めるとともに、その方針が保護の実施機関においても徹底されるよう指導してください。

4.生活保護を利用できる人の範囲を緊急対応の行政措置として広げてください。

以上

【要望事項に係る補足説明】

1.権利としての生活保護制度の積極的活用を国民に呼びかけてください。
 生活保護制度への誤解やスティグマが払拭されていない現実があります。生活保護を含めた社会保障の享受は国民の権利であり、個人の責任や能力を超えた次元で生じる貧困に際して、私たちは、制度活用をためらわないよう支援していますが、国としてさらなる後押しをお願いします。
(1)内閣府大臣官房政府広報室の「国の行政情報に関するポータルサイト」等を活用し、身近な問題としてわかりやすく情報発信をしてください。
(2)放送・新聞など報道各社の協力を仰ぎ、国民への呼びかけを行ってください。
(3)自治体が啓発活動や申請勧奨を行う仕組みを作ってください。

2.申請手続きの即応かつ弾力的な運用と保護開始決定までの期間の短縮化を図ってください。
(1)本人以外(扶養義務者や同居親族)による申請が認められること、弁護士等による代理申請を禁じるものではないこと等を、再度徹底してください。
(2)状況により、電話、郵送、ファックス、電子メール等の、多様な申請方法を認めることを明示してください。
(3)急迫状態にあっては職権保護が求められることを再度徹底し、本人の申請がない場合も、関係機関や専門職、地域住民等からの相談や情報提供があったときは、積極的なアウトリーチと職権保護の適用を徹底してください。
(4)申請受理から保護開始決定までの期間を短縮するため、照会を要する資産や扶養の調査は事後実施を原則とする等、迅速な運用を明示してください。

3.国の生活保護運用の柔軟な方針(車や店舗など資産の所有や扶養照会等の簡略化)を一層進めるとともに、その方針が保護の実施機関においても徹底されるよう指導してください。
 保護の実施機関において、事務連絡を正しく理解し、適切に窓口対応が図られるよう、再度周知徹底する必要があります。
また、コロナ禍の情勢を鑑みるに、更なる緩和的運用が求められます。
(1)資産要件について、保護の要否判定時の預貯金等の保有限度額を最低生活費の3か月分に引き上げ、収入認定から除外してください。併せて、自動車、ローン付き住宅、生命保険等の保有要件を緩和してください。
(2)事実上の生活必需品である自動車の保有が認められないことにより、生活保護の申請をためらわせる事態が生じています。自動車保有の運用を緩和し、維持費(一時扶助費)の支給を認めてください。

4.生活保護を利用できる人の範囲を緊急対応の行政措置として広げてください。
(1)当面の間、学生でも生活保護を利用できるようにしてください。
(2)当面の間、人道的見地から、これまで生活保護の対象外とされてきた在留資格の外国人も困窮の状況に応じて生活保護を利用できるようにしてください。

   
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標題 新型コロナウイルス感染の状況を踏まえ、生活困窮者の医療を保障する緊急の対策を強く要請します
日付 2020年12月25日
発翰番号 JAMHSW発第20−259号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 厚生労働大臣 田村憲久 様
   平素より精神保健福祉の向上にご尽力くださり、厚くお礼申しあげます。
 さて、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐには、感染の疑いを持った段階で、速やかに検査や受診の機会を確保することが欠かせません。「コロナうつ」と呼ばれる意欲低下や不眠、不安を伴う精神状態も、受診をためらうと病状が深刻化するおそれがあります。またコロナ禍による貧困が深刻化する中で、継続的な治療が必要にもかかわらず通院を中断したり、辛い状態なのに受診を我慢したりするなど、経済的困窮によって受診や治療を避ける事態もすでに起こっています。費用負担の心配なく適時・適切な医療につながることが感染拡大防止にも有効と考えます
 このため、以下の緊急対応をぜひとも実行されるよう求めます。
 
 

1.大規模災害時と同様に、健康保険法第75条の2、国民健康保険法第44条等の一部負担金の額の特例に係る規定を活用し、コロナ禍に関連して収入の大幅減少等があった人については、医療費の自己負担を猶予・減免してください。

2.国保、後期高齢者医療の保険料についても、上記と同様に、収入の大幅減少等があった人には猶予・減免をおこなってください。

3.生活困窮者については、通常の生活保護の要否判定と切り離して、収入が一定以下であれば、医療扶助の単給を行う等の柔軟な運用をしてください。

4.生活困窮者自立支援法の臨時事業等として、無料低額診療事業を活用して医療費の自己負担を減免し、事後に公費で補填する制度を創設してください。とくに無保険の患者の場合は医療費全額を医療機関が持ち出すことになり、負担が過大です。また、コロナの影響で医療機関の経営が大幅に悪化しており、税制面のメリットだけでは無料低額診療事業を十分に実施することは困難です。資金繰りの問題もあるため、公費での補填は年度終了後ではなく月単位にしてください。

5.公立・公的病院を中心に無料低額診療事業に近い事業を臨時に簡便な手続きで行えるようにし、あわせて減免分の公的補填を実施してください。無料低額診療事業を行う医療機関の数は地域格差も大きく、既存の施設だけでは足りません。

6.3か月以内の短期滞在資格だった人やオーバーステイになった外国人については、公的保険に加入できず、また就労することも違法となるため、公的な医療保障が一切受けられません。また就労可能な在留資格で非正規雇用やフリーランスで働いていた外国人も、休業や失業により生活基盤自体を失うと同時に医療へのアクセスも困難となっています。人道的、公衆衛生上の観点から、無料低額診療事業や行旅病人法、生活保護法の緊急保護など既存の制度・サービスなどを柔軟に運用し、無保険の場合を含めて外国人が医療を受けられるようしてください。

7.新型コロナウイルスの感染防止のため、マスク、手指の消毒液、体温計等が日常的に必要になり、今後も長く続く見込みです。低所得者・生活困窮者・生活保護利用者には、それらに必要な費用の支給や現物給付を行い、経済的負担を気にせずに感染防止を徹底できるようにしてください。

8.広く新型コロナウイルス感染に関連する診療は、結果的に感染が否定されたときや外来のみとなった場合を含め、自己負担を免除するようにしてください。

以上

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標題 困窮者等の相談体制の構築等に係る提案
日付 2020年12月25日
発翰番号 JAMHSW発第20−258号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 厚生労働大臣 田村憲久 様
   平素より精神保健福祉の向上にご尽力くださり、厚くお礼申しあげます。
 さて、コロナ禍によって急増した困窮に関する多様なニーズに対し、多くの市区町村の体制(いわゆる「縦割り」の窓口)では、適切な即時対応が困難でした。切迫したニーズがあるにも関わらず、最初に相談する先が分からないことで二の足を踏み、いくつもの窓口を回る労力を考えて諦めてしまう、あるいは最初に相談したところで一つの問題は対応してもらえたが、別の課題については担当部署が違うというだけで、必要な相談窓口を案内もされず、複合的なニーズに対応してもらえない、といった事態も生じました。
 また、コロナ禍による突発的な業務量増加に直面した各相談窓口は、ニーズに合った窓口を案内するなど丁寧な対応が困難になり、様々なトラブルのリスクが高まりました。これは、窓口の担当職員を疲弊させるだけでなく、相談者側にも「相談すること」に対する不信感や無力感を生じさせ、長期的な禍根を残しかねない深刻な事態です。
 緊急的な困難や不安に晒されている相談者が、問題解決のために訪れる相談窓口で、さらにストレスを高めることがあってはなりません。多くの窓口を順番に回らされ、そのたびに必ずしも話しやすくない困りごとを何度も説明させられる、といった事態は防がねばなりません。
これまでの縦割り行政による不合理な役割分担や管轄意識を排し、少なくとも「突発的に急増する支援ニーズ」に対し、機動的に体制を整え、効率的に対応できるようにするための仕組みを、日頃から準備しておく必要があると考え、下記について強く提案いたしします。
 
 

1.関連窓口のワンストップ化を推進してください。
 制度利用の最適化、生活保護申請の心理的ハードルを含めた相談者の負担の軽減、窓口の横断的連携による担当職員の負担の軽減等に資するため、関連窓口のワンストップ化を推進してください。
 ワンストップは必ずしも単独の組織とする必要はなく、複数の機関や担当が共同で設置するものであったとしても、物理的に同じ場所にあり、複合的な内容の相談に同時且つ総合的に対応できることが重要です。これにはいわゆるWeb会議等のシステムの活用、オンライン申請(相談)の拡充等も、有効な方策になり得ると考えます。

2.市区町村のすべての相談窓口(部署)に相談専門職を配置し、連携の円滑化を図ってください。
 当面の生活が保障されたとしても、容易に困窮に陥らざるをえなかった背景的要因への支援がなければ、長期に自立していくことは困難です。例えば、児童、女性、障害、外国人等の様々な領域の窓口間での連携が想定されますが、双方向性のある相談を連続的に展開するには、発信側の意図(連携要請の内容)を読み解く専門職が、受信側にも配置されている必要があります。
 社会福祉士・精神保健福祉士等のソーシャルワーカーにとって、連携はその専門性の主要な部分であり、法律等によって義務化されているものであるため、その任にあたる専門職として適切であると考えます。

3.国及び都道府県は、市区町村が実施する「関連窓口のワンストップ化(共同相談窓口の設置等)」に、適切な専門職を配置するための財政支援を行ってください。
 昨今、多くの自治体で専門職配置が非常勤化されている事態について、大きな懸念を抱いています。行政内部の単純ならざる仕組みを理解し、日頃から関連部署と顔の見えるつながりを作り、非常時にあっては責任ある立場で率先して緊急対応にあたるには、常勤職員であることが必須です。財政支援等にあたっては、その要件を常勤職員に限る等の誘導的な措置も必要であると考えます。

4.専門職団体が制度の狭間を埋めるための相談会等を実施した場合に、必要な支援や連携を積極的に行ってください。

5.緊急時の相談対応窓口の設置とその周知・広報を促進してください。
 今回のような緊急事態に対応するため、危機管理に関する計画にあらかじめ「緊急的な困窮者支援窓口の設置」を盛り込む等、最前線となる市区町村の効率的な体制の構築が計画的になされ、相談すべき先がくまなく周知される(適切な相談勧奨が行き渡る)ことを促進してください。
 また、国においては、そのための技術的助言として成功事例の収集や周知等を行ってください。

以上

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標題 新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえた生活困窮者の居住及び居住環境を保障する対策に係る緊急要請
日付 2020年12月25日
発翰番号 JAMHSW発第20−257号の1
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子/日本居住福祉学会 会長 岡本祥浩
提出先 厚生労働大臣 田村憲久 様/国土交通大臣 赤羽一嘉 様
   平素より精神保健福祉の向上にご尽力くださり、厚くお礼申しあげます。
 さて、新型コロナウイルス感染拡大と移動の自粛やイベントの開催制限などの防止施策の実施に伴い、景気及び雇用情勢の悪化が顕著になってきました。非正規雇用が増えるなか、不安定な雇用に就いている人々ほど失職に直面しています。仕事やその機会を失うことが収入を減らし、住まいの維持を難しくします。失職とともに社員寮からの退出を迫られるなど仕事と住まいを同時に失ったり、家賃や住宅ローンを支払えず住まいを失ったりします。日本で唯一と言える住まいの喪失を防ぐ手段として「住居確保給付金」が注目され、支給決定件数が全国で昨年の20倍を超えています。しかし、「住居確保給付金」は緊急的に家賃を補助する仕組みです。このため、住まいを失った多くの人には適用されません。
 住まいは、居住者の生命と健康を守るために絶対に必要であることは言うまでもありません。感染症の拡大を防止するためにも重要な役割を担っています。一人ひとりが適切な住まいを確保することは、暮らしの基盤であり基本的人権そのものです。
 こうした観点から、以下のような住まいを保障する対策を緊急要請します。
 
