要望書・見解等

2005年度


標  題 障害者自立支援法における居住支援施策に関する見解
日  付 2006年2月7日
発 信 者 精神保健従事者団体懇談会 代表幹事 伊藤哲寛・香山明美・樋田精一
提 出 先 社会保障審議会 障害者部会(部会長・委員)

 精神保健従事者団体懇談会(精従懇)は、障害者自立支援法における居住支援施策に関して、本年1月28日の第111回定例会において検討を行いました。その結果、この問題に関する基本的事項について、精従懇の見解を以下のとおりまとめました。

 委員の皆様のご参考になることを心から期待して、送付させていただきます。


1.障害者の居住支援施策については、次の基本的原則の確認がなされるべきである。

(1)障害者が地域社会の一員として生活できるよう支援体制を整備すること
 公営住宅や民間賃貸住宅への入居を支援するための施策を、公営住宅優先入居や公的保証人制度等、講じること、併せて精神障害者の場合は、ACT等の包括的地域生活支援体制を全国的に構築することが重要である。このような観点からの支援施策を第一に追求するべきであり、既存の病棟や施設の転換あるいは病院・施設敷地内での居住施設新増設等による安易な社会的入院・入所の解消が図られてはならない。

(2)三障害で格差のない支援施策を講じること
 偏見が強いことを理由に障害者の居住施設サービス体系に特例を設けるべきではない。精神障害者の場合、精神病床に関する特例がいかに長期にわたってノーマライゼイションを阻害し、社会的偏見を助長してきたかということに改めて留意されなければならない。

(3)精神障害に関する偏見の是正や啓発の積極的推進を図ること
 精神障害に関する偏見の是正や啓発を、上記の原則に立った居住支援サービス施策の推進を通して進めることが必要である。精神障害に関する偏見の是正や啓発は、精神障害を持つ人々が地域社会の中で生活することによって初めて進められてきたことを全国各地の実践が示しているし、そのようなことなしには実効性の乏しいものとなる。


2.既存の、精神保健福祉法による福祉ホームや生活訓練施設(援護寮)が、自立支援法の中に居住支援施設として位置付けられるのは、あくまでも経過措置として容認される。その場合、以下の基準による見直しが必要である。

(1)入居者が地域社会の一員になれたと実感できるような管理運営がなされること
(2)当事者および第三者による公正な評価や監査が行われるようにすること


3.新事業体系の中に位置付けられる新規の居住支援サービスにおける居住支援施設については、上記基準の他に、以下の原則の確認がなされるべきである。

(1)病院敷地外に設置すること
(2)居住の場にふさわしい小人数の規模とすること

▲上へもどる

標  題 障害者自立支援法施行における居住支援施設について(要望)
日  付 2006年2月2日
発翰番号 JAPSW発第05−147号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 ・厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部長 中谷比呂樹
・社会保障審議会 障害者部会(部会長・委員)

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、今般の障害者自立支援法により、精神障害者が地域生活を送ることに関するこれまでの資源整備の立ち遅れを取り戻し、さらに社会的入院者にとっての受け皿整備にもつながるように体制整備の確かな実施が必要となります。

 つきましては、当該体制整備において重要となる居住支援施設に関して、下記の通り要望いたしますので、充分なる議論とご高配を賜りますよう、何卒よろしくお願い申しあげます。


1.新設の居住支援施設(グループホーム、ケアホーム等)は、病院の敷地外設置を推進してください。

[理由1]精神障害者の地域生活支援施策の現状に関しては、街の中に居住支援施設を設置するに際したコンフリクトが強く、設置計画が困難となった事例も少なくありません。そのため、現状では生活訓練施設をはじめとする居住支援施設が病院の敷地内に有する資源(病棟転換利用や職員寮等の利用)の活用により整備されてきた旨の認識を持っております。その際の居住支援施設設置の根拠については、精神保健福祉法における精神障害者社会復帰施設(以下「社会復帰施設」という。)の位置付けでもありました。
 しかし、今般の障害者自立支援法においては、グループホームやケアホーム、福祉ホームは居住支援資源として新事業体系等に位置付けられることになっています。社会復帰施設でなく居住支援資源であるとすれば、医療を提供する病院の敷地内に設置されるものではなく、人的・物的交流が自然に行われる街の中に設置されるべきものと考えます。

[理由2]精神疾患は誰もが罹りうる疾患です。また、精神障害者であっても、自己決定に基づく適切なサポートを受けながら街で暮らすことが可能であり、ノーマライゼーションの理念に則した生活といえます。
 そのことについて国民の理解と認識、協力を得るためにも、精神障害者の居住支援施設に関しては、病院の敷地外設置を推進することが求められます。
 一方、精神障害者に対する偏見差別が根強いことを理由に、居住支援施設を街中に設置することが困難として、病院の敷地内への設置も認めるべきとの意見があります。
 しかしながら、病院の敷地内に新たに居住支援施設を設置すれば、街中への施設設置や整備の“不要論”につながりかねず、精神障害への偏見差別を助長することに結びつくことが懸念されます。また、地域から長く隔離され収容処遇を受けてきた精神障害者が、街に出て行くこと、もしくは街に馴染む暮らしを図るための支援を妨げるものです。現状病院の敷地内に設置されている居住支援施設に暮らす精神障害者からは退院の実感や地域生活の実感を持ちにくいという声も聞かれます。

 なお、上記内容を基本的原則として要望いたしますが、地域への居住支援施設の整備が極めて困難なために、病院の敷地内にある資源の有効活用等による居住支援施設設置を足がかりとして整備を進めることが現実的に必要不可欠な場合においては、明確な地域生活への移行計画を伴ったうえで認可することも考慮すべきです。
 また、病院の敷地内にある居住支援資源に住まう精神障害者の日中活動の場は、敷地外資源を利用するなど、地域生活を実感できるバランスのある資源利用をサービス利用計画の中に組み込むべきと考えます。


2.居住支援施設の規模は、居住の場にふさわしい少人数の規模にしてください。

[理 由]今般示されたグループホームの基準では、1か所あたりの最少基準人数は2人であり、事業者単位では4人以上の利用者が確保されれば良いとされるサテライト方式が認められたことは評価に値します。
 介護保険制度における居宅系施設サービスでは、早期から在宅生活との整合性を持たせるべく、多床室による集団的なケアから個室化やユニット化が促進されています。精神障害者のケアにおいても、集団的・画一的ケアの弊害がいわれる中、居住支援施設は生活の場に移行する過程の位置付けとして整備されることを考えるとき、地域における生活の場の形態としては、小規模であることが望ましいと考えます。
 また、最大人数については検討中とのことですが、現在の社会復帰施設における生活訓練施設等の定員20人については、5年間の新事業体系移行期間中に段階的に小規模化していくことは可能と考えられ、新規のサービス事業体系規模としての設定は小規模としていただくように要望するものです。


3.精神障害者の居住支援に関して、関係省庁の連携による総合的施策の具体化を推進してください。

[理 由]障害者自立支援法は国の障害者施策の柱となる実定法として、障害者の地域における自立生活を推進するために成立したものと認識しています。昨年末には公営住宅法施行令が改正され、精神障害者も単身入居が可能となり、全国の自治体に対して厚生労働省と国土交通省の連名による通知がなされました。
 また、国の「障害者を施設から地域へ」という施策推進における課題のひとつである住宅確保の問題に関して、一部マスコミの報道では、国土交通省において単身入居が可能な障害者の範囲を見直すことにより、民間住宅における障害者の入居促進を図る考えがあるとの情報がありました。入居にはサポート体制が不可欠であり、今年10月に施行される市町村での地域支援事業のひとつである居住サポート事業と連携した展開が望めるものと期待しております。
 さらに、市町村が居住支援資源の整備に関する具体化を障害福祉計画策定等で積極的に取り組むこととともに、国及び都道府県による指導や支援が併せて必要と考えます。
 こうした政策方向の更なる促進のために、関係省庁がより一層連携し、精神障害者への偏見差別の解消にむけた具体的施策が総合的に展開されることが必要です。
▲上へもどる

標  題 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」の運用に関する要望について
日  付 2006年1月24日
発翰番号 JAPSW発第05−137号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 ・厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神保健福祉課長 新村和哉
・法務省 保護局 総務課長 山田憲児
・法務省 刑事局 刑事課長 甲斐行夫
・最高裁判所 事務総局 刑事局 第1課長 稗田雅洋

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下「医療観察法」という。)が昨年7月に施行され、すでに同法の対象者の審判及び処遇が実施されているところです。また、法施行に当たり、入院処遇ガイドラインをはじめとする各種ガイドラインが示され、それらに則った処遇が実施されていることと存じます。

 しかしながら、当該法が規定する鑑定入院における対象者の処遇のあり方に関して、当協会として若干の危惧を抱いているところです。

 また、すでに通院処遇の決定が下され、当該対象者に対する医療観察法に基づく地域内処遇も始まっておりますが、自治体によってはいまだ十分な連携体制を取れずにいるところも散見されます。

 つきましては、医療観察法の適正な運用のために下記の通り要望いたします。

1.最高裁判所・厚生労働省・法務省の共管による鑑定入院処遇ガイドラインを早急に定めてください。

[理由]
 医療観察法の対象者は原則として地方裁判所の裁判官による鑑定入院命令により、鑑定その他医療的観察を受けることとなります。しかしながら、法施行から現在まで鑑定入院中の具体的な処遇ガイドラインは示されておりません。

 鑑定入院については、入院中の責任の所在が明確になっていないとともに、対象者の処遇に関しても法律上何ら規定がありません。つまり、入院鑑定中の対象者の権利保障および行動制限のあり方等が入院を受ける医療機関の判断に任されている状況にあり、その処遇に恣意性が働きかねないことを強く危惧します。

 このため、鑑定入院中の対象者の処遇については、少なくとも1)精神保健福祉法が規定する入院中の処遇に準拠すること、2)鑑定の客観性と適切な治療を確保するため、鑑定医師と主たる治療担当医師は原則として分けること、3)入院中の行動制限はあくまでも治療上の必要性に照らして行うこと、等を明記したガイドラインを早急に定める必要があると考えます。