 

1.生活困窮者自立支援法による住居確保給付金の利用要件を緊急に緩和されたことは、的確な措置でした。この措置を恒久化するとともに、コロナ感染の終息時期が見えず、雇用情勢の悪化が続いていることを踏まえ、住居確保給付金の支給期間を当分の間、延長してください。

2.生活保護制度では、住まいのない人は居宅で保護するのが原則であり、福祉事務所の責任で住居を確保する必要があることを、改めて明確に通知してください。宿泊施設、入所施設へ福祉事務所が安易に誘導することがないよう、注意喚起してください。

3.住まいを失った人々にやむをえず無料低額宿泊所、簡易宿所などの宿泊施設や、更生施設、有料老人ホームなどで居所を提供する場合には、感染防止とプライバシー確保の観点から「個室」としてください。

4.住まいを失った人々の無料低額宿泊所や簡易宿所の利用は、一時的な手段であることを明確にし、たとえば3か月以内といった期限を定め、安心できる住まいへ円滑に移行できるよう支援してください。

5.生活困窮者・生活保護利用者が住まいを確保しやすくするため、厚生労働省と国土交通省が協力し、地域の居住支援協議会や居住支援法人を活用するとともに、公営住宅を含めた関係機関による連携を強め、公的保証人事業を全国的に実施してください。

6.居宅については、国と都道府県の住生活基本計画が定める住宅性能水準、居住環境水準、最低居住面積水準を満たすことを原則にし、それらの条件を満たさない住まいからは、早急に転居できるように、費用の支給をしてください。

7.近年の夏場の酷暑化を踏まえると、ほとんどの地域では健康を維持するためにエアコンが欠かせません。生活保護では、以前からの保護世帯を含めてエアコン設置費を支給するとともに、故障時は修理・買い替え費用を支給してください。また、電気代の増加に見合う夏季加算を生活扶助に導入してください。生活困窮世帯についても、エアコン設置費を支給する仕組みを作ってください。

8.生活保護利用者を多数受け入れる共同住宅や無料低額宿泊所について、家賃・管理費・食費等の金額設定、金銭の管理方法、スタッフの人員体制を確認し、貧困ビジネスによる搾取を防ぐ仕組みを構築してください。

9.住宅ローンの返済に困った人には、金融機関との個別交渉による返済猶予・借入期間の延長だけでなく、返済資金の無担保貸付、公的な利子補給などを導入してください。

10.長期的には、安心できる住まいの確保を社会保障の重要テーマの1つとして位置づけ、すべての人を対象とした家賃補助制度を創設するとともに、公的賃貸住宅を積極的に建設してください。

以上

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標題 旧優生保護法訴訟大阪地裁判決に対する声明
日付 2020年12月22日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫)
 
私たちは被害回復を退ける判決に強く抗議します
優生思想排除のためにも国は被害者の皆さんに謝罪し賠償する責任があります

 11月30日、大阪地方裁判所は、原告らの請求を棄却するとの判決を言い渡しました。

 私たちは、仙台地裁、東京地裁の請求棄却の判決を受けて、本年8月7日に「旧優生保護法被害者の国家賠償請求訴訟に関する声明」を発出し、国策による「人生被害」に対し、20年という除斥期間を適用することは社会正義・公平に著しく反することを訴えました。しかしながら今回の大阪地裁も除斥期間の趣旨を厳格に捉える判決を下し、司法による被害回復への期待を大きく裏切りました。

 本判決において、旧優生保護法が障害者に対する合理的根拠のない差別であり憲法14条に違反することを明確に述べたことは、積極的に評価できると言えます。

 しかしながら20年という除斥期間を理由に原告らの請求を棄却したことは、原告の方々の奪われた人生を慮ると、無念であり到底納得できるものではありません。

 かつて優生保護法の下に行われた強制不妊手術は、当時の厚生省が「麻酔薬の施用」「欺罔(ぎもう)」を用いることを認めており、「本人に不妊手術の事実を分からせない(知らせない)で手術をする」というものでした。被害者が50年以上経たごく最近まで、自分の被害(人権侵害)をはっきりと自覚できなかったとしても何ら不思議ではありません。

 また、被害を認識できていたとしても、「不良な子孫の出生の防止」という国策の下、手術を強制されたことを自ら訴えることが容易に行える社会状況ではありませんでした。半世紀に及ぶ優生保護法下での被害は、社会の偏見や差別によって否応なく封印されていたのです。当時の偏見・差別の実情について十分考慮したうえで、原告救済の道を開くことが、人権救済の最後の砦としての裁判所の務めであるはずです。

 原告らは明らかに国策による人権侵害の被害者であり、人生の大半を苦しみの中で過ごさざるを得ませんでした。旧優生保護法は、今回の判決にもあるように差別を正面から容認し推進する法律であり、母体保護法への改正後も社会に影響をもたらしています。障害を医学モデルでとらえ、これを劣性とみる社会は形を変えながら今も私たちの社会生活に影を落としています。

 旧優生保護法の運用には、国の動きを無批判に受け入れてきた自治体、医師をはじめとする医療機関や福祉施設の職員なども大きな役割を担っており、ソーシャルワーカーもその責任から逃れることはできません。人権と社会正義を原理とする私たちソーシャルワーカーは、憲法に大きく違反する法制度に無自覚に加担してきたことを真摯に受け止め、高齢である被害者が一刻も早く人としての尊厳と被害の回復できるよう、継続して支援していくことをここに表明します。

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標題 令和3年度障害福祉サービス報酬改定に関する意見
日付 2020年12月2日
発翰番号 JAMHSW発第20-226号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 公明党障がい者福祉委員会 委員長 三浦信佑 様、事務局長 下野六太 様
 
 本協会は、1998年に精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進に寄与することを目的に国家資格化された精神保健福祉士を正会員とする職能団体として、精神障害者の権利擁護と社会参加の促進のための実践に取り組んでいます。また、現在精神保健福祉士は、医療、保健、福祉、教育、司法、産業など多分野で活躍しており、すべての人の精神保健福祉の増進を真摯に追求し活動しています。

 さて、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定にむけて、本協会は2020年2月14日に厚生労働省に要望書を提出しているところでありますが、現在、障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(以下「検討チーム」という。)で示されている方向性を踏まえ、「大衆福祉」を掲げ障害者福祉の充実を目指す貴党において検討の上、是非施策に反映させていただきたく下記の意見を申しあげます。

 今回の報酬改定が後押しとなり、精神障害者が安心して暮らせる地域共生社会の実現に一層近づくことを願っています。

 
 
1.精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進していくために、地域移行支援の実績評価、自立生活援助の評価、医療と福祉の連携の促進が必要です。
 現在、厚労省で推進している「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」に向けた取り組みは大変重要な施策と考えております。これを後押しするために、必要な事業への評価を是非反映させてください。
 特に地域移行支援は、精神科医療機関や障害者支援施設から地域生活への移行を支援するサービスですが、精神障害者における障害福祉サービス等別利用者割合を見ると0.2%と非常に低い数値です。精神科医療機関への長期入院を余儀なくされている障害者の地域生活への移行を推進する観点からは、指定事業所の稼働率の向上が求められ、地域移行支援の実績評価の拡充による後押しを要望します。
 また、自立生活援助は、緊急訪問や電話相談(夜間含む)、複数回実施した同行支援に対する加算とともに、自立生活援助サービス費(T)(U)の区分についても退所後の日数に限らず実態に合わせた見直しが必要です。
 検討チーム第19回資料2「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進について」≪論点等≫論点5「医療と福祉の連携の促進」について、自立生活援助事業者や地域定着支援事業者と精神科医療機関との情報連携における加算が検討されています。両者による情報共有は、チームアプローチの展開には欠かせない事項でありながら、労力を要することもあり十分になされているとは言えない状況にあります。関係者が必要な情報を共有することで当該の障害者に対する支援を適切に行えるよう報酬による後押しが期待されます。これにつきましては、他事業においても同様であり、精神科医療機関との連携について医療連携体制加算等への組み込みも含め、是非横断的事項として取り扱っていただきたく存じます。

2.特定相談支援事業における基本相談支援に対して基本報酬単価の見直しが必要です。
 基本相談支援は、サービス提供事業所への見学同行や面談の同席、利用者の住まい探し、サービス利用開始までの継続的な訪問や電話等、障害者が安心して障害福祉サービスを利用できるようにするために多くの時間を費やします。そのため、業務に見合った評価として基本報酬単価の見直しが必要であると考えます。

3.ピアサポートの専門性の評価を高くする必要があります。
 ピアサポートの専門性の評価について、対象となるサービスや研修スキームの整備など、その専門性を担保するための必要性が報酬改定チームにおいて確認されたことは是非実現していただきたいと考えております。ピアサポートの有効性は既に実証されており、報酬上の単価によって、その導入が促進されるため、またピアサポーターが自尊心をもって働くことができるための単価設定が必要であり、提示されている点数では低すぎると考えます。
 また、ピアサポーターが地域で活躍するための共通理解と普及啓発に繋げるため、市町村(または障害保健福祉圏域)の協議会等にピアサポートに関する協議の場を設置し、ピアサポーターの養成と体制整備を推進することが必要と考えます。

4.就労継続支援A型の評価項目について追加でご検討願います。
 就労継続支援A型に関しては検討チームにおいて「複数の項目における評価をスコア化し、当該スコアを実績として評価する」という方向性が示されていますが、これについては現在の評価軸の偏りを是正するという意味で是非進めていただきたいと考えます。
 検討チーム資料として示されている「各評価項目の内容(イメージ)」のうち「V 多様な働き方」の項目については、例示されているものに加えて社会保険の加入率による評価や利用者のキャリアアップの仕組みがあることへの評価も入れることを検討してください。また、本来の就労継続支援事業の在り方とも大きく関わる項目なので、「V 多様な働き方」の配点を「T 労働時間」と同程度に高くするようご検討ください。
 「W 支援力向上」について、普段外部研修に参加できない現場職員が学べる機会の確保は支援力の向上に欠かせません。例示されている評価要素に加え、外部講師を招いて全職員を対象として行う研修の実施も評価に入れることを検討してください。

5.就労継続支援B型の平均工賃月額に応じた報酬体系にもピアサポート支援や地域の活動機会の提供評価を認めてください。
 検討チームにおいて、現行の「平均工賃月額」に応じた報酬体系のほかに、利用者の生産活動等への参加等を支援したことをもって一律の評価をする報酬体系を新たに創設するなど、報酬体系の類型化が検討されており、これも平均工賃月額一辺倒の評価軸の偏りの是正にはつながると考えられます。
 「ピアサポートによる支援の評価」や「地域の活動機会の提供への評価」に関しては、「一律の評価」の体系だけに加算が付く形になっていますが、高工賃事業所の在り方と矛盾するとは思えないので、双方で加算がとれるようにすること、どちらかの報酬体系を選択した後、他方の体系に変更できる道筋は残すことについて検討してください
  以上

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標題 医療基本法制定の議論の充実に向けて〜「医療基本法共同骨子7項目」にもとづく提言〜/医療基本法に関するわたしたちの意見
日付 2020年11月16日
発信者 40団体
提出先 医療基本法制定にむけた議員連盟 会長 尾辻秀久先生
 
 医療基本法の制定に向けてご尽力いただき、ありがとうございます。

 医療基本法制定に向けた議員連盟におかれましては、昨年2月の発足以来、5回にわたり、延べ10の患者団体・市民団体からのヒアリングを実施していただきました。しかし、今年に入って、新型コロナ問題の影響もあるのでしょうか、当初予測されたよりも議論の進捗が遅れているようで、いまだに具体的な法律案が公表されるに至っていません。