2.対象者の地域社会における処遇の円滑な実施のために、以下の事項につき特段の配慮をしてください。
1) 法務省と厚生労働省の連携をより一層深め、継続的かつ定期的な協議の場を持ってください。
2) 各都道府県における地域ネットワークの強化を図ってください。 
[理由]
 通院決定を受けた対象者は、指定通院医療機関における医療を受け、保護観察所による精神保健観察の下で生活をすることとなります。当該対象者の生活については、精神保健福祉法に規定する精神保健福祉サービスの提供により支援していくことが想定されており、当然ながら地域内の関係機関・施設が地域ネットワークを構築していくことが求められています。

 医療観察法の施行に先立ち、「地域社会における処遇のガイドライン」(法務省保総第595号/障精発第0714003号)が通知されておりますが、自治体によっては当該ガイドラインが十分に活用されず、保護観察所と自治体・精神保健福祉主管課等との協議の場さえ持てずにいる所もあると聞いております。
当該ガイドラインに謳われているように、まずは法務省と厚生労働省の連携の強化及び地域社会における処遇の実施体制についての情報の共有の促進を通して、地方厚生局、指定医療機関、保護観察所、都道府県・市町村等の関係機関相互の連携協力が円滑に行われるよう、具体的方策を構ずることが肝要と考えます。
▲上へもどる

標  題 障害者自立支援法施行に伴う市町村への精神保健福祉士配置に関する緊急要望について(お願い)
日  付 2005年12月12日
発翰番号 JAPSW発第05−115号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一、社団法人日本精神保健福祉士協会都道府県支部支部長、都道府県精神保健福祉士協会会長(※)都道府県により発信者が異なります。
提 出 先 厚生労働大臣 川崎二郎

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、10月31日に成立し、11月7日に公布された障害者自立支援法(以下「法」という。)においては、ご承知のように、障害者の自立支援に関する障害福祉サービス利用における相談支援事業や障害程度区分判定システム、審査会などが市町村において整備提供されることとなりました。また、障害福祉計画策定などこれからの障害福祉サービス基盤の整備にむけた重要な役割も市町村に課せられております。

 これらの仕組みが有効に運営されますことは、障害者が身近な街で自立と社会参加を果たし暮らしを豊かに営むための大きな前進であると考えます。

 しかし、同時に市町村における財政事情や人的資源の整備状況には格差もあり、短期間に整備する困難さを心配するものです。

 私たちは、精神障害者の社会復帰や地域生活支援に関し、日常的な援助活動を業務とする精神保健福祉士を構成員とする民間団体ですが、精神障害者の自立支援は、疾病や障害特性を十分に理解し、精通した者があたることが必要であると考えております。

 つきましては、法施行に伴う様々な制度施策体制整備にあたって、私たち精神保健福祉士の活用をご検討いただきたく、お願い申しあげる次第です。

 ご不明な点等ございましたら、本協会事務局または支部・地区協会事務局までお問い合わせいただければ幸いです。


<同封資料>
 ・支部及び地区協会情報一覧
 ・リーフレット「社団法人日本精神保健福祉士協会のご案内」
▲上へもどる

標  題 障害者自立支援法における障害程度区分の判定に係る緊急要望について(お願い)
日  付 2005年11月28日
発翰番号 JAPSW発第05−107号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 厚生労働大臣 川崎二郎

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、10月31日に成立し、11月7日に交付された障害者自立支援法(以下「法」という。)については、200を越える事項が政省令に委任されており、今まさに策定作業の只中にあると存じます。

 当該法の施行においては、障害者基本法の基本理念にのっとり、障害者の自立と社会参加が真に促進され、現在の障害者の地域生活水準が後退することなく、脱施設化を促進することが可能となるよう、政省令等の策定において十分な配慮が求められます。

 本協会においても、本協会の構成員が全国各地で対象者への援助を展開する中において、当該法を熟知活用し、精神障害者の地域生活支援の充実に寄与してまいりたいと考えているところです。

 つきましては、下記事項について特段のご配慮を賜りたく、緊急に要望させていただきますので、何卒よろしくお願い申しあげます。

1.障害程度区分判定事業において、そのソフト・ハードの両面に「精神障害」の障害特性が反映される仕組みを整備してください。

<理由>
 法成立前に実施された「障害程度区分判定等試行事業」(以下「試行事業」という。)の結果、法に規定される障害福祉サービスの利用に結びつかない精神障害者が多数存在するというシステム上の課題が明らかになっています。

 とくに、2次判定においては、疾病特性及び調査に反映されにくい生活障害に精通した者が審査委員として選任されないと、精神障害者の障害福祉サービス利用率は低くなってしまいかねません。

 現段階の説明では、試行事業における2次判定の27項目を1次判定のコンピューター判定システムに取り入れることが検討されていると伺っております。精神障害特性を障害程度区分判定に汲み上げられるように、あらためてその有効性とフォローアップの仕組みへの配慮をお願いいたします。

 また、退院をめざして治療やリハビリテーションを受けている入院中の精神障害者が、居宅介護や共同生活援助、その他、法の規定する障害福祉サービスを活用できることは、社会的入院の解消にむけて、極めて有効な支援システムになると考えられます。政省令の策定にあたっては、退院にむけて取り組んでいる入院患者のスムーズな地域移行を可能とするために、外出や外泊訓練中、また入院先においても地域生活支援の視点から障害状況を掌握し、制度利用の相談や申請が有効に行えるような仕組みへの配慮も併せてお願いいたします。

 最後に、今後の自治体等への制度広報においても、社会的入院解消の視点の取り入れをご説明いただけるようにお願いいたします。
▲上へもどる

標  題 「障害者自立支援法案」の審議に係る緊急要望について(お願い)
日  付 2005年10月16日
発翰番号 JAPSW発第05−82号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 衆議院 厚生労働委員会(委員長、理事、委員)

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、先の第162回国会(常会)において上程、審議された「障害者自立支援法案」(以下「旧法案」という。)は、障害保健福祉施策全般にわたる見直しを図るものであり、障害者の生活をはじめ、地方自治体、関係者等に与える影響は極めて大きいものがあると認識されました。

 それゆえ、国会に招致された参考人をはじめ、多くの障害者団体、当事者、家族、関係者等の意見や要望により、衆議院での可決段階では原案の2項目に修正が加わり、また2項目の附則が付き、更には11項目の附帯決議が付きました。しかしながら、衆議院解散という政治事態に伴って、旧法案は参議院での審議途中において廃案となりました。

 障害保健福祉施策の見直しにあたっては、障害者の生活実態や、この間の施策展開の方向性、障害者や家族、関係者等の運動が歴史的に積み重ねてきた成果との整合性の検証を図ることなど、極めて丁寧な対応が求められます。

  ご承知のように、衆議院議員選挙は、郵政民営化関連法案を選挙争点の中心に置いたものであり、第163回国会(特別会)は、短期間の会期にもかかわらず、いくつかの重要法案が審議されています。

 そのひとつとして、再上程された「障害者自立支援法案」(以下「法案」という。)は、わずか23時間程の審議時間をもって、14日の参議院本会議で可決され、18日からは衆議院において審議が始まろうとしています。

 先にも触れましたが、当法案は、障害者の生命や暮らしに与える影響が極めて大きいことから、衆議院での審議におきましては、決して急くことや疎かにすることがないよう、下記の事項について特段のご配慮を賜りたく、緊急に要望いたします。


1.法案審議には十分な時間をかけ、徹底的な議論を尽くしてください。

<理由>
○法案審議の過程において、政省令等に委任される実質的な障害福祉サービス等の内容や検討材料とされた基礎的データを提示していただき、国会の場における懇切な説明によって、「自立」と「社会参加」を切望する障害者やその家族、関係者等が十分に審議過程を納得することが必要です。

○利用者負担の見直しに当たっては、障害基礎年金受給率の低さ、雇用政策の乏しさ等から、精神障害者の所得に関する厳しい現状も踏まえた配慮が不可欠と考えます。こうした工夫を通じて、生活水準の維持や障害福祉サービスの利用の確保をはかり、病状の悪化や重度化を招かないようにすることが必要です。定率負担を単純に導入することは、家族への依存を脱して障害当事者の自己決定による「自立」という方向を難しくしかねないとも危惧しており、こうした不安に応えられるよう、丁寧な議論が必要と考えます。


 最後に、障害者自立支援法案では、一部の医療制度に関し、「自立支援医療制度」として障害福祉サービス制度と並べて位置付ける提案がなされていますが、障害のある人の地域での暮らしを支えるためには、生命や健康を維持するための医療制度と生活支援施策としての福祉制度は、それぞれの法制度を持ちながら、有機的な連携の方策が検討されるべきと考えます。

 約7万人の社会的入院者の問題をはじめとして、精神医療には未だ課題が多く、今後の医療制度改革において、引き続き、その改善を求めます。
▲上へもどる

標  題 「障害者自立支援法案」の審議に係る緊急要望について(お願い)
日  付 2005年10月6日
発翰番号 JAPSW発第05−79号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 ・厚生労働大臣 尾辻秀久
・参議院 厚生労働委員会(委員長、理事、委員)

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、先の第162回国会(常会)において上程、審議された「障害者自立支援法案」(以下「旧法案」という。)は、障害保健福祉施策全般にわたる見直しを図るものであり、障害者の生活をはじめ、地方自治体、関係者等に与える影響は極めて大きいものがあると認識されました。

 それゆえ、国会に招致された参考人をはじめ、多くの障害者団体、当事者、家族、関係者等の意見や要望により、衆議院での可決段階では原案の2項目に修正が加わり、また2項目の附則が付き、更には11項目の附帯決議が付きました。しかしながら、衆議院解散という政治事態に伴って、旧法案は参議院での審議途中において廃案となりました。

 障害保健福祉施策の見直しにあたっては、障害者の生活実態や、この間の施策展開の方向性、障害者や家族、関係者等の運動が歴史的に積み重ねてきた成果との整合性の検証を図ることなど、極めて丁寧な対応が求められます。

 ご承知のように、衆議院議員選挙は、郵政民営化関連法案を選挙争点の中心に置いたものでした。第163回国会(特別会)は、短期間の会期にもかかわらず、いくつかの重要法案の審議が予定されています。選挙争点の中心とはならなかった「障害者自立支援法案」は、再び上程されることが9月30日の閣議にて決定されました。

 選挙結果を受けて審議を急くことや疎かにすることがないよう、新法案について下記の事項について特段のご配慮を賜りたく、緊急に要望いたします。


1.法案審議には十分な時間をかけ、徹底的な議論を尽くしてください。

<理由>
○法案審議の過程において、政省令等に委任される実質的な障害福祉サービス等の内容や検討材料とされた基礎的データを提示していただき、国会の場における懇切な説明によって、「自立」と「社会参加」を切望する障害者やその家族、関係者等が十分に審議過程を納得することが必要です。