 わたしたちは、拙速な議論を求めるものではありません。しかし、新型コロナ問題で、医療政策の重要性が社会的にクローズアップされたいまこそ、医療がいかにあるべきかについての国民的な議論を盛り上げる好機であると考えます。

 医療基本法制定の議論の充実に向けて、以下、改めてわたしたちの意見を表明いたします。いずれも、わたしたちの共同骨子7項目の本質に関わるものであり、医療基本法に欠かせないものであるとわたしたちは考えています。

 この提言を十分にご検討いただいたうえ、可及的速やかに議連としての医療基本法案を公表し、議論の場を国会に、そして社会全体に拡げていただくようお願いする次第です。


 
医療基本法に関するわたしたちの意見

  第1 医療政策による人権侵害についての反省について
 前文に、制定に至る議論の経過として、医療政策による人権侵害についての反省が盛り込まれるべきだと考えます。
 医療基本法に関する議論は、古くは1960年代から存在していましたが、21世紀に入って改めて制定に向けての気運が高まってきたのは、ハンセン病問題に関する検証会議が、2004(平成16)年に、公衆衛生政策等による人権侵害の再発防止策の柱として、「患者・被験者の権利の法制化」を提言したこと、それを受けた「ハンセン病の検証会議の提言に基づく再発防止検討会(通称ロードマップ委員会)」が、2009(平成21)年に「患者の権利擁護を中心とする医療基本法」の制定を提言したことに端を発しています。このロードマップ委員会には、日本医師会をはじめとする医療提供者団体の委員も多数参加しており、この提言が、今回の議論の出発点となっていることは、2014(平成26)年の日本医師会医事関係検討委員会答申「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言(最終報告)」にも明記されているところです。
 すなわち、今回の医療基本法制定に向けての議論の出発点には、ハンセン病問題をはじめとする、医療における人権侵害について、国をあげての反省と再発防止への決意(*1)が含まれているものと私たちは理解しています。患者の権利擁護を掲げる多くの市民団体や患者団体が、医療基本法に期待しているのもまさにその反省と決意の点にあります。
 前文に直接の法的な効果はないとはいえ、上記のような議論の経過を前文に反映し、人権擁護という観点を明示することは、医療に対する患者・市民の信頼を回復し、医師・患者間の新たな信頼関係の構築に大きな影響を与えるものと考えます。

第2 医療基本法の目的及び基本理念について
1 憲法13条及び25条と医療制度との関係について
 法律の目的、基本理念等の規定において、医療制度と憲法13条及び25条との関係が明示されるべきと考えます。
基本法とは、一般に、国の制度・政策に関する理念、基本方針を示すものであり、他の法律や行政を指導・誘導する役割があるとされています。
 もちろん、日本の法制度上、他の法律や行政を指導・誘導すべき最高規範が日本国憲法であることは論を俟ちません。その意味では、基本法は、法形式的には一般的な法律と同様であるにせよ、その性質上、憲法と一般的な法律との中間的な位置にあり、憲法と当該分野の一般的な法律とを繋ぐ親法的なものと考えられます。
したがって、医療基本法においては、医療制度の憲法上の位置づけを明確にし、憲法の要請に沿った基本理念を示すことが望まれます。
 医療は、憲法25条の保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要なものであるとともに、憲法13条の保障する個人の尊厳を実現し、生命、自由及び幸福追求の権利を保障するためにも必要なものです。わたしたちは、このような憲法13条及び25条の要請を実現するためにこそ、医療制度が存在するものと考えています。
 この医療制度と、憲法13条及び25条との関係を、法律の目的、基本理念等の規定において明示することは、医療基本法の本質を示すものとして極めて重要です。

2 WHO憲章の理念の反映
 目的あるいは基本理念の規定に、WHO憲章の理念が盛り込まれるべきだと考えます。
 WHO憲章は、1951年6月26日に条約第1号として公布されたものであり、この条約上、日本国政府は、自国民の健康に対して責任を負い、その責任を果たすために十分な健康対策と社会的施策を行う責務を負っています。
 WHO憲章は、「人種、宗教、政治的信念又は経済的若しくは社会的条件によって差別されることなく到達しうる最高限度の健康を享受すること」を基本的人権の一つであることを宣明するとともに、ここでいう「健康」とは、「単に病気でないことを意味するものではなく、肉体的、精神的、社会的に良好な状態」を意味するとしています。
 このWHO憲章の理念は、国内法的にも効力を有するものと思われますが、現在の医療関係法規にはそのことを明示したものがありません。
 医療基本法においては、日本の医療制度体系が、国際的に求められる基本的人権としての「健康」を実現できないような欠陥をもつことのないよう、このWHO憲章の理念を明示すべきだと考えます。
 なお、WHO憲章の「健康」については、それが医療の目的であることが、前掲日本医師会医事関係検討委員会答申「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言(最終報告)」でも明記されています。

3 医療を受ける権利について
 基本理念として、良質かつ適切な医療を受ける権利が、国民の基本的人権の一つであることを明示すべきです。
 このような医療を受ける権利は、憲法25条の保障する生存権や、WHO憲章の謳う健康を享受する権利の重要な内容として、国民の医療に関する基本的人権であると考えられます。麻生内閣のもとに設置された安心社会実現会議も、「国民の命と基本的人権(患者の自己決定権・最善の医療を受ける権利)を実現するため、2年を目途にそのことを明確に規定する基本法の制定を推進しなければならない」としていました(*2)
 良質かつ適切な医療を受ける権利は、患者の自己決定権と並び、国民の医療に関する基本的人権として明示されるべきです。

4 患者本位の医療であるべきことについて
 医療は患者のために提供されるものですので、患者本位に行われるべきことを法律の目的、基本理念等の規定において明示すべきです。
 この点については、前掲の日本医師会医事関係検討委員会答申「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言(最終報告)」において示された「医療基本法(仮称)案」でも、第3条3項において、医療の基本理念の1つとして、「医療は、患者本位におこなわれなければならない」と明記されているところです。

5 公共性の理念について
 医療が人の生命及び健康に直接作用し、基本的人権に直接関わるものであること、個々人の生命及び健康は社会の成立維持の基礎であること、医療を維持するためには多くの公金を必要とすることから、医療には高度の公共性があるといえます。医療に高度の公共性があるということは、第1に、医療の質、量及びそれに要する財政が、公的にコントロールされるものであることを、第2に、医療のステークホルダーがそれぞれ公的な役割・責務を担わなければならないということを意味しています。
 法律の目的、基本理念等の規定において、この公共性の理念を明示すべきです。
 このような公共性の理念については、前掲日本医師会「医療基本法(仮称)案」第3条2項においても、「医療は、それを必要とするすべての人が平等に機会を享受できるよう、公共性をもって提供されるとともに、営利を目的とするものであってはならない」と明記されているところです。

6 病気・障がいによる差別の禁止について
 基本理念の一つとして、病気・障がいによる差別が許されないことを掲げるべきです。
 医療政策による人権侵害の最たるものが、らい予防法及びそれに基づくハンセン病隔離政策によるハンセン病患者及びその家族に対する差別でした。
 ハンセン病やエイズの患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在するという事実を重く受け止め、これを今後に活かすことが必要であることは、1998(平成10)年に制定された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」前文でも述べられているとおりです。
 病気・障害による差別の対象となったのは、感染症患者だけに限られません。旧・優生保護法は、不良な子孫を残さないという名目の下で、半世紀以上にわたり、精神疾患や遺伝性疾患の患者、障がい者に対して強制不妊手術を続けてきました。
 前述のとおり、今日の医療基本法制定に向けた議論の出発点の一つは、ハンセン病問題の再発防止であり、その要となるのが、このような病気・障がいに関係する差別の禁止です。
 このような差別は、単に、医療を受ける場面での差別にとどまるものではなく、したがって、「平等な医療を受ける権利」でカバーできることではありません。むしろ、医療政策によって生み出された偏見が、患者・障がい者の社会生活全般におおける差別に繋がったというのが歴史的な経過であり、そのような歴史を繰り返さないためにこそ、このような規定が必要なのです。
 また、病気・障がいによる差別の解消には、医療に関する情報の提供や疾病に対する正しい知識の普及が必要であることは当然ですが、決してそのような施策のみで差別が解消されるものではありません。今日、新型コロナウイルスに感染した人あるいは感染の危険がある人に対する差別・偏見が問題になっていますが、その差別・偏見は、必ずしも、新型コロナウイルス感染症に関する正しい知識が普及されていないからではありません。なにが「正しい知識」であるかがまだ確定していない状況においては、さまざまな情報が疾病に対する不安を増強することは自然なことであり、その自然発生的な不安が、感染者に対する差別・偏見に繋がっていると考えられます。情報の提供や正しい知識の普及とは別に、差別は許されないことを法律によって明らかにすることが必要なのです。
 病気・障がいを理由とする差別は、患者・障がい者本人にとどまるものではなく、その家族や、ケアに携わる医療従事者にも及ぶものであり、その問題性は極めて大きいといえます。
 これを医療政策の基本理念として掲げることは、必須であると考えます。

7 権利侵害の回復について
 良質かつ適切な医療を受ける権利、自己決定権、プライバシー権、差別を受けない権利といった権利が侵害された場合は、迅速かつ適切にその回復が図られるべきことを、医療の基本理念として掲げるべきです。
 伝統的なメディカル・パターナリズムのもとで、患者と医師は対等ではありませんでした。生命・身体という重大な利益を、医師の手に委ねなければならないという立場におかれた患者は、その医師を信頼できるか否かにかかわらず、その意向に従わざるを得ない立場におかれるのが一般であり、そのような非対称な関係のもとで、さまざまな人権侵害が起こりました。
 このような状況は、今日においてもまだ完全に解消されたわけではありません。
 医療制度が、国民の医療に関する基本的人権を擁護するために存在するものであるとするならば、それらの基本的人権が侵害された場合、その回復が図られるべきことは当然です。これを基本理念として示すことは、患者の医師に対する信頼を、また国民全体の医療制度に対する信頼を確保するためにも重要なことといえます。
 具体的な回復策まで基本法に書き込む必要はありませんが、そのような理念を示した上で、基本的施策の一つに、権利侵害への客観的で公正で簡易・迅速な対応・体制整備を掲げることが必要であると考えます。

第3 各ステークホルダーの責務規定等の位置づけについて
1 医療保険者、医療事業者のステークホルダーとしての位置付け
 国、地方公共団体、医療従事者及び国民に加え、医療保険者、医療事業者もステークホルダーと位置付け、その責務を明らかにすべきです。
 医療保険者は、すでに各種基本法においても、ステークホルダーと位置付けられ、責務規定がおかれています(*3)。また、医療法においても、都道府県が地域医療計画の推進について協議すべき対象の一つとして位置付けられています(*4)。またこのように、医療政策の策定・推進に影響を与える医療保険者にも、医療基本法上、ステークホルダーとして一定の責務を負わせるべきです。
 医薬品費は、国民医療費の約2割を占めており、製薬会社の動向は、医療政策に大きな影響を与えます。医療機器を製造する事業者も同様です。これらの事業者も、医療基本法においてステークホルダーと位置付け、一定の責務を負わせるべきです。