○利用者負担の見直しに当たっては、障害基礎年金受給率の低さ、雇用政策の乏しさ等から、精神障害者の所得に関する厳しい現状も踏まえた配慮が不可欠と考えます。こうした工夫を通じて、生活水準の維持や障害福祉サービスの利用の確保をはかり、病状の悪化や重度化を招かないようにすることが必要です。定率負担を単純に導入することは、家族への依存を脱して障害当事者の自己決定による「自立」という方向を難しくしかねないとも危惧しており、こうした不安に応えられるよう、丁寧な議論が必要と考えます。


 最後に、障害者自立支援法案では、一部の医療制度に関し、「自立支援医療制度」として障害福祉サービス制度と並べて位置付ける提案がなされていますが、障害のある人の地域での暮らしを支えるためには、生命や健康を維持するための医療制度と生活支援施策としての福祉制度は、それぞれの法制度を持ちながら、有機的な連携の方策が検討されるべきと考えます。

 約7万人の社会的入院者の問題をはじめとして、精神医療には未だ課題が多く、今後の医療制度改革において、引き続き、その改善を求めます。
▲上へもどる

標  題 平成18年度診療報酬改定に関する要望について
日  付 2005年10月4日
発翰番号 JAPSW発第05−78号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 厚生労働省 保険局 医療課長 麦谷眞里

 平素より本協会の活動に対しまして、ご理解、ご協力を賜り深く感謝申しあげます。

 さて、本協会は「精神障害者の社会的復権と福祉のための専門的・社会的な活動をすすめる」ことを組織活動の基本方針とし、精神科医療機関においてもチーム医療を推し進めるとともに、精神障害者の社会参加の促進のために精神科医療機関の枠組みの中に従事する社会福祉及び保健福祉専門職としての役割を担ってまいりました。

 長年の悲願であった「精神保健福祉士法」が1997年12月に制定されるに至り、それまでの同法案の国会審議過程におきまして、医療機関に従事する精神保健福祉士と診療報酬制度との関係が議論され、政府答弁といたしましてその専門的業務の特性から「診療報酬上」での財源保障を公約していただいております。

 2004年9月に厚生労働省精神保健福祉対策本部から「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が公表され、その内容は「精神保健医療福祉改革の基本的な考え方」から始まり、各重点施策として「国民意識の変革」、「精神医療体系の再編」、「地域生活支援体系の再編」、「精神保健医療福祉施策の基盤強化」の内容で構成され、これから10年間の精神保健医療福祉再編の方向性が明示されました。また、精神疾患や精神障害に対する正しい理解を国民に求め、10年後を目途に精神保健医療福祉を「入院治療から地域生活中心へ」へと推し進めることや「受け入れ条件が整えば退院可能な約7万人」を解消することが示唆されております。

 その様な中、精神科医療機関等に所属する私たち精神保健福祉士は、入院患者の社会復帰促進の強化と、そのために必要な医療機関内外に渡るチーム医療の形成及びその環境調整が極めて重要であると考えています。

 以上の様なことから、次回の診療報酬改定にあたりまして、精神科医療機関における精神保健福祉士の専門的援助業務を、国家資格者に相応しく診療報酬制度上において適正に評価されますように、別紙のように強く要望いたします。

<別紙>
・平成18年度診療報酬改定に関する要望事項及び要望理由(PDF/184KB
▲上へもどる

標  題 臨床心理士及び医療心理師法案について(お願い)
日  付 2005年7月26日
発翰番号 JAPSW発第05−57号(1、2)
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 ・衆議院厚生労働委員会 委員長 鴨下一郎
・厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神保健福祉課 矢島鉄也

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、本年7月5日に開催された「医療心理師(仮称)国家資格法を目指す議員の会」と「臨床心理士職の国家資格化を通じ国民の心のケアの充実を目指す議員懇談会」の合同総会において、「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)」が承認され、現在各党において党内手続きが進められていることと存じます。

 本協会は、医療心理師国家資格制度推進協議会に団体として名前を連ね、医療・保健領域における臨床心理技術者の国家資格化に基本的に賛意を表してまいりました。

 今般示された「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)」については、いささか疑問がありますが、現時点では臨床心理技術者の国家資格化が実現することが何よりも重要であるとの認識に立っております。

 つきましては、「臨床心理士及び医療心理師法(案)」が今通常国会に提出され成立するよう、(※貴職をはじめ関係者のより)一層のご尽力をお願い申しあげます。

※2)の文書のみ
▲上へもどる

標  題 「障害者自立支援法案」の審議に係る緊急要望書
日  付 2005年6月29日
発翰番号 JAPSW発第05−30号
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一
提 出 先 衆議院厚生労働委員会(委員長、理事、委員)

 平素より障害保健福祉施策の推進にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。

 さて、ご承知のように今国会に上程された「障害者自立支援法案」(以下「法案」という。)は、障害保健福祉施策全般にわたる見直しを図るものであり、障害者の生活をはじめ、地方自治体、関係者等に与える影響は極めて大きいものがあります。

 障害者施策の見直しに当たっては、障害者の生活実態や、この間の施策展開の方向性、障害者や家族、関係者等の運動が歴史的に積み重ねてきた成果との整合性の検証を図ることなど、極めて丁寧な対応が求められますが、この点において、当該法案の提出は拙速に過ぎたとの感を拭い切れません。

 このため、今後の当該法案及び関係法改正案の審議におきましては、下記事項について特にご留意いただきたく、緊急に要望いたします。

1.精神障害者通院医療費公費負担制度を継続してください。
 以下の理由から、精神障害者通院医療費公費負担制度(以下「制度」という。)については、現行制度(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第32条)としての継続を強く要望いたします。

1)当該制度は、精神に障害のある人々が地域生活を維持するために必要な医療受診や服薬を適切に継続することを保障し、また、再発悪化の防止や自殺予防のためにも不可欠な制度です。

2)「自立支援医療費」への移行により、精神通院医療費として応益(定率)負担制度を導入することは、精神障害者やその家族への負担強化となり、必要な医療受診の中断等を引き起す要因となりかねかせん。

3)社会的に精神障害者に対する差別偏見が根強い現状の中で、当該制度は通院維持を図る施策として大きな役割を担ってきたものです。また、グランドデザインで謳われている、今後10年間で計画されている約7万人の退院促進のためにも欠かせない制度です。


2.十分な時間と議論を法案審議に尽くしてください
 政省令等に委任される実質的なサービス等の内容が不明な段階での法案審議であることから、懇切な説明により、「自立」と「社会参加」を切望する障害者やその家族、関係者等が十分に納得できるよう、時間をかけ、慎重な審議が行われることを強く求めます
▲上へもどる

標  題 「障害者自立支援法案」に関する見解
日  付 2005年6月16日
発 信 者 精神保健従事者団体懇談会

 本法案は、精神障害者施策に関する問題だけでなく、障害者施策全般にわたって必要な社会的基盤、条件が整備されない中で、ひたすら財政的事情のみを先行させて提案され、可決成立が図られていると見えてなりません。拙速の余り、国の障害者施策の大綱を逸脱し、障害者福祉の現場に重大な混乱をもたらすことが危惧されます。本法案の趣旨、重要性からしても全国民的な議論がまだまだ必要であり、国会は、本法案の今会期での可決成立のみを求めるのではなく、全国民的な議論の上に立って十分な審議を尽くされることを切に要望します。


1.私たちは、これまでのフォーラムで、障害種別の福祉法を廃し、かつ、障害者の権利及び障害者差別禁止条項をもりこんだ「障害者福祉法」を制定することを主張してきました。しかし、本法案が制定されても障害種別の福祉法は残り、また障害者の権利や障害者差別禁止を内容とする法案も準備されていません。今回の法案は障害者施策の基本的な視点を欠いたものであり、私たちは、今後の障害者福祉のあり方について根本的な危惧を抱かざるを得ません。

2.「障害」は、そもそも、障害者個人の責任に由来するものではなく、国が障害者の社会的自立に向けた施策を講じる責務を負い、地方公共団体は障害者が必要とするサービスをきめ細かく提供する義務を持つとされ、従来の障害者施策は不充分とはいえこの原則によって行われてきていると私たちは理解しています。本法案は、サービスの効率的な提供の観点から制度化を急ぐあまり、この原則が放棄されているのではないかと危惧されます。
 本法案は、健康保険や介護保険と同様な保険制度の導入を前提に「応益負担」制度を強化し、障害基礎年金からの利用料徴収と「生計を一にする者」への利用料負担対象の拡大を意図していますが、社会的自立を目指しその途上にある障害者を保険制度の主体とすること、障害者の経済保障の一つとしてあった障害基礎年金から利用料を徴収することにはいずれも根本的な疑義があり、仮に「応益負担」制度を導入するとしても利用料算定はあくまでも障害者本人の所得を基礎とすべきと考えられます。障害者基本法でうたっているように、障害者福祉がノーマライゼイション理念に基づく全国民的な課題である以上、それに要する費用は国家財政から支出するのが原則ではないでしょうか。

3.精神障害者福祉施策は、身体、知的障害者福祉施策に比して、社会的資源が種類・数ともに少なく、それらのマンパワーや運営費等の質的な面でも大きく立ちおくれており、この格差を解消することを私たちは以前から求めてきています。こうした格差を解消する具体的な計画が示されないままに本法案が提起されています。この状態で本法案が成立し施行されるならば、これらの格差が固定化されることが危惧されます。国には、これまでの精神障害者福祉施策の著しい立ちおくれに対する責任を明確にし、その立ちおくれを解消する具体的な計画を先に示すことが求められます。加えて、本法案では発達障害を有する人々が対象から外されていることも問題であります。


精神保健従事者団体懇談会 加盟団体一覧
(2005年6月16日現在)

国立精神医療施設長協議会、社団法人全国自治体病院協議会精神科特別部会、全国精神医療労働組合協議会、社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会、特定非営利活動法人全国精神障害者地域生活支援協議会、全国精神保健福祉センター長会、全国精神保健福祉相談員会、全国保健・医療・福祉心理職能協会、全日本自治団体労働組合衛生医療評議会、地域精神保健・社会福祉協会、社団法人日本作業療法士協会、日本児童青年精神医学会、日本集団精神療法学会、社団法人日本精神保健福祉士協会、社団法人日本精神科看護技術協会、社団法人日本精神神経学会、日本精神保健看護学会、日本総合病院精神医学会、日本病院・地域精神医学会、日本臨床心理学会(以上20団体、五十音順)