2 医療従事者の患者の権利の擁護者としての位置付け
 医療制度において、医療従事者は患者の権利の擁護者として位置付けられるべきです。
 世界医師会の「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」(*5)の序文は、以下のように述べています。
 医師、患者およびより広い意味での社会との関係は、近年著しく変化してきた。医師は、常に自らの良心に従い、また常に患者の最善の利益のために行動すべきであると同時に、それと同等の努力を患者の自律性と正義を保証するために払わねばならない。以下に掲げる宣言は、医師が是認し推進する患者の主要な権利のいくつかを述べたものである。医師および医療従事者、または医療組織は、この権利を認識し、擁護していくうえで共同の責任を担っている。法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる適切な手段を講じるべきである。
 医療制度は、国民の医療に関する基本的人権を擁護するために存在することとともに、医療従事者はその権利を擁護する責任を共同して担っていることを明らかにすることによって、医療従事者と患者との間の新しい信頼関係を構築すべきであると考えます。

第4 医療政策の決定過程における当事者参加について
 医療基本法においては、医療政策の決定過程における当事者参加について、具体的な仕組みを示すべきです。
 多くの基本法には、政策決定過程に国民や当事者の意見を反映するための具体的な仕組みが定められています。例えば障害者基本法の場合、施策の基本方針として当事者の意見の尊重が謳われているほか、障害者基本計画に関わる障害者政策委員会に、障害者が委員として参加すべきことを定めています(*6) 。また、がん対策基本法においても、がん対策推進基本計画に関わるがん対策推進協議会に、がん患者及びその家族又は遺族を代表する者が委員として参加すべきことを定めています(*7)

第5 医療基本計画について
 医療基本計画については、これを策定すべきことに加えて、その遂行を監視し、評価し、見直すという一連の過程を定めるべきです。
 例えば前掲の障害者基本法では、当事者や学識経験者から構成される障害者政策委員会が、障害者基本計画の策定にあたって意見を述べるだけではなく、その実施状況を監視し、必要な時には内閣総理大臣又は関係各大臣に勧告を行うという権限を持っています(*8)
 前述した当事者参加の基本理念を実効的に担保するためにも、医療基本計画について同様の定めをすることが望まれます。

第6 そのほか基本的施策について
 基本的施策としては、前項までに述べたような考え方を実現するための施策が掲げられるべきですが、いくつかの点について補足的に述べます。

1 医療従事者の育成について
 医療従事者の育成において、人権教育の重要性を強調すべきです。
 良質かつ適切な医療の担い手たるためには、医学的知識や医療技術とともに、豊かな人権感覚が必要です。ところが、医師や医学部生の不祥事は後を絶たず、医療全体に対する信頼を損ねている現実があります。
 そのような実情を踏まえ、医療基本法においては、医療従事者の育成における人権教育の重要性を強調することが望まれます。

2 医療従事者の労働環境の整備
 医療従事者の労働環境の整備を、基本的施策の一つとして掲げるべきです。
 医療現場における医療従事者の過重労働は、医療従事者自身の過労死、過労自殺の原因となることはもちろん、医療にあたっての注意能力を減退させることにより、医療安全に対する脅威ともなっています。医療従事者にとっても患者にとっても、安全な医療を実現するために、医療従事者の過重労働を解消することは重要な課題です。

3 精神障害者に対する医療について
 医療基本法制定に伴い、現行の医療関係法規及び医療制度について、医療基本法に定められた基本理念に適合しているか否かという観点から見直す必要があります。とりわけ、現在、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律並びに心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等関する法律に基づいて行われている精神障害者に対する医療については、さまざまな人権侵害が指摘され、憲法13条に適合しない合理的な疑いが存在することから、改廃を含めて、そのあり方を検討すべきです。

4 医療に関する研究における被験者保護
 医学研究における被験者保護の必要性については異論の無いところと思われますが、現在、医薬品承認申請のための臨床試験について厚生労働省の通知(GCP)以外は、各分野毎の倫理指針が存在するのみであり、被験者保護のための公的制度がありません。
 新たな法律の制定を含め、被験者保護のための公的な施策が講じられるべきです。
  以上
 
(*1)「ハンセン病問題の早期かつ全面的解決に向けての内閣総理大臣談話」(平成13年5月25日)、衆議院「ハンセン病問題に関する決議」(平成13年6月7日)、参議院「ハンセン病問題に関する決議」(平成13年6月8日)等
(*2)「安心と活力の日本へ(安心社会実現会議報告)」(平成21年6月)
(*3)がん対策基本法5条、肝炎対策基本法5条、アレルギー疾患対策基本法6条、脳卒中・循環器対策基本法5条等。
(*4)医療法30条の14
(*5)1981年採択、1995年修正、2005年理事会で編集上修正、2015年理事会で再確認。
(*6)障害者基本法10条2項及び33条2項
(*7)がん対策基本法19条及び20条
(*8)障害者基本法14条4項及び32条3項

  要請団体一覧

秋田県保険医協会 会長 草g芳明/一般社団法人埼玉県障害難病団体協議会 代表理事 鍛冶屋 勇/一般社団法人全国筋無力症友の会 代表理事 小野寺廣子/一般社団法人日本ALS協会 会長 嶋守恵之/医療過誤原告の会 会長 宮脇正和/医療事故防止・患者安全推進学会 代表理事 隈本邦彦/医療の良心を守る市民の会 代表 永井裕之/医療問題弁護団 代表 安原幸彦/患者なっとくの会INCA 代表 小沢木理/患者の権利オンブズマン東京 幹事長 谷 直樹/患者の権利法をつくる会 事務局長 小林洋二/患者の声協議会 代表 長谷川三枝子/公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子/公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久/公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子/公益社団法人日本リウマチ友の会 会長 長谷川三枝子/社会福祉法人復生あせび会相談事業部 会長 佐藤エミ子/全国肝臓病患者連合会 会長 西河内靖泰/全国「精神病」者集団 代表 関口明彦・桐原尚之/全国ハンセン病療養所入所者協議会 会長 森 和男/東京HIV訴訟弁護団 代表 清水洋二/特定非営利活動法人がん政策サミット 理事長 埴岡健一/特定非営利活動法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会 理事長 岡谷恵子/特定非営利活動法人ネットワーク医療と人権 理事長 若生治友/日本医療福祉生活協同組合連合会 代表理事会長理事 橋 淳/認定NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク 専務理事 赤城智美/認定NPO法人日本アレルギー友の会 理事長 武川篤之/ハンセン病国賠訴訟瀬戸内弁護団 事務局長 近藤 剛/ハンセン病国賠訴訟全国原告団協議会 会長 志村 康/ハンセン病国賠訴訟西日本弁護団 代表 徳田靖之・八尋光秀/ハンセン病違憲国賠訴訟東日本弁護団 団長 豊田 誠/福岡県歯科保険医協会 会長 大ア公司/もやもや病の患者と家族の会 事務局 須戸康子/薬害オンブズパースン会議 代表 鈴木利廣/Medical Basic Act Community 代表 前田哲兵/NPO法人線維筋痛症友の会 理事長 山田章子/NPO法人日本呼吸器障害者情報センター 理事長 遠山和子/NPO法人日本ナルコレプシー協会 理事長 原 泰介/NPO法人ブーゲンビリア 理事長 内田絵子/NPO法人PAHの会 理事長 村上紀子(以上、40団体:五十音順)

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標題 「第4次犯罪被害者等基本計画案・骨子」に対する意見
日付 2020年11月24日
発翰番号 JAPSW発第20-217号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 警察庁犯罪被害者等施策担当参事官室 御中
 
 平素より本協会事業に格別のご理解、ご協力を賜り、深く感謝申しあげます。
 本協会は、メンタルヘルス不調を来たした方の権利擁護と地域生活支援を担う専門職の全国組織です。近年では、広く国民の精神保健保持に資するために、医療、保健、そして福祉にまたがる領域で活躍する精神保健福祉士の役割の重要性が増しており、医療機関や生活支援サービス機関をはじめ、地方公共団体や学校、保護観察所や矯正施設等でも、その活動の幅を広げております。

 さて、2015年に策定された第3次犯罪被害者等基本計画から、「地方公共団体における専門職の活用及びこれらとの更なる連携・協力の充実・強化」の中で、本専門職の活用について記載をいただき、犯罪被害者等の理解と支援を押し進めようと、本協会としても自助努力を重ねております。2016年には、本協会に「司法精神保健福祉委員会」を設置して、犯罪被害者等に絡む司法調査を実施しており、過去3年の間に27%もの本協会構成員が犯罪被害者等からの相談を受理しているとの結果*1も出ております。しかしながら、犯罪被害者等への支援については、生活支援のための制度・サービスの不備に加え、専門職の位置づけが不明瞭で活用される場が極めて限定的であるために、実質的な専門的支援を行うことができていない状況です。つまり、犯罪被害者等の相談支援として、犯罪被害者等が活用できる制度・サービスのコーディネート(ケアマネジメント)やアドボケイト支援等は提供できていません。犯罪被害者等の置かれた困難等に対し、国家資格であるソーシャルワーク専門職の有効な活用がなされず、生活再建の目処が立たない犯罪被害者等が多数社会におられることについて、誠に遺憾に思っております。

 本協会としましては、犯罪被害者等の権利回復、精神的回復と生活再建に向けての支援体制の強化や促進のために、精神科医療機関、地方公共団体、その他関連機関における支援に精神保健福祉士が果たすべき役割があると強く認識しているところです。

 つきましては、「第4次犯罪被害者等基本計画案・骨子」について、下記のとおり意見いたしますので、ご高配のほど何卒よろしくお願いいたします。

 
 
「U 重点課題に係る具体的施策」における意見

第1 損害回復・経済的支援等への取組
 犯罪被害者等のための損害回復・経済的支援は、この間随分と拡充してきたが、それでもなお、犯罪被害者等からの経済的支援による回復を切望する声を多く聞き及んでいる。とりわけ、再犯防止推進法等により加害者支援の充実が図られていく中で、犯罪被害者等への手当てが格段多くはないことを遺憾に感じている。犯罪被害者等が被害回復できるように、実際のニーズを聞き取り、更なる損害回復・経済的支援の検討をいただきたい。

第1−2−(3)カウンセリング等心理療法の費用の負担軽減
 犯罪被害者等のカウンセリングは重要な支援の一つであるが、精神科医療機関等に対して公費カウンセリング制度について周知等がなされていないことから、都道府県警察に対し、広報・啓発の更なる充実を要請いただきたい。また、可能であれば、支援者が犯罪被害者等に説明する際の参考資料となる内容を明記した全国共通のパンフレット等の作成をお願いしたい。
併せて、同制度の対象を急性期の犯罪被害者等に限定せず、複雑性PTSDや病的悲嘆のご遺族等、中長期に生活課題を抱える犯罪被害者等にも適用できるように制度の再設計をお願いしたい。
同時に、カウンセリング等を必要とする犯罪被害者等の多くは、早期の具体的な社会生活再建のコーディネート支援が必要になることから、都道府県警察においても、犯罪被害者等の精神的状況と社会資源に精通した精神保健福祉士等を配置していただきたい。

第1−3−(2)被害直後及び中期的な居住場所の確保
 地方公共団体によっては、条例で居住の安定のための施策を有しているが、利用実績は非常に限られている。地域格差と、制度の周知不足、不適切なサービス内容のほか、円滑で適切な生活支援のためのコーディネートが行われていないことなどがその原因と思われる。地方公共団体において、生活支援を専門に行うことのできる専門職(精神保健福祉士・社会福祉士)の配置を検討いただきたい。

第2−1−(4)犯罪被害者等への適切な対応に資する医学教育の促進
 医師だけではなく、公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士の大学・大学院等でのカリキュラムにおいても、犯罪被害者等に関する専門的知識・技術についての項目が取り入れられることが求められる。とりわけ、精神保健福祉士、社会福祉士教育には、すでに加害者支援に関する知見が教育に盛り込まれており、加害者の数だけ犯罪被害者等がいることを鑑みると、それと同レベル・量の教育内容が盛り込まれるよう検討をいただきたい。

第2−1−(21)犯罪被害者等に関する専門的知識・技能を有する専門職の養成等
 現在、加害者支援においては、保護・矯正関連施設において、専門に配置される社会福祉士や精神保健福祉士、臨床心理士が活躍している。一方、犯罪被害者等支援分野においては、専門に配置される予算措置、配置場所の提案がなかったために、専門職の養成のニーズが高まらない状況にあり、加害者支援との不均衡状態が生じている。加害者支援に予算が更に投じられていくことへの犯罪被害当事者の反発や怒りも強い。ソーシャルワーカー専門職(精神保健福祉士、社会福祉士)に犯罪被害者等に関する専門的知識・技術を有する専門職の養成を行うための予算措置をお願いしたい。

第2−3−(1)保護、捜査、公判等の過程における配慮等
 文中に「二次的被害」という言葉が使用されているが、「二次被害」が国際的な共通の理解となっている。また地方公共団体の条例等においても、「二次被害」に改められていると聞いている。
行政として用語が統一されないことは国民を混乱させることにもなりかねないこと、内閣府・男女共同参画局においてもすでに「二次被害」に改められていることから、本計画においても「二次被害」としていただきたい。

第3―1−(24)エ 犯罪被害者等の意見を踏まえた適切な加害者処遇の推進等
 保護観察中の加害者に対する心情等伝達制度について、同制度により心情や要望等を伝達しても、伝達した内容が加害者の保護観察にどのようにいかされているのかがわからず、加害者からも具体的な反応がないままとなっている場合が多いと聞き及んでいることから、心情等伝達制度により伝えた内容を踏まえた指導を行うよう、その指導の充実を図ることにより、犯罪被害者等が制度利用の実感や効果を得られるようにしていただきたい。
 また、同制度を犯罪被害者等が利用したい場合の身元の確認の手続や必要書類の簡素化の検討をお願いしたい。
同制度の申出に当たり、身元の確認のために住民票が必要とされた犯罪被害者から、「なぜ被害者なのにお金を払って住民票まで用意しないといけないのか」との意見があることを踏まえ、保護観察所から市町村に対して職権で住民票を取り寄せるなどして、犯罪被害者等の負担の軽減を図っていただきたい。

第4−1−(4)地方公共団体における専門職の活用及びこれらとの更なる連携・協力の充実・強化
 犯罪被害者等の生活の問題は、保健や福祉と密接に絡んでおり、様々な社会資源を熟知しコーディネートしていく技術が必要になる。また、現在、地方公共団体に犯罪被害者等が自ら相談する事案は多くはなく、総合的対応窓口の開設のみでは支援を必要としている人に支援が行き届かない状況にある。被害に遭った直後からのアウトリーチを行い、支援を展開していく必要があり、そのためには専門性を有した職員配置が欠かせない。地方公共団体の総合的対応窓口を保健や福祉を担う部署に置き、社会福祉士、精神保健福祉士及び保健師等の専門職を配置することを推進いただきたい。

第4−1−(14) 被害者支援連絡協議会及び被害者支援地域ネットワークにおける連携の推進
 被害者支援連絡協議会及び被害者支援地域ネットワークは、参加する職能団体が固定化しつつあるが、犯罪被害者等の更なる生活再建のためには、生活支援の視点が欠かせず、その分野の専門職を加える意義が認められる。このたび、精神保健福祉士協会等を新たな団体の一つとして盛り込んでいただけたが、全国の協議会等においても同様の流れとなるようその促進をお願いしたい。
 また、犯罪被害者支援や連携を進める上で、当事者の視点は大変重要であることから、同協議会やネットワークに当事者(本人、家族、遺族)あるいは当事者団体から最低1名は加わるよう推進いただきたい。

第4−1−(17)「指定被害者支援要員制度」の活用
 警察において、指定された警察職員が、事件発生直後から犯罪被害者等に付き添い、必要な助言、指導、情報提供等を行うことや、被害者支援連絡協議会等のネットワークを活用しつつ、部外のカウンセラー、弁護士会、関係機関又は犯罪被害者等の援助を行う民間の団体等の紹介・引継ぎを実施するなどする「指定被害者支援要員制度」における支援には、ケアマネジメントの手法が有効であることから、指定被害者支援要員に対する研修において、精神保健福祉士等が有するソーシャルワークの知見を活用いただき、犯罪被害者等に対する早期支援の充実を図っていただきたい。

第4−1−(25)検察庁の犯罪被害者等支援活動における福祉・心理関係の専門機関等との連携の充実
 加害者支援の分野では、刑事司法手続の入口段階において、検察庁において、福祉的支援が必要な被疑者・被告人に対する支援(入口支援)を行うための福祉専門職の配置が進んでいる。一方で、検察庁に配置されている被害者支援員が行う等に対する支援には、被害者の生活再建のためには福祉的支援が必要であるという観点に乏しいと思われる。事件や事故後から半年までの支援がPTSD発症リスクを予防することが知られることからも、検察庁においても犯罪被害者等に対応する専属の福祉専門職を配置するか、あるいは、外部福祉機関(相談支援事業所等)に委託をして支援を行う体制を検討いただきたい。

第4−1−(35)地域包括支援センターによる支援
 地域包括支援センターは、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)の各1名以上の配置要件がある。犯罪被害者支援においては、とりわけ権利擁護に関する実務の推進が必要になるため、権利擁護を支援の軸の一つとしてきた精神保健福祉士の配置も検討いただきたい。

第5−1−(5)性犯罪・性暴力対策に関する教育の推進
 性犯罪・性暴力対策においては、年齢に合わせた性教育が何より重要であると考えられることから、その点を踏まえた確実な性教育の実施をお願いしたい。
 特に、幼少時の性被害が解離性同一性障害の発症の原因となることが多いという事実についても、関係者に周知いただき、加害者も被害者も出さないための性教育を徹底していただきたい。


*1 司法精神保健福祉委員会・報告書(プレ調査結果)司法分野における精神保健福祉士の関わりについてのアンケート[第1版]2018(平成30)年3月発行.

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標題 令和3年度障害福祉サービス報酬改定に関する意見
日付 2020年11月17日
発翰番号 JAPSW発第20-215号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 自由民主党 政務調査会 障害児者問題調査会長 衛藤晟一 様
 
 本協会は、1998年に精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進に寄与することを目的に国家資格化された精神保健福祉士を正会員とする職能団体として、精神障害者の権利擁護と社会参加の促進のための実践に取り組んでいます。また、現在精神保健福祉士は、医療、保健、福祉、教育、司法、産業など多分野で活躍しており、すべての人の精神保健福祉の増進を真摯に追求し活動しています。

 さて、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定にむけて、本協会は2020年2月14日に厚生労働省に要望書を提出しているところでありますが、現在、障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(以下「検討チーム」という。)で示されている方向性を踏まえ、貴党において検討の上、是非施策に反映させていただきたく下記の意見を申しあげます。

 今回の報酬改定が後押しとなり、精神障害者が安心して暮らせる地域共生社会の実現に一層近づくことを願っています。

 
 
1.精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進していくために、地域移行支援の実績評価、自立生活援助の評価、医療と福祉の連携の促進が必要です。
 現在、厚労省で推進している「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」に向けた取り組みは大変重要な施策と考えております。これを後押しするために、必要な事業への評価を是非反映させてください。
 特に地域移行支援は、精神科医療機関や障害者支援施設から地域生活への移行を支援するサービスですが、精神障害者における障害福祉サービス等別利用者割合を見ると0.2%と非常に低い数値です。精神科医療機関への長期入院を余儀なくされている障害者の地域生活への移行を推進する観点からは、指定事業所の稼働率の向上が求められ、地域移行支援の実績評価の拡充による後押しを要望します。
 また、自立生活援助は、緊急訪問や電話相談(夜間含む)、複数回実施した同行支援に対する加算とともに、自立生活援助サービス費(T)(U)の区分についても退所後の日数に限らず実態に合わせた見直しが必要です。
 検討チーム第19回資料2「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進について」≪論点等≫論点5「医療と福祉の連携の促進」について、自立生活援助事業者や地域定着支援事業者と精神科医療機関との情報連携における加算が検討されています。両者による情報共有は、チームアプローチの展開には欠かせない事項でありながら、労力を要することもあり十分になされているとは言えない状況にあります。関係者が必要な情報を共有することで当該の障害者に対する支援を適切に行えるよう報酬による後押しが期待されます。これにつきましては、他事業においても同様であり、精神科医療機関との連携について医療連携体制加算等への組み込みも含め、是非横断的事項として取り扱っていただきたく存じます。

2.特定相談支援事業における基本相談支援に対して基本報酬単価の見直しが必要です。
 基本相談支援は、サービス提供事業所への見学同行や面談の同席、利用者の住まい探し、サービス利用開始までの継続的な訪問や電話等、障害者が安心して障害福祉サービスを利用できるようにするために多くの時間を費やします。そのため、業務に見合った評価として基本報酬単価の見直しが必要であると考えます。

3.ピアサポートの専門性の評価を高くする必要があります。
 ピアサポートの専門性の評価について、対象となるサービスや研修スキームの整備など、その専門性を担保するための必要性が報酬改定チームにおいて確認されたことは是非実現していただきたいと考えております。ピアサポートの有効性は既に実証されており、報酬上の単価によって、その導入が促進されるため、またピアサポーターが自尊心をもって働くことができるための単価設定が必要であり、提示されている点数では低すぎると考えます。
 また、ピアサポーターが地域で活躍するための共通理解と普及啓発に繋げるため、市町村(または障害保健福祉圏域)の協議会等にピアサポートに関する協議の場を設置し、ピアサポーターの養成と体制整備を推進することが必要と考えます。

4.就労継続支援A型の評価項目について追加でご検討願います。
 就労継続支援A型に関しては検討チームにおいて「複数の項目における評価をスコア化し、当該スコアを実績として評価する」という方向性が示されていますが、これについては現在の評価軸の偏りを是正するという意味で是非進めていただきたいと考えます。
 検討チーム資料として示されている「各評価項目の内容(イメージ)」のうち「V 多様な働き方」の項目については、例示されているものに加えて社会保険の加入率による評価や利用者のキャリアアップの仕組みがあることへの評価も入れることを検討してください。また、本来の就労継続支援事業の在り方とも大きく関わる項目なので、「V 多様な働き方」の配点を「T 労働時間」と同程度に高くするようご検討ください。
 「W 支援力向上」について、普段外部研修に参加できない現場職員が学べる機会の確保は支援力の向上に欠かせません。例示されている評価要素に加え、外部講師を招いて全職員を対象として行う研修の実施も評価に入れることを検討してください。

5.就労継続支援B型の平均工賃月額に応じた報酬体系にもピアサポート支援や地域の活動機会の提供評価を認めてください。
 検討チームにおいて、現行の「平均工賃月額」に応じた報酬体系のほかに、利用者の生産活動等への参加等を支援したことをもって一律の評価をする報酬体系を新たに創設するなど、報酬体系の類型化が検討されており、これも平均工賃月額一辺倒の評価軸の偏りの是正にはつながると考えられます。
 「ピアサポートによる支援の評価」や「地域の活動機会の提供への評価」に関しては、「一律の評価」の体系だけに加算が付く形になっていますが、高工賃事業所の在り方と矛盾するとは思えないので、双方で加算がとれるようにすること、どちらかの報酬体系を選択した後、他方の体系に変更できる道筋は残すことについて検討してください。
  以上
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標題 「精神障害と事件報道に関するメディアへの提案」について
日付 2020年10月30日
発翰番号 JAPSW発第20-193号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 メディア各位(385か所)
 