▲上へもどる

標  題 「障害者自立支援法案」についての見解
日  付 2005年5月11日
発 信 者 社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 高橋 一

 昨年10月12日、厚生労働省障害保健福祉部から「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」(以下「グランドデザイン案」という。)が社会保障審議会障害者部会に提出公表された。その実定法としての「障害者自立支援法案」が2月10日に閣議決定のうえ、同日国会上程され、4月末の提案理由説明を経て、本日5月11日に衆議院厚生労働委員会において審議入りした。

 本協会は、「グランドデザイン案」に対して、精神障害者の社会参加促進の妨げとなることが危惧される事項に焦点を絞り、2月4日、見解を公表した。

 今般の「障害者自立支援法案」によって明らかになったグランドデザインの全貌を見ると、改正を伴う関係法律が精神保健福祉法を初め、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、社会福祉法など37にもおよび、115の条文を持つものであることから、この法律案が成立を見れば歴史的な大改革となる。法施行が段階的に計画されており、法内容が規定される政令、省令が明らかになるのも段階的であることから、未だ具体的内容をすべて掌握検討できるところにはない。

 ついては、本協会としては、現時点での「障害者自立支援法案」(以下「法案」という。)に関する見解と提言を以下のとおり示すものである。

<基本的な視点>

 施設制度やサービス提供体制の障害種別を超えた一本化、福祉窓口の市町村移行と「市町村障害者計画」策定の義務化、基幹事業の義務経費化等は、一定評価できるものである。今回施策の方向性として組み入れられた、1)障害があっても安心して街で暮らすこと、2)障害種別間の格差是正、3)縦割り制度の弊害改善、4)施設単位から個人単位への支払方式への転換、5)激変を繰り返さないという意味合いでの制度の持続性の確保等は、従来から各障害団体や関係団体が要望してきたことが反映されている。

 しかし、現存する身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法は、一部改正を見るものの、障害種別毎の福祉法として残されることとなる。統合化を謳いながら、難病等を初めすべての障害が網羅されていないことの課題も残る。

 また、最大の論点でもある「応益負担」制度については、障害者の生活実態として最低限の生活保障も未だに整っていない現状を踏まえれば、障害者の所得保障や雇用促進に関する政策を検討整備することが優先課題であり、現段階では認めがたい。障害者基本法の目的や理念にも掲げられているように、障害者が自立生活および社会参加を果たすことへの支援は公的責任によるべきである。「応益負担」論は、所得保障政策やさまざまな機会均等や差別禁止施策等が整備され、最低限の自立生活や社会参加を果たした上で、尚且つ生活を豊かにするための支援が選択可能なサービスメニューとして整備されて初めて受け入れられるものであろう。

 当該法案は確かに長年の障害福祉領域の課題改善に着手している。しかし、改革の基本的視点には、効率論優先、市町村への急激な体制整備及び施策実施の委譲に伴う国家責任の後退、障害者福祉政策の税から保険への転換の開扉、規制緩和による障害者福祉のビジネス産業化への道筋等がはっきりと汲み取れる。今回は見送られた介護保険制度への部分的統合化の継続検討等からも、今我々は大きな政策転換の流れの入り口に立っている認識を持つべきである。同時に少子高齢・慢性疾患増加・経済の低迷化等による医療費増加、年金保険・健康保険の負担増、要介護者増という社会状況の変化のなか、日本の社会保障システムと社会福祉のあり方が問われていることも隠しようのない事実である。そのことを認識しつつ、我々が譲れない足元の現状を政策に反映するべく検討の視点が問われているのである。


<精神障害者福祉政策に関する個別課題>

1.「応益負担」に関して見直すこと

 1)現行の精神保健福祉法第32条「通院医療費公費負担制度」がなくなり、自立支援医療に関する応益負担を求められるようになることは、明らかに医療費の増加を抑制するための仕組みに他ならず、認めがたい。他障害の公費負担医療制度との公平性を理由に挙げられるが、他障害については入院医療費に関しても公費負担がある。精神医療においては入院制度自体が自らの意思で選択し利用を求める形がすべてではない中で、そうした施策がない。現状においても、当事者のみならず医療機関側にもある手続きの煩雑さや、精神医療を受けていることを知られることへの当事者・家族の抵抗から、制度利用が高いわけではない。また、自立支援医療というには程遠い精神科医療機関の地域偏在や実質的に残る精神科特例による医療の質量の低さをそのままにし、地域の救急医療や医療相談、訪問医療、往診制度などの求められる体制整備課題の有効な解決策を示さないまま、「益」にかなった負担を説くのは筋が通らないことである。手帳制度による福祉サービスなどの「益」も他障害と比しても少なく、高い交通費をかけて遠方の医療機関に通う精神障害者は多く存在する。今でもこうした病状による事情ではなく、医療を受けることに関する環境的背景から、当事者が受診できず家族が代理受診したり、薬のみ受け取っていたり、送薬ばかりで診察を殆ど受けていないなどの現状は精神医療の課題として見過ごせないものである。サービスの過剰給付の適正化を図るためには、障害認定の厳密化や審査における地域格差などを是正していくことが優先課題として挙げられるべきである。