 時下、ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。
 御社におかれましては、日頃より国民のメンタルヘルス向上にむけた事業・活動にご理解を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、大事件が発生しますと、その容疑者について、精神科の入通院歴、診断名、福祉制度の利用などが報道されることがあり、精神障害者やその家族に深刻な影響をもたらしています。昨年(2019年)は、神奈川県川崎市登戸通り魔事件(5月)、大阪府吹田市の警官襲撃拳銃強奪事件(6月)、京都アニメーション放火殺人事件(7月)がありました。

 本協会は、精神保健医療福祉分野のソーシャルワーカーたる精神保健福祉士(国家資格)を正会員とする公益社団法人として、精神障害がある者の人権を守るとともに、すべての人が共によりよい生活をできる社会をめざして活動しています。その立場から、今般、別添「精神障害と事件報道に関するメディアへの提案」をまとめました。

 つきましては、是非ともお目通しいただきたく存じます。また、望ましい事件報道のあり方を共に探るため、メディアの仕事に携わる方々に意見交換を呼びかけます。
 どうぞよろしくお願いいたします。

 なお、ご意見ご質問等がございましたら、次のEメールアドレス(※)までご連絡いただければ幸いです。

※Eメールアドレスは非掲載にしました。
 
  2020年10月30日
  精神障害と事件報道に関するメディアへの提案
  公益社団法人日本精神保健福祉士協会
   大きな事件が起きると、容疑者について、精神科の入通院歴、診断名、福祉制度の利用などが報道されることがあります。これは深刻な影響をもたらしています。
 大阪教育大付属池田小学校事件(2001年6月)、相模原障害者施設殺傷事件(2016年7月)は現在も重大な影響を及ぼしています。昨年(2019年)は川崎市登戸の通り魔事件(5月)、大阪府吹田市の警官襲撃拳銃強奪事件(6月)、京都アニメーション放火殺人事件(7月)がありました。
 本協会は、精神障害者の人権を守るとともに、すべての人が共によりよい生活をできる社会をめざして活動しています。その立場から、事件報道に関する提案をまとめました。
 望ましい報道のあり方を共に探るため、メディアの仕事に携わる方々に意見交換を呼びかけます。

   【1】報道がもたらす否定的な影響を認識してください。
 容疑者の精神的な病気や障害に言及する事件報道は、精神障害をもつ当事者や家族に直接の影響を及ぼします。過去の大きな事件では、報道を見聞きした結果、「自分も事件を起こすのだろうか」「世間から白い目で見られるかも」といった不安が高まり、病状が悪化した、外出できなくなった、自ら命を絶ってしまった、といったケースが報告されています。
 また、そうした事件報道は、精神障害者を危険視するマイナスイメージをもたらし、社会に存在する偏見や差別を広げます。その事件とは全く関係のない数多くの当事者、家族が、とばっちりで不利益を受けます。勤務先を解雇される、地域に居づらくなる、福祉の就労事業所や入所施設などが運営しにくくなる、住まいや仕事を見つけにくくなる、といった事態にもつながります。
 さらに、偏見の拡大は、必要な精神科医療の受診を妨げます。障害年金、生活保護、障害者手当などの社会保障制度や障害福祉サービスを容疑者が利用していたと報道されると、当事者や家族は、それらの利用を避けがちになります。よけいに生活しづらくなり、病状が悪化するおそれがあります。
 ひきこもりも同様です。否定的なイメージが広がると、よけいに抜け出すのが困難になります。
また、薬物やアルコール、ギャンブルなどの依存症に対して、自己責任論に立った過剰なバッシングが見受けられます。それは偏見と社会的排除を強め、かえって治療や回復を妨げてしまいます。

【2】入通院歴、病名、服薬歴、社会保障・福祉の利用などは、犯行との関係が明確になっていない段階では、伝えるのを控えてください。
 それらを伝えることは、否定的な影響を及ぼすだけでなく、はたして「真実」の報道になるのかという問題があります。
 たとえ、容疑者が過去、精神科に入通院したことがあり、何らかの診断名を付けられたことがあったとしても、その内容が真実とは限りません。精神科は医師によって診断が食い違うことは珍しくありません。本格的な精神鑑定でも結論はしばしば異なります。池田小事件の裁判では、医師が保険請求のための病名を付けたことや、本人が病気を装っていたことが明らかになりました。
 事件報道でメディアは、犯行に関係があるかもしれないことを取材で知ると、とりあえず「事実」として伝えることが多いのですが、その時点では、本当に因果関係があるかどうかはわかりません。
 後になって診断が不適切だった、あるいは犯行とは関係がなかったとわかれば、結果的に誤報になってしまいます。結果的に間違ったことや関係のないことを伝えて、否定的な影響を及ぼしたことになるのです。ところが、後から別の情報を伝えても、いったん社会に広がったイメージはなかなか変わりません。初期報道の影響、とりわけ見出しの影響は圧倒的に大きいのです。そのことを考えて、犯行との関係がほぼ明確になるまでは、あえて伝えないという選択をしていただけないでしょうか。
 精神科の入通院歴や病名については、すでに報道各社の社内指針で、慎重な扱いを定めていることが多いようです。また裁判員裁判の導入後、事件の性質や容疑者の人物像について、予断を与える報道をしないことが求められています。

【3】社会的な背景や課題を掘り下げてください。
 かりに精神障害が犯行につながっていた場合でも、病気・障害のせいで片付けないでください。個人が何らかの行動に至る背景には、生まれ育った環境、他の障害、家族との関係、貧困、孤立、地域の状況なども関係します。医療のあり方、社会保障や福祉に関する情報不足、行政の対応の不備、社会の風潮といった様々な要因もあります。そういった背景要因は刑事事件の捜査や裁判では、焦点を当てられることが少なく、それらを指摘する報道がもっとあって欲しいと考えます。
 多角的に取材して掘り下げ、とりわけ社会的な問題のありかや教訓を明らかにしてください。

【4】偏見・差別を減らす努力をしてください。
 精神障害のほとんどは、治療や生活環境の調整によって治癒、回復、症状コントロールが可能です。病院ではなく地域生活を営んでいる人、障害を持ちながら働いている人は大勢います。
 精神障害者が刑事事件を起こす率は、一般の人に比べて低いものです 。また、大多数の精神障害者は、事件と関係がありません。何らかのカテゴリーに属する人たちを危険な存在とみなすこと、そういう印象を与えることは、偏見・差別にあたります(例えば外国人や特定の宗教の場合も同様)。
 以上の点について報道の際、意識的にコメントを付け加えてください。
 精神障害者は危ない、閉じ込めろ、隔離せよ、といった社会的雰囲気をつくらないよう、注意してください。出演者や識者のコメント、近所の人への取材、街の声を拾ったときなどに、そういう発言があった場合でも、それらは削除して、伝えないでください。問題のある発言をそのまま伝えたら、報道機関が偏見・差別に加担することになります。
 精神科医療では長年、病院への隔離収容政策が行われ、その結果、一般市民と精神障害者の接点が少なくなっています。知らない存在、よくわからない存在について人間は、こわいと感じます。そういう反応を減らすため、地域社会で暮らしている当事者の姿と声、そして彼らの意見をぜひ伝えてください。昔と違って、出演できる当事者は全国各地にいます。実名・顔出しできる人も少なくありません。

【5】コメンテーターの選び方を考え直してください。
 刑事事件とメンタルヘルスは、たいへんデリケートなうえ、影響の大きな問題です。専門知識を持たないコメンテーターに不用意に語らせないでください。
 また、医師や脳科学者の中には、容疑者に接したことがないのに、報道された情報だけで診断名をつける人がいます。これは科学的にも倫理的にも、適切な行動ではありません。
 一方、刑事事件やメンタルヘルスに関しては、精神医学だけでなく、医療制度、生活、福祉、社会状況などの観点も重要です。コメントする専門家が必要なときは、視野を広げて探してください。精神保健福祉士をはじめとするソーシャルワーカー専門職団体も存在します。

【6】薬物再使用につながる刺激や自殺の誘発を避ける工夫をしてください。
 たとえば、覚醒剤を使った経験のある人の場合、白い粉、ペットボトルの水、注射器などの映像や写真を見ると、再使用の欲求が高まります。薬物、アルコール、ギャンブルなどでも、似た問題があります。
 また、著名人などの自殺で、具体的な自殺の手段が報道されると、自殺を誘発することがあります。

◆意見交換の場を持ちませんか?
 私たちからの意見表明だけで、望ましい報道が実現するわけではありません。メディア側の考え方や現場の実情を知り、よりよい報道のあり方を共同で探っていく必要があります。
 新型コロナウィルス感染症の影響もあり、すぐに実現するのは困難かもしれませんが、時期を見てメディア関係者との意見交換会を各地で持ちたいと考えています。
 新聞、テレビ、ラジオ、通信社の方々や業界団体の方々はもちろん、このテーマに関心を持つ雑誌、出版、ネット、フリーランス、広告などの方々、放送では報道局だけでなく情報番組・教育番組・娯楽番組の制作に関係する方々とも意見交換をしたいところです。
 さらに、精神保健医療福祉に関係する様々な団体(当事者団体を含む)からも参加していただき、それを踏まえて、正式の提言にすることを考えています。
 東京だけでなく、地方ブロック単位、さらに必要に応じて県単位でも、意見交換会を設定できるとよいでしょう。
 なお、マスメディアは、社会の中で大きな役割と責任を担っています。今回は事件報道に伴う否定的影響を減らすことがテーマですが、それだけでなく、偏見・差別を積極的になくすための報道、医療・福祉に関する適切な知識普及、精神科医療の改革と社会保障・福祉の充実を促す報道にも期待しています。
  以上
  (注)令和元年版「犯罪白書」によると、2018年の刑法犯検挙者数は20万6,094人で、これを14歳以上の総人口で割ると0.163%。刑法犯検のうち精神障害者またはその疑いがあると警察が判断した者は2,695人で、これを2017年「患者調査」にもとづく精神障害者数(受診患者数)で割ると0.064%になる。

【参考になる資料】
・新聞研究 2006年9月号 特集「メンタルヘルスの報じ方」
・新聞研究 2016年10号 特集「障害者差別と報道」
・新聞研究 2017年10月号 特集「障害者差別と報道再考」
・リカバリー全国フォーラム2019資料集「分科会13 精神科報道ガイドラインを作ろう!」
・厚生労働科学研究「普及啓発における当事者の積極的参加とマスメディアによる支援に関する研究」研究班「精神保健福祉ガイドブック 当事者の積極的参加に向けたマスメディアによる支援のために」 2008年3月
 http://www.zmhwc.jp/pdf/report/2008guidebook.pdf
・依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク「薬物報道ガイドライン」 2017年2月1日
 http://izon-hodo.net/
・世界保健機関(WHO)「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識」(2017年版、自殺総合対策推進センター訳)
 https://www.mhlw.go.jp/content/000526937.pdf

 
  [参考資料]

 本資料は昨年(2019年)の大阪府吹田市の拳銃強奪事件、京都アニメーションの放火事件後に事件報道について本協会に寄せられた当事者や支援者の声の一部(抜粋・要約)です。提案書と合わせてご一読いただけると幸いです。

○ 現在精神疾患を患っていてうつ病の薬を服用しています。日常生活では自分はストレスに弱くすぐ心身に負担がかかり疲れやすい気質で、仕事の面接も通らず働きたいけど働けない状態が続いています。今回のような事件があり精神障害者を今の社会で受け入れてくれるのかという懸念が強まって来ました、自分はうつ病でも物事に関しては考えることが出来ますし判断の識別も完璧ではないですができると思っています。マスコミ等の報道で精神病があるからと本人から何も言葉が出てきていないのに憶測で物事を判断や関連付けをしないで欲しいと思います。(当事者)

○ 担当している方の内科受診同行時、外来受付で渡された問診票に「治療中の病気」「服薬中の薬」の欄があり、本人がしばらく鉛筆を止めた後「なし」にチェックした。(支援者)

○ 70代・80代の親御さんから、引きこもっている子供がいるが、「報道を見て、何かするんじゃないか」「事件を起こすんじゃないか」「自分たちでは、何かあったときに責任が取れない」「何かしたときに、自分たちが責任を問われるんじゃないか」「なかなか病院に行ってくれないが、それは家族が責められることになるのか」といった、新規の相談が事件報道以降、急増した。(支援者)

○ 報道を見て、当事者だけじゃなく、家族も「次はうちかもしれない」という不安と、それによって本人に余計に声をかけられなくなった、本人が怖いというイメージも助長されていると感じる。(支援者)

○ 今までも家族の病気や障害のことを隠してきた方々が、さらに周囲との距離が出来てしまっていると感じる。(支援者)

○ 今までは、何とか本人が前向きになって出てきてくれたら、仕事を始めてくれたらと期待して待っていた家族が「何も起こさないでいてくれれば」「外に出て問題を起こすくらいなら、今のまま何もせずに終わって欲しい」「(何か事件を起こす前に)もう殺した方がいいのかもしれない」という発言が聞かれる方もいた。(支援者)

○ 当事者よりご家族が気を遣っているように感じるとの話があった。普段なら両親は「今日は作業所へ行かないのか?」と聞くのに事件後は、「朝ごはん食べたか?」など当たり障りのないことを聞くようになった。(支援者)
  以上
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標題 「黒い雨」訴訟判決の控訴に対する声明
日付 2020年8月21日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫)
 
 私たちは、平和を擁護し、社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重および全人的存在の原理に則り、人々がつながりを実感できる社会への変革と社会的包摂の実現をめざす専門職であり、多様な人々や組織と協働することを言明する組織です。

 広島地方裁判所は2020年7月29日に原爆投下後に放射性物質を含んだ「黒い雨」を浴びて生じた健康被害による被爆者健康手帳の交付申請を却下したのは違法とし、処分の取消しを求めた訴訟で、70〜90代の男女84人(うち9人は死亡)全員の却下処分を取消し、被爆者と認めて手帳を交付するよう命じる判決を言い渡しました。

 この判決では、黒い雨に放射性微粒子が含まれ、直接浴びる外部被曝に加え、井戸水や食物の摂取における内部被曝が想定できると指摘されており、原告らの被害主張は信用できるとしています。また原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)(以下「法」という。)が「原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」と定める3号被爆者に該当すると断じています。この判決によって、75年の長きに渡って「黒い雨」による健康被害にさらされながらも、制度的支援の対象外に置かれてきた人々への支援の道が開かれることが期待されましたが、被告である広島市と広島県は、国の要請を受け、この判決に対し、控訴する方針を決定しました。

 法の前文においては、「被爆後五十年のときを迎えるに当たり、我らは、核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし、原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう、恒久の平和を念願するとともに、国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策」を講じることが明記されています。
 また、調査に基づくと言われている大雨地域の線引きは、そのことによって被害者を区分することとなり、実際に被害があっても制度からこぼれ落ちる人々が生まれる等の限界と弊害があります。私たちソーシャルワーカーは制度の狭間にあるこれら人々の生活課題に個別に向き合い支援します。広島では、これまでも「原爆被害者相談員の会」と医療・福祉機関等に従事するソーシャルワーカーが、長期間に亘る被爆者に対する支援等を展開してきました。

 私たちは、ソーシャルワークの原理と実践の観点から、被害者の個々の声を真摯に受け止め、控訴に対して反対の意思を表明するとともに、終戦75年の節目を迎え、大雨地域の線引きを乗り越えて、現に健康被害がある方の1日も早い救済を強く求めます。

[PDF版はこちら(227KB)]

 
【構成員の皆さまへ】「黒い雨」訴訟に係る構成員からの寄稿について(2020/09/07)



標題 旧優生保護法被害者の国家賠償請求訴訟に関する声明
日付 2020年8月7日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫)

 2020年7月現在、旧優生保護法の下で強制不妊手術等の被害を受けた24名の原告による国家賠償請求訴訟が全国8カ所で提起されていますが、2019年5月28日の仙台訴訟、2020年6月30日の東京訴訟のいずれも原告敗訴の判決結果でありました。

 旧優生保護法に基づく強制不妊手術は1955年をピークにその後漸減し1992年の1件を最後としますが、その間に全国の保健所、医療機関、障害者支援施設等においてソーシャルワーカーの配置が進んだことを考え合わせると、私たちソーシャルワーカーがこの重大な人権侵害に直接的に加担してきた可能性を否定できないこと、加担はしないまでも人権と社会正義を活動の原理としてきたはずのソーシャルワーカーがこの事態に問題意識をほとんど持たずにいたことが浮かび上がってきます。このことは、かつてのらい予防法の下でのハンセン病の人びとに対する強制隔離政策に、広い意味でソーシャルワーカーが加担してきたこととも符合します。らい予防法の廃止と同じ1996年に優生保護法は母体保護法に改正され、強制不妊手術等の規定は削除されましたが、法改正後も被害回復を訴え続ける当事者の声に私たちは無関心であったことを認めざるを得ません。

 私たちソーシャルワーカーは、身近に起きていた重大な人権侵害を見過ごしてきたことへの反省の念と謝罪を表明するととともに、今後の裁判の動向を注視し、国策による人権侵害を司法府が認め、特別立法成立への道が開かれること、旧優生保護法被害者の皆さんの真なる被害回復が成されていくことを求め、下記の通り見解を表明します。

 
  1 旧優生保護法の下での優生手術は憲法違反です。

 国が定めた法律に基づく優生手術は、憲法第13条 「個人の尊重、生命・自由・幸福追求権」、第14条「法の下の平等」、第36条「拷問及び残虐な刑罰の禁止」等に反しており、明らかな違憲です。

 旧優生保護法の違憲性が認められることは、被害回復の真の実現につながることにとどまらず、社会に根付く優生思想の克服への追い風となり、すべての国民に対する国の信頼回復を意味します。

2 国策による「人生被害」に対し、20年という除斥期間を適用することは社会正義・公平に著しく反するものです。

 強制手術という事実によるさまざまな偏見・差別や近親者との葛藤、永久に子どもができないという現実を抱えた精神的・身体的苦痛は、被害者にとって今も続く「人生被害」であると言えます。歴史的な過ちに対する国の謝罪を求め、勇気を持って訴訟に踏み切った被害者が、裁判によりこれ以上「人生被害」を重ねることがないことを強く願います。

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標題 生活保護基準引き下げを巡る名古屋地方裁判所判決にかかる抗議及び要望について
日付 2020年7月31日
発翰番号 JAPSW発第20-121号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先 29都道府県の地方裁判所 所長 様 
 
 本年6月25日に名古屋地方裁判所が生活保護費減額違憲訴訟に対する原告の請求を全面棄却したことは、精神障害やメンタルヘルス課題を中心としたソーシャルワークの実践者・教育者・研究者の団体である本協会としましては、到底容認できるものではありません。

 この裁判は、2013年から2015年にかけて3度に渡って行われた生活保護基準引き下げに対する、全国29都道府県における1,000人規模の原告と約300人の弁護団による違憲訴訟であり、生活保護利用者が地域や年齢階層や世帯構成の別なく、生存権保障を求める画期的な集団訴訟です。

 本協会は、最初の判決となる名古屋地方裁判所の判断が今後の各地での裁判と世論に与える影響を危惧し、抗議するとともに下記のとおり要望いたします。
 
  1.生活保護基準の適切性の判断は、客観的で測定可能な根拠に立脚してください。
 憲法第25条が規定する生存権保障を具現化するためには、裁判長が容認した『国民感情』のような曖昧で恣意性のあるものに、「健康で文化的な最低限度」の判断根拠を委ねるべきではありません。
 『国民感情』への配慮は、生活保護受給者に対するバッシングやスティグマの黙認とも受け取れますが、貧困の要因を個人に帰する考え方は改められるよう司直に要望いたします。

2.生活保護基準の引き下げによる社会的弱者の増大を回避してください。
 今般の引き下げは、全被保護世帯の96%に、平均6.5%、最大10%の削減幅で影響が及んだとされることに加え、住民税の非課税限度額や就学援助の対象者等の決定基準、医療・障害福祉サービスの減免区分にも影響し、健康で文化的な最低限度の生活の危機に晒されている人を捕捉しきれず、社会的弱者や生活困窮者を増大させた可能性は否定できません。
 なお、コロナ禍での経済活動の停滞により失業者が急増し生活保護を必要とする状況は誰にも起こりうる現状に鑑み、裁判所には、生活保護制度が生存権を保障する重要な役割を果たすことを深慮した判決を求めます。

3.生活保護基準の決定における厚生労働大臣の裁量を抑制してください。
 厚生労働大臣が、自ら省内に設置した有識者会議である社会保障審議会生活保護基準部会等の専門家の検討結果を謹聴せず、『国の財政事情』による生活保護基準を決定することを裁判所が是認すれば、専ら厚生労働省内での密室化した検討に偏り、官僚主導で随意の政策決定を看過することになりかねません。
 三権分立における法の番人として、司法には厚生労働大臣の裁量権の濫用防止の機能を期待いたします。

 なお、本協会は、精神保健福祉士の全国団体として、地域共生社会の実現に向けて精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進し、誰一人とり残されないよう社会正義の実現を追求するとともに、社会的弱者の権利擁護に務める立場から、一連の裁判の動向に注視するとともに、国に対しては以下を要望することにいたします。

<要望事項>
 貧困の自己責任論を明確に否定するとともに、必要な人が確実に生活保護を受給できるよう憲法第25条に基づく生存権保障の考え方を正しく社会に知らしめ、その実現のための財源を国の責任において確保してください。

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標題 生活保護基準引き下げを巡る訴訟判決についての声明
日付 2020年7月17日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫)、一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟 会長 白澤政和

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標題 新型コロナウイルス感染影響下における現場実習の実施について(お願い)
日付 2020年7月14日
発信者 公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子
提出先  一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟 会長 白澤政和 様

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標題 地域共生社会の実現に向けた社会福祉士及び精神保健福祉士の活用に関する附帯決議に対する声明
日付 2020年6月12日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木一惠、公益社団法人公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫)
一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟 会長 白澤政和

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標題 2021年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた要望書
日付 2020年5月29日
発翰番号 JAPSW発第20-43号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木一惠
提出先  厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 部長 橋本泰宏 様

[PDF版はこちら(267KB)]


標題 新型コロナウイルス対応に関する要望について
日付 2020年5月21日
発翰番号 JAPSW発第20-30号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木一惠
提出先  厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 部長 橋本泰宏 様

 平素より本協会事業に格別のご理解、ご協力を賜り、深く感謝申しあげます。
 また、新型コロナウイルスの感染拡大対策に連日ご尽力いただいておりますことに敬意を表します。このような状況の中、国から感染防止対策及び障害福祉サービス全般の取り扱いについて通知やQ&Aを積極的に発信していただき、現場での不必要な混乱を避けることができていると存じます。今後とも引き続き積極的な発信をお願いいたします。

 さて、今般の新型コロナウイルスの拡大で国全体として経済への打撃、また失業者の増加など懸念される課題が表出されていますが、精神障害者およびご家族にとっても今までの生活が脅かされている現状があります。また、精神科病院等で入院中の患者に対して、クラスターの発生予防の観点から面会が制限される状況も続いています。

 つきましては、そのような精神保健医療福祉の現場の実情を踏まえ、下記の通り、要望いたしますので、ご高配のほどお願いいたします。
 なお、就労関係については、労働分野全体で検討されていることと存じますが、障害福祉関連事業に関する要望としておりますことを申し添えます。