 2)介護給付や訓練給付として再編される生活支援や就労支援に関しての「応益負担」についても、先ずは、精神障害者自らが負担をしてでも選べるサービスメニューや所得保障を整え、安心して利用できる環境を作ることが優先されるべきである。そして家族に気兼ねをせずにあたりまえの地域生活を送れるように本人の所得に応じた負担を検討する必要がある。また、就労支援といっても、雇用側の企業や労働行政における障害者の雇用促進策は殆ど着手されない中での、福祉的な就労支援において、利用料を課すことは、かつて身体障害者授産施設などで費用徴収制度を行ったときと同じく、施設利用の中断を促進するような結果に陥るものである。就労訓練の場は就労受け入れの場がないからこそ必要な場であり、労働行政として障害者がその特性を十分に発揮して働きうる場や職種や環境などのありかたの検討を早急に進めることが求められる。


2.市町村における精神障害者生活支援体制整備への国の役割と責任を明確化すること

 1)生活に身近な市町村に福祉サービスの窓口が置かれ、サービス提供が行われていくことは、精神障害者の地域生活支援にとってはもちろん望ましいことである。同時に、精神疾患や精神障害者に対しての正しい理解を促すことを目的とした指針「こころのバリアフリー宣言」にも謳われている施策推進にもつながりうる。しかし、障害者計画の整備状況を見ても、保健所などの統廃合化の動きなどからも、各市町村の精神障害者福祉施策は大変に格差が激しく、且つ全体として貧しい状況にある。この現状において、精神障害者福祉の主体が急激に市町村に移ることは大いなる危惧を持つ。精神医療の地域偏在や精神医療による福祉的な囲い込みは歴史的で政策的に福祉政策の遅れを招いてきた。この軌道修正をすべて市町村の責任で行うことには困難が伴う。このため各市町村が策定する障害福祉計画に、精神障害者のニーズが反映され、その自立意欲の促進を喚起しうる必要な自立支援サービスが提供されるように、国は責任を持って基盤整備を推進させる必要がある。

 2)市町村のサービス利用申請窓口および利用判定業務に障害特性に精通した専門家を配置することが必要である。市町村の審査会には精神保健福祉士を含むことを求める。相談支援事業者にも精神保健福祉士の配置基準を設けることが必要と考える。支援決定内容への不服申請に対応する機関にも精神障害に精通した精神保健福祉士を含むことを求める。


3.障害認定のあり方に関して早急に検討を進めるとともにその情報を開示すること

 1)介護給付を中心に障害認定のあり方は、現行の介護保険における要介護認定システムの活用が予定され、それぞれの障害の認定および特に当事者の生活支援ニーズを掌握する方法として課題が多くある中で整備されようとしている。精神障害の特性を反映した障害認定の基準や尺度に関する検討を早急に進めることを求める。また、障害種別による介護給付と訓練給付で用いる認定尺度、基準などの違いをシステムに丁寧に反映できる工夫の検討も同様に求める。

 2)障害者が自立生活や社会参加を果たすことの支援には、できないことへの介護支援に加えて、できることや可能性を伸ばしていくエンパワーメントの視点を取り入れた障害認定と生活支援ニーズの把握とを併せて、ケアマネージメントしていく姿勢が求められる。こうしたケアマネージメントの体制整備を早急に図ることを求める。


4.真のノーマライゼーションの早期実現を求める

 1)2004年9月に厚生労働省精神保健福祉対策本部が示した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」にも掲げられた、精神障害者の脱施設化と地域ケアの実現には幾つかの関連法の改正が求められる。
 まずは、医療法および診療報酬制度の見直しに伴う、実質的な精神科特例を廃止し、一般科並みの医療水準を確保することが求められる。また、未だに権利侵害事件も多い現状を省みる際に、精神科医療の透明性と情報開示、実効性の高い権利擁護体制を整備することが求められる。障害者福祉の総合化に向けた手帳制度の調整も早急な検討を要する。障害者の差別禁止法の制定なども求められる。障害者雇用促進法における雇用義務規定も障害種別間の整合性を早期に図っていくべきである。

 2)10年かけて解消すると計画されている「受け入れ条件が整えば退院可能な者約7万人」のうち、1年以上の長期入院者については、自立生活や社会参加のために残されている時間が極めて少ない者も多く含まれる。ケアマネージメント体制や住居・ケアホームなどの体制の早急な整備と退院促進事業の継続的な財源保証を求めるものである。

 3)現在の精神保健医療福祉施策や諸制度を利用してなんとか地域生活を維持している障害者の現状が後退するようなことは決してあってはならないものであり、自立支援法案が自立や社会参加の阻害とならないように、制度全体のモニターシステムを国・都道府県・市町村の各レベルで設定し機能させていくように求める。


 精神障害者の福祉政策に関する個別課題を示したが、これらの各障害種別の福祉課題への取り組みは、ひいては障害の有無を問わずすべての国民が安心して地域社会で生きることができる施策に通じるものと考え、真摯な取り組みへの要望も含み見解とする。
▲上へもどる

△前のページへもどる