 
 
1.障害福祉サービス事業所等の感染症対策のために、市町村のネットワークを強化してください
 障害福祉サービス事業所等(以下「事業所」という。)で感染があった場合の迅速な対応のために、各利用者の併用している事業所のリスト化を全市町村に呼びかけてください。この実践はすでに愛知県半田市などで行われています。障害福祉サービス等を併用している利用者からの感染拡大を防ぐために、併用している事業所へ早急に情報提供する必要があります。
 該当の事業所は感染症対策でその対応までできない状況にありますので、その役割は、市区町村と基幹相談支援センターの運営事業者が責任を持って担う必要があります。事業所ごとに利用者の併用サービスがわかるようにリスト化するよう働きかけてください。また、市区町村を跨って障害福祉サービスを利用している場合もあることから、市区町村ごとに全国で共通した様式に基づくリストを作成し、事業所において感染が発生した場合の併用事業所への速やかな情報提供が可能とする枠組みを構築いただき、国から周知してください。

2.IT機器の積極的な活用を促進してください
 精神科病院などでは、感染拡大防止のため患者との面会が禁止になっているところが増えており、地域移行支援をしていたとしても、現在対象となる人への支援ができない状況にあります。また、障害福祉事業所等でも休業や利用制限している施設が増えてきていますので、IT機器などを積極的に活用し、オンラインによる面会や相談支援ができる体制を構築してください。すでに大阪府堺市では、希望する施設にタブレット端末を無償で貸し出し、オンライン面会を支援する動きがでていますので、このような取り組みを全国的に広げてください。

3.就労支援事業所の生産活動収益等の減収に対し適正な補償をしてください
 就労支援系の事業所については、社会全体の大幅な経済活動の低迷の影響を受けて生産活動収益の減収が顕著になってきています。生産活動収益の減収分を訓練等給付費から充てることで利用者の賃金補償は可能ですが、事業所全体の収入減を避けることはできません。このまま事業所の経営が不安定になり、運営が滞ることになると利用者や家族の不安がより一層高くなると懸念しています。安定した事業所運営を維持していくために、生産活動収益等の減収に対し適正な補償をお願いいたします。

4.休業期間中の就業障害者のサービス利用の調整を図ってください
 感染流行地域を中心に、休業している企業が多くあり、雇用されている障害者が自宅待機となって所在ない日々を送っているのではないかと危惧しております。可能であれば、本人の希望によって休業期間中の障害福祉サービス利用が可能となる方策を講じてください。臨時的な対応として、サービス等利用計画書の作成を省略して、例えば就労前に利用していた事業所の利用を認めるなど、柔軟な対応とその際の事業所への報酬担保をお願いします。また、休業している企業に雇用されている障害者がどのような状況にあるかを把握し、必要なサービスにつなげるよう市町村への働きかけをお願いいたします。

5.緊急対応の相談支援に必要となる物品を支給してください
 マスクなどについては、障害者福祉サービス事業所に配布されていますが不足状態が続いています。また自治体によっては、相談支援事業所に感染予防の品物が届いていない地域もあります。相談支援事業所は、感染症が拡大し障害福祉サービスの利用ができなくなった場合、代わりの障害福祉サービスを緊急に調整するなど、必要な生活支援のコーディネートを行います。そのような緊急の支援に出向く際、十分な感染防止の衛生用品が行き届いていない地域があります。マスク・消毒液・ガウン・ゴーグルなど市場では品薄で全く入手できない感染予防に必要な物品の安定した支給を求めます。

   [PDF版はこちら(166KB)]
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標題 新型コロナウイルス感染症について(会長メッセージ)
日付 2020年4月28日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木一惠
提出先 構成員の皆さまへ


 新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方々及びご家族・関係者の皆さまに謹んでお悔やみを申しあげますとともに、罹患された方々に心よりお見舞い申しあげます。

 今世界中が、新型コロナウイルスによる感染症の脅威に曝されています。日本においても確認された感染者は1万人を超え、介護現場や保健医療福祉現場は混乱し、救急医療体制は崩壊寸前、世界経済も恐慌の一歩手前、現時点でも社会全体が受けた打撃の深刻さは言葉に表すこともできません。

 皆さまも全く先の見えない状況の中、感染の不安と感染させる恐怖におびえながら、日々をお過ごしのことと思います。普段と変わらず勤務されている方もいれば、テレワーク等を活用し在宅で仕事をされている方、休校になったお子さんや介護サービスが使えなくなったご家族のために休業を余儀なくされている方もおられると思います。またコロナ対策のため日常よりさらに過酷な労働環境に置かれている方もおられると思います。この厳しい状況の中にあって、精神障害者の命と暮らしを守るために奮闘されている皆さまに心からの感謝と敬意を表したいと思います。

 行政機関、医療機関や障害福祉サービス事業所、介護事業所等、私たちの仕事の多くは社会を支えるために必要不可欠であり、自分や家族の健康だけではなく、市民や患者や利用者それぞれ対象とする方々の命や健康や権利を守る責務を負っています。私たちはそのことに誇りをもって働いていますが、コロナ感染が拡大する中、それが二重三重にも負荷となって心身を疲弊させておられないでしょうか?構成員の皆さまには、まずはご自身とご家族の健康を守ることを第一に考えていただくようお願いします。

 その上で、コロナウイルス感染拡大がもたらす様々な影響をソーシャルワーカー(以下「SWer」という。)として注視していただきたいこと、お願いしたいことをお伝えしたいと思います。

1.精神障害のある方の不安や孤立感に寄り添ってください
 今精神科病院の入院者は面会、外出・外泊などを厳しく制限されていると思います。病院にお勤めの方は、ストレスフルな環境を少しでも改善できるよう知恵を絞っていただければと思います。一方地域で暮らす精神障害者はデイケアや地域活動支援センターなどの居場所が閉じられ、望まぬ引きこもり状態に置かれています。就労支援事業所が開いていても恐怖から利用を控えている人もいるでしょう。テレビやネット上に流れる不確かな噂や情報が不安を煽っている状況もあります。緊張と孤立を深める中で、心身のバランスを崩す人が今後ますます増えてくるのではないでしょうか。面接や訪問も憚られる状況の中、電話や手紙、メールなどの手段を工夫し、不安を和らげ、孤立を防ぐ配慮をすでにされていること思います。地域で働く皆さまには感染対策や経営上の不安を抱えながらの運営の苦労は察するに余りありますが、なお一層の注意を払って精神障害者の命と暮らしを守っていただきたいと思います。

2.コロナ禍がもたらす様々な社会問題、メンタルヘス課題に注意を払ってください
 緊急事態宣言のもと、休校・休業要請がだされ、多くの人々が一日中自宅にとどまらざるをえなくなりました。そのような中、DV、子ども虐待、高齢者虐待など身近な他者への暴力が顕在化しているとの情報もあります。感染不安だけでなく経済的な不安を背景に緊張が高まり、憎しみや怒りを身近な存在に向けるのでしょう。様々な制約から依存症の深刻化も危惧され、それが家族への暴力の背景にあることも否定できません。今後は倒産や失業に追い込まれ、経済的破綻からうつ病の発症や自殺リスクも高まるのではないでしょうか。
 ウイルスが封じられても、世界恐慌に並ぶ可能性もあるという経済への痛手は、もっとも弱い立場にある人たちを直撃し、困窮の波間に沈めていくのではないか。貧困の拡大がさらにメンタルヘルス課題を深刻化させていくのではないか。その恐怖に身がすくむ思いです。まだ私たちが具体的に何ができるかを明示することはできませんが、SWerとして看過できないことだけは心に刻んでいただければと思います。

3.感染した精神科患者の受け入れ体制の整備が必要です
 精神科病院で陽性患者が発生したという報告が徐々に上がってきています。それでなくても密度の高い閉鎖空間にウイルスが入り込めば、高齢者や身体合併症を持つ人も多い精神科病棟の感染爆発は避けられません。軽症の人はできる限りその精神科病院で対応することとされていますが、感染症に関しての知識や経験、あるいは地域によってもバラつきがあることが想定され、一般科と比しても少ない人員、十分な防護具の備えもなくはたして対応可能なのか、また重症化した場合に速やかに転院を受け入れてくれる医療機関はあるのか、あるいは新規の入院希望者が陽性であった場合、受け入れ拒否、たらい回しということも起こってくるのではないか。切迫した現実はすでに起きつつあると思います。精神障害があるというだけで命の選別がされてはならないことは言うまでもありません。しかし救急医療体制や精神科医療体制の脆弱さを改善しない限り、使命感や熱意だけでは命を守ることはできません。医療体制などの課題で受け入れや治療が困難とされることに対し、各都道府県がどのように体制整備をしているか、受け入れる総合病院や公立病院とのネットワークは構築されているのか、構成員の皆さまには自分の地域がどのような体制構築がなされているのか関心を払っていただきたいと思います。その不備については国や自治体に責任ある対策を講じるよう要望していかなければならないと思います。

4.コロナ感染にまつわる差別や偏見に対し、強い姿勢で臨んでください
 「ホモ・デウス」の著者である歴史学者が朝日新聞のインタビューで「我々にとって最大の敵はウイルスではない。敵は心の中にある悪魔です。憎しみ、強欲さ、無知。この悪魔に心を乗っ取られると、人々は互いを憎み合い、感染をめぐって外国人や少数者を非難し始める。これを機に金儲けを狙うビジネスがはびこり、無知によってばかげた陰謀論を信じるようになる」と語っています。この悪魔はすでに跳梁跋扈をはじめ、ふだんは見えにくい社会の矛盾や病理を様々な場面で噴出させています。感染者に対する差別的な言動、医療従事者やその家族にまで及ぶという心ない仕打ち、保健所等相談窓口に寄せられる理不尽な要求や苦情など、ウイルスは人の悪意まで増殖させていくようです。エイズ、結核、ハンセン病など感染症には差別や偏見による嫌がらせが宿命のようにつきまといます。感染症ではありませんが精神障害者もつねに人々の無知と無理解に曝され社会から排除されてきました。精神障害者と共にそれと戦ってきた私たちは無知や偏見による差別を最も鋭く感知できるSWerのはずです。精神保健福祉士は直接的なウイルスとの戦いの最前線には立てません。しかし二次的に起こってくる差別や社会の荒廃には立ち向かうことができるのではないでしょうか。差別を許さないというメッセージを身近な現場から地域に発信、そして社会への発信が必要ではないかと考えています。

5.こんな時こそ、つながりを大切に!
 本年9月に予定されていた第56回全国大会をはじめとして協会が主催する多くの研修会やイベントが中止もしくは延期に追い込まれています。構成員同士がひざを突き合わせ、話し合う機会も奪われています。けれどつながること、悩みや問題を共有し、共に戦うことは可能です。協会が構成員の皆さまのつながりの場を提供することができるように、一人一人の声を集約し、社会へ発信すること、関係省庁に要望を挙げることなどに努力していきたいと思います。
 ぜひ皆さまの現場で、コロナウイルスの影響により直面している問題・課題について声をお寄せいただきますようお願い申しあげます。

 繰り返しになりますが、私たち支援者が感染予防に対し最大限の配慮と努力をすることが、結果的には支援される方々を守ることにもなります。どうぞご無理をなさらないで、この難局を乗り越えてください。皆さまとお会いできる日が一日も早く来ることを祈っています。

  [PDF版はこちら(370KB)]

 
【構成員の皆さまへ】
 新型コロナウイルスの影響に関しての現場での問題・課題について声をお寄せください。
 ※受付を終了しました。ご協力ありがとうございました。(2020/07/01)

